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「けけけ、吠えるのう。下僕が偉そうな口を聞くんじゃないの。犬は犬らしく、ご主人様の命令にしたがっておればいいんじゃ。尻尾でもフリフリしてろ」

ケタケタと愉快に笑う巨人。

「皇子様からはお姫様だけしか通してはならないと言われとるんじゃ。お前らはそこで待っていればいいんじゃよ。いやんならこの会談は取りやめになるだけですわ。それに、そもそも会いたい言い出したんは、そこのお姫様なんじゃからのう」


人狼の騎士がゆらりと前へと歩みだしそうになるのを、王女が目で制する。

「……わかりました。彼らを連れて中に入ることは認められないということですね」


「そうじゃ」


「それは兄様の命ということで良いでしょうか」


「わしゃ、クリスティアン様の命令を守るだけじゃ」


王女は少し考えた後、答える。

「わかりました。では、ランドルフ、いいですね。お前達はここで待っていなさい」


「いや、しかし、……姫様一人で何があるか判らない場所へ行かせるわけにはいきません。万一、何かがあったらどうするというのですか。姫様にもしものことがあったら、私たちは死んでいった仲間に顔向けできません。お願いです。せめて私一人でもいいですから同行させてください」

懇願するランドルフ。


「あーあーあー五月蠅いのう。駄目じゃ、駄目。ごちゃごちゃ言ってないでさっさと決めるんじゃ。お姫様一人で行くか、会談は取りやめにするのか。こっちはどっちだっていいんじゃ」

両手をふりふりして、面倒くさそうに喋る巨人。しかし、よく見ると何故か汗ばんでいる。それに落ち着きがなくなり、やたらときょろきょろと城の方を見る。誰かの指示待ちのように見えるんだが。


「おい。なあ、おっさん」

黙っていたジーンズの少年が突然喋る。


「なんじゃい、糞チビ」


馬鹿にした巨人を全く気にもとめずに話し続ける。

「さっきから見てたんだけどさあ、おっさん。こんなに寒いところなのに、なんで汗かいてんの? 暑いのか? それとも何かあんのか」


「ふ、ふえ? ははん。お前、しらねーんじゃの。巨人族はもともと寒いところに住んでいるから、寒さは気にならないんじゃ。むしろ暑がりなんじゃ。ふふふ。だから裸でいられるんじゃよ」


「へー、そうなんだ。俺はてっきり、何か焦っているように見えたんだけど、気のせいなのかなあ? 」

バカにした口調で少年は言う。


「な、……んな、わわわけ無かろうて。あいや、も、もうゴジャゴジャ五月蠅く言うんじゃ終わりにするぞ」

と、不自然にあたふたと答える巨人。


「やっぱり姫様、行くのやめた方がいいよ。コイツら、なんか企んでるよ、絶対に」

と少年が忠告する。


それでも王女は首を横に振る。

「ショウ、忠告はありがとう。でも、それはできないわ。やはり、わたしだけが行きます行かなければならないの。……安心しなさい。もし罠があったとしても、お前達が駆けつけるまでは持ちこたえてみせるわ。わたしはお前達を信じています。何かあっても直ぐに駆けつけてくれることを、ね」

余裕の笑顔を騎士達に見せる。


「なあ、姫様。でもね……」


「解りました。姫がそう仰るのなら我々は従います」

ショウと呼ばれた少年の言葉を遮るようにランドルフが言う。

「何かありましたら直ぐにご連絡を。決して無理をなさらぬように」


「ふふふ。ランドルフもショウも心配しすぎね。大丈夫よ、兄様は信頼できる方なのだから。それからラスムスとランプレヒト、安易な挑発に乗らないようにね。クリスハルト、この短気な二人をよろしく頼みます」

そう釘を刺され、エルフと人狼が苦笑いを浮かべる。クリストハルトと呼ばれた小柄な騎士は頷く。


確認が済むと再び部下たちを見て頷き、王女はスタスタと歩みをすすめる。

従者達は不安を感じながらも、それ以上何も言えずに王女を見送るしかなかった。



王女が跳ね橋を渡りきり、奥へと進んでいくと、なぜだか巨人がほっとしたような顔をした気がした。王女を見送ると、門の上から飛び降り、巨大な棍棒を持って巨人が立ちふさがった。

残された騎士達が変な行動をおこせば、即、力づくで止めるつもりのようだ。

騎士達もこれ以上何もできないということで各々が適当な場所に座り込んだ。騎士の格好をしていない男だけがこれまたこの世界には異質なノートパソコン型の機械のキーボードを叩きだした。


さて、俺はどうすればいいんだろう。……考えるまでもないよな。俺はこの世界には存在しないもの。彼らからは見えない。俺の行動は誰にも止められないんだから。

ここで待っていても仕方がない。慌てて意識は彼女の後を追う。



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