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第37話 封印魔術の起動

かなり久しぶりの投稿です

「あなたの……いえ、我が眷属たちの想いは無駄にはしません。必ず私は生き延びて見せます。だから、ショー、あなたも己が使命を全うしなさい」

その迷いなき、強き言葉。


もはや彼女には迷いはない。

いつでもそうだ。

常に姫様は強かった。いや、彼女の置かれた立場がそうさせたのだろう。たとえどんな苦境にあっても、強くあろうとしていた。その小さな体の奥底でどういった想いがあったかは、想像するしかない。

この絶望しかない状況の下でも彼女は前に進むことを決意してくれた。


ショーには、思い残す事はない……。とまでは言えないが、なすべきことはほぼできた……と思う。逝った者たちの想いには応えられたはずだ。

あとは最後の一手をなすだけだ。


残された時間は少ない。


すぐ近くまで強大で邪悪な存在が接近してきている。


「それでこそ姫様です。これで私も思い残すことはありません」


「……ごめんなさい」

と、唐突な言葉。

「私にもう少し力があれば。もう少し早く手を打つことができたなら。……あなたたちにこんな思いをさせなくて済んだのに」


「謝罪など不要ですよ、姫様。私たちにとって常に姫様の言葉が正しいことなのですから。姫様が考え行動したことを、私たちは全肯定し、受け入れます」


「ごめんなさい」

それでも姫様は謝り続ける。


「しかたない方ですね。姫様はお優しすぎます。……その想いは、向こうの世界で出会う者たちのためにお使いください。消えゆく私たちにはありがたいですが勿体ないことです。姫様のお優しさは姫様にお使いするであろう者のために置いておいてください」

それがショーの想いである。

向こうにどんな世界があるのかは分からない。

どういった種族がいる世界なのか、どんな文明なのか。世界の状況は平和なのか混沌なのか。敵はいるのか、味方はいるのか。すべてはショーにはわからない。

できることなら自分も姫様と共に向こうの世界に行って、姫様をお守りしたい。けれどそれは詮無き願い。


かなうはずもない。


今は姫様の無事を祈るしかできない。


「……」


「向こうの世界はどんな世界なんでしょうね」

とショーは問いかける。

「もしかすると、私がいた世界かもしれませんね」


「ショーのいた世界はどういう世界なのでしょう」

少し考えこんだ末、姫様が問いかける。


「この世界より未開で、もっともっと混沌としていて、善意と悪意が入り乱れ、虐げられ救いを求める者がたくさんいる世界です。はっきり言えば平和ではありません。けれど、活気のある世界です」

懐かしい光景が浮かんでくる。

結局、元の世界に戻ることはできなかったが、こちらの世界も決して悪いものじゃなかった。ここで異世界転生物語が終わりを迎えるのはさみしいものがあるけれど。

結局、自分は物語の主人公にはなれなかったようだから。


「そうですか。もしも、あなたの世界に行けるのなら、行ってみたいものですね。あなたが暮らした世界を見てみたい」


「ははは。まあ、最初はショックを受けるかもしれませんが、わりといい連中もいますからね」

会話の途中に地響きの音。

どうやら追手が来たようだ。

「もう時間がありません。姫様、お行きください」


姫様も敵の襲来が近いことを感知したようだ。

「わかりました。……ショー、ありがとう」


「はい。……もし、本当に姫様がたどり着く世界が私のいた世界であるなら、月人家を頼ってください」


「ツキヒト? 」


「はい。私たちの世界では相当に力を持つ家系です。くそったれな奴らばかりですが、一人だけまともな奴が、姫様のお役に立てる奴がいますから」

ふと懐かしい顔が浮かんだ。


「その者の名はなんというのですか」


「シュウ……月人柊といいます。あいつらなら信頼できます。あいつらなら」


「そうですか。ツキヒトシュウ……その名前、憶えておきましょう」


濃密な邪悪が迫ってくる。


「さあ、姫様。お急ぎください」


「わかりました。……ショー、あなたは最後の任を完遂しなさい。そして、これまでありがとう」

最後のほうは言葉が震えているのをショーは感じ取った。


「ありがとうございます」

ショーの言葉に返答は無かった。ただ、姫様の気配が遠くへと消えていくのは感じ取れた。


高速でこちらに接近するものの気配。


「ふふふ。いくつも仕掛けた嫌がらせのトラップはほとんど効果がないようだな。普通の生物ならわりとかなりのダメージを受けるんだけどなあ。時間稼ぎにすらならんか」

思わず感心してしまう。

「さて、最後の……あいつらへの嫌がらせをしておくかな」


我が人生、最初で最後の発動となる封印魔術だ。

すでに起動準備は完了している。


奴が姿を現した。

少しだけ狼狽した表情を浮かべたのをショーは見逃さなかった。


ニヤリと笑うと発動させた。


「ざまあみろ。お前らみたいな糞ったれどもに、俺たちの姫様に触れさせてやるものかよ」

汚く罵ってやった。


姫様がいたら騎士として相応しくないと叱られたかもしれない。

けれど、最後だから許してくれますよね。……マリオン様。




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