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第31話 その覚悟

 巨人族にとっては、あまりにも理不尽な死が訪れたわけである。当然、彼らも黙って死を受け入れるようなはずもなく、すぐさま組織的な反抗を開始する。


 身長3メートルを超す巨体を駆使した肉弾戦を得意とする戦闘スタイルを持つ。さらにその耐久力と細胞再生能力が驚異であり、王族の兵団に組み込まれていた時は前衛として活躍した。王族より与えられた魔法兵器及び防具を手にしたことで、弱点を補いその戦闘力は相当なものとなっていた。

 王女の逆鱗に触れたとはいえ、他の王族は巨人族に対して敵意を持っていない。様々な根回しを慎重に行うことで王族に取り入っていたこともあり、ある意味楽観していた部分もあったのだろう。

 生意気な王女の鼻っ柱をへし折ってやるだけの簡単な仕事だ。……そう考えていた。


 しかし、王女の騎士団の本当の能力を巨人達は見誤っていた。

 何度も共同で戦線を張った事もあり、騎士団の力もある程度把握していたつもりだった。多めに見積もって、巨人族の2倍程度の戦闘力。……それが最大値だと思っていたのだ。

 ならば数に圧倒的に勝る巨人の敵になるはずもない。

 たった1000人の兵力など、たとえ精鋭であろうとも数の力の前に蹂躙されるしかないのだ。最初の全面衝突の時の巨人族の司令官の考えであり、種族全員の考えだった。


 そして、その見積もりの甘さを、圧倒的な力を持ってたたき込まれることとなる。


 騎士団の力は、王女の意志によって可変することができ、通常時は本気で戦っていなかったのだ。此度の巨人族との決戦において、王女はその能力を解放し、力を騎士全員に送った。それはあまりにも圧倒的であり、騎士が剣を一振りするだけで、数十の巨人が瞬殺されるほどのものだった。真っ正面からぶつかりあった二つの勢力の趨勢は瞬時に決定された。

 十数万の重武装兵士を擁した巨人族であったが、わずか数分で壊滅することとなる。生き残った巨人達は必死の思いで逃走するが、騎士団の追撃は容赦なく、次々と処断されていった。


 王女の怒りは凄まじく、たとえ子供であっても、生まれたばかりの子であろうとも容赦はしなかった。巨人という種そのものを滅ぼすの勢いで徹底的に攻勢を加え続けた。


 しかし、その苛烈なまでの徹底した攻撃が、王女にとって思わぬ妨害を産むことになる。


 これまで何度も巨人族の活躍によって支えられてきた王族の一部が、王女の行動を窘める動きを見せたのだった。これは巨人族の政治的活動で得られたコネの成果でもあったが、恥も外聞も無く助けを求める哀れな姿に、王族の長が同情したという部分が大きかった。


 自らの種族の長が出てきて、王女にこれ以上の虐殺を止めるように言い渡された。

さすがの王女もこうなっては振り上げた手を下ろすしかなく、不満が相当に残されていたようであるものの、攻撃を中止せざるをえなかった。


 巨人族に対しては、異種族の女性を拉致監禁することを厳重に禁ずるとともに、今回の騒動に加担した者の処罰が命じられた。

 巨人族の人口の七割をたった一人の王族の少女の怒りにより殺戮され、騒動は終焉を迎える。彼らの中に、王女に対する激しい憎悪だけを残して。


「あれは巨人族に問題があったからだ。それ相応の事を行った報いを受けただけだろう? 多くの女性が酷い目に遭わされたのだから」


「巨人族は、雄しかいない種族だ。子孫を残すためにはやむを得ないことなのだ。たったそれだけのことで、巨人族の七割もの人が理不尽に殺されたのだぞ。赤子であろうと容赦なくな……そんなことが許されるのか? 私は許せない。ただただ、個人的な嫌悪感のみであまりの多くの血が流されたのだ」

 吐き捨てるような口調でランドルフが王女を非難する。

 たったそれだけ? 攫われて孕まされた女性達にとって、どれほど恐ろしく屈辱的で絶望的な思いをさせられたかについて、想像が及んでいないようだ。


「確かに、王女はやりすぎたのかもしれない。けれど、巨人族もあまりにゲスな真似をしすぎた。王女がやらなくても、誰かが巨人族を処断しただろう。……そして、もう済んだことだ。ランドルフよ、お前は巨人族の仇を討つために、王女の騎士となったのか? 」


「違うな。私は望んであの女の騎士となったわけではない。王族によって全てが皆殺しにされた街にやってきた王女が、死にかけの俺たちを見つけて契約を迫ったのだ。何がなんだかわからないまま殺されかけていた私は、藁にも縋る思いで生を望んだのだ。それが親の敵、種族の仇とも知らずにな。……王女は自らの手で私の親や親類、同胞を皆殺しにしながら、おもしろ半分の気持ちで私達生き残った者を下僕にしたのだ」


「姫はそんな人では無いはずだ。何か意図するところがあったから、お前と契約を結んだはずだ」

王女がどういった想いでランドルフと契約したかなど、ショーには分かるはずもない。けれど、なんの意味もなく行動するような人では無いことだけは分かっている。


「単なる同情心でしかないだろう。流石に血みどろで転がっていた幼い子供を殺すのは忍びなかったんだろう。……直接見ることがなければ、単なる路傍の石に過ぎなかったはずだ。それと、私が巨人族の出来損ないと分かったからだ。……偉大なる巨人族の真の子であった者は容赦なく殺されているからな」

 聞いたことがある。

 巨人族と異種族の雌の間に生まれる子は、巨人族の血を濃く反映した巨人直系族となるもののと、背丈は人間とあまり変わらない、顔も巨人のそれとは異なる人間型に別れる。彼らの中では、巨人となる者とそうでない者とは明確に峻別され、差別されている。優秀な遺伝子を持つ巨人の子と、できそこないの混ざり者に分けられるのだ。

 混ざり者の子は、力も耐久力も大幅に劣るため、一生奴隷のような生活を運命づけられることとなる。仮に戦闘に出るとしても、華々しい戦場で剣を振るえるのは巨人直系の者のみとなり、できそこないは荷物持ちや盾代わりの捨て駒として生きるしかできないのだ。

「何も知らなかった私は、王女に認められようと必死になった。どんな過酷な任務さえ望んで挑んだ。助けて貰った恩義があったからだ。……しかし、やがて気づかされる」

 天を仰ぐようにして、ランドルフは憎々しげに語る。

「自分たちを皆殺しにした張本人の為に必死になって働かされていた事にな。それを気づかされた時、本気で絶望したよ。……王女のあの笑顔の為にこの命いつでも捨てる覚悟があると思っていたのにな」


「その事を何時知ったんだ、ランドルフ」


「10年前、巨人族の一人が教えてくれたよ。私の事も知っていて、彼が壊滅した巨人の街の生き残りだと言っていた。彼により全てを知らされ、私が今後何を為すべきかを助言してくれたよ」


「10年も前から復讐の機会を伺い続けていたというのか? 姫から様々な恩恵を受け、騎士団の団長という地位を与えられたというのに裏切りを計画していたというのか」

 どれだけの恩を王女から得たのか、ランドルフは忘れたというのか。そのことが激しく怒りさせる。


「当然だ。身内を皆殺しにされた恨みを忘れるはずもないだろう。王女の力が絶大なうちは反抗など不可能であろうと思っていたが、何時訪れるかもしれない機会を逃すことのないよう、そして、偉大なる巨人族の為に役立てるよう情報は伝え続けたよ」


「お前が騎士団の中で地位を固めつつあったから、あいつらは接近してきたんじゃないのか。あわよくば利用できる駒として使えるかもしれないからな。はっきり言うぞ、お前は巨人に利用されただけにすぎないんだぞ? そんなことさえ分からなくなったのか」


「混ざり者の私が、偉大なる巨人族に認められるためならなんだってするさ。出来損ないとして生まれ、何も無く殺され……おまけに復讐すべき敵に取り込まれ駒にされた私に何ができるというのか。この汚名を晴らすためなら何だってするさ。そして、彼らに認められるためなら何だってな。それが、混ざり者として生まれた者の本能なのだよ。あらゆる事で最優先はそれなのだ」


「こ、この馬鹿野郎が。姫にどれだけの恩を受けてきたか忘れたっていうのか? 姫のおかけでお前も俺もまともに生きてこられたってことを忘れたのか? 共に戦い、散っていった仲間の思いを踏みにじろうとしているんだぞ、お前は。死んでいったあいつらが何て言ったか忘れたのか? 王女を頼む……そう言ってあいつらは逝ったんだぞ」


「ふっ。そんなことなど、大義の前には無意味だ」

淡々とした口調でランドルフは言った。

「私にとって大切なのは巨人族の未来であり、王女など敵でしかない。それに組した連中も同様だ」


「……分かったよ。お前のことを友達だって思っていたんだけどな。……これで俺も何の躊躇もしないですむよ。全力を持って、お前を討つ」

ショーは全てを断ち切るように宣言する。

同時に彼を中心に魔法陣が発生する。


「くだらない。今更なにを言っているんだ、ショーよ。覚悟など、とうの昔に私はできていたぞ。死に損ないに何ができるかわからんが、よかろう、障害は排除するのみだ」

呼応するようにランドルフが自らの背丈と変わらぬ長さの大剣を構えた。

「お前を殺した後、王女は我らが偉大なる種族に引き渡そう」


創造された異空間に風が吹く。


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