第30話 Massacre
「かつて……」
ランドルフは語り始める。
「王族と巨人族は主従関係にあった。世界の王たる王族の下、巨人族もともに世界の安寧の為に働いていたのだ。巨人族は王族への忠誠を。そして、王族は巨人族へ施しを。二つの種族の協力によって世界は安定していたのだ。巨人族は世界の果てまで遠征し、混乱の根を摘んで回った。王族の手を煩わせず、王族は政治に集中できるように。そんな蜜月がずっと続いた。続くはずだった。だが、姫がその平穏を壊したのだ」
聞いたことがある。
王族は最初から世界を平定していたわけではなかった。正解には数多くの強力な種族が存在し、覇を競っていた。王族もその中の有力種族の一つでしかなかった時代があった。彼らは皆で殺し合い支配下に置き置かれを繰り返していた。
やがて、王族が優勢になった頃、巨人族が最初に臣下の礼をとったと聞いている。恐らくはこの先世界を取るのは王族であるとの先見の明だったのだろう。そして彼らの予想通り、王族は次々と対抗種族を倒して支配下に入れもしくは滅ぼした。そんな中で巨人族もその圧倒的な巨体を生かして先陣を切り、活躍した。
巨人族は王族に対し忠実で、つねに良き家臣として仕えていた。そして、いくつかの王族に取り入ることに成功し、王族の中でもそれなりの地位を得るようになっていた。
巨人族の力を認めた王族達は自分たちの直営部隊として使う者も出てきて、姫も巨人族の力に頼った。そして、世界に平和が訪れ、辺境においてのみ敵勢力が細々と活動するだけとなった。
世界再編に伴い、巨人族は王族に功績に応じた地位を要求するようになった。かつてであれば、そんな要望は一蹴されるだけであったが、政治的工作を綿密に進めてきた巨人族は、一部王族を取り込むことに成功しており、まんまと主要な地位を得ることができた。王族も彼ら巨人族の献身的な行動を見てきた故に、反対するものは差別主義者として逆に批判されるようになっていたのだった。
巨人族の本性が次第に出てくるようになるまで、それほどの時間はかからなかった。彼らは基本的に欲望に忠実で粗暴な部分があった。目的のためならそれを押さえ込む、否、表に出さない狡猾さがあったためにぼろを出さずにすんだのであるが……。
自分たちを批判できる勢力が減少し、ある程度までは何をやっても大丈夫との判断ができたのだろう。その粗暴さが表出し始める。
彼らの生態の特殊性について語る必要がある。彼らには生物学上、雄しか存在しない特殊な生物であった。生殖するにあたり、他の生物の雌と交尾し、子を産ませ育てさせるという行為をしないと反映できないという特殊なものだった。そして、生まれる子は、また100%雄となる。双方合意の行為ならば何ら問題はないが、彼らにとって雌とは征服するものであり、奪うものでしかなかった。それは遙か昔より続けられてきた当然の事だったからだ。
王族に仕えてからはそういった暗部については、絶対に知られないように行っていたようだが、世界が自分たちのものとなってからは、それは隠すことなく行動するようになった。
しかし、奪うばかりでは能が無いと考えたのか、王族との婚姻を求めるようにもなった。
あろうことか、彼らは姫を王族と巨人族の友好の証として、かれらの王の妻として迎えるという提案をしたのだった。
姫は激怒したと伝えられているが、実際のところどうだったかは不明だ。しかし、皆に説得されたこと、巨人族との関係を続けることは王族にとっても有益であるという戦略的な考えもあって承諾することとなった。巨人達は狂喜乱舞したと言われている。王族で最高の美貌の姫を妻に迎えると言うことは、ある意味、王族すら支配下に置いたと言っても過言では無かったからだ。
しかし、その増長が、事件を生む。
姫の領地のある町に一人の女がボロボロの姿で発見される。
彼女は、巨人族に拉致され、彼らの領土で無理矢理、子を産まされ育てさせられていたと語った。恐らくは戦勝ムードに沸いた巨人族の警備が甘くなったのだろう。それまでは隠匿されていた締め付けが緩くなったのかもしれない。
その情報を知った姫は、最初は半信半疑だった。それでも、良き領主であった彼女は、女の言葉を無視することなく、幾人かの部下を連れ、現地に入った。そして、そこで何百人もの拉致された女性と、たくさんの子供達を発見した。女性の大多数は人間であり、一部エルフや獣人が含まれていた。子供達のそのほとんどは巨人族そのものの風体をしていたが、一部人間と変わらない姿カタチの子たちもいた。
巨人族として生まれた子は、巨人達による充分な愛情を与えられ育てられていた。しかし、顔が人間に似たものは「マガイモノ」と呼ばれていた。背も小さくまともな食事も与えられず、糞尿まみれでうち捨てられていた。
姫は慌ててやってきた巨人に問いかけた。
「これは何か? と」
巨人の男は答えた。
「女は我々の妻だ。皆、巨人族の男にあこがれこの血へとやってきた。子供達は彼女たちが産んだ」
姫は女達に聞いた。彼女たちは怯えてまともに答えなかったが、姫が彼女たちの安全を保証したため、真実を語った。その話は微に入り細を穿ったものであり、話を聞いている内に姫は顔色が悪くなり体調を崩しそうになるほどだった。
彼女の全身から怒りの炎が沸き出すように思え、従者達は恐怖したという。
姫は直ちに巨人族の代表者を呼び出して詰問した。
その問いかけに彼は悪びれる出もなく答えた。
「雌は我ら優秀なる巨人族の種を植えられ、優秀な子を産む栄誉を得られる。そこに何の問題があるのでしょうか。巨人の子を産んだ雌は出産の喜びと優秀な息子を獲た幸せで幸福に満たされている。……あなただって、我らが王の子を孕み産む栄誉を得られるではないですか」
その瞬間、男の首が吹き飛んだ。
姫は自らの騎士団員全員を招集し、命じた。
巨人族全てを世界より消し去れ……と。
そして、数日で巨人族は、その人口の7割近くが殺姫の騎士団により殲滅されることになる。




