第29話 権能発動
完全な暗闇に包まれた世界。
しかし、その暗黒は長くは続かなかった。
世界は再び世界は光を取り戻す。
しかし―――。
「な、なんだこれは? ここはどこなのだ」
ランドルフが困惑したように声を発する。
それもそのはず。先ほどまでいた地下室だったはずの場所の風景が全く異なったものとなっていたからだ。
光が乏しく、夕暮れのような明るさ。見上げるとどんよりとした灰色の薄い雲が天空を覆っている。太陽は見えるがその雲のような存在に遮られ、ぼんやりとしか見えない。
そして、見渡す限りの荒野。
一部建物だったらしいものも存在しているが、それらは朽ちて果て、原型を保っているものは無い。そして、それらの建物は、この世界にあるものとは異なる形状をしていた。
「夢を見ているのか……」
ランドルフは敵である王女の姿を探し求めるがどこにもいなかった。その代わりに、両手をポケットに突っ込んだ状態でこちらを見ている一人の男の姿を発見する。
「どうして、おまえが無傷でいるんだ? 」
ありえない光景に言葉を失うランドルフ。剣撃により、まともに立っていられないダメージを与えたはずだった男が平然と立っている。どうみても無傷にしかみえないし、よくみると服装まで変わっている。
「それより、ここは何処なのだ。今すぐ答えろ」
苛立ちを隠すことなく吼える。
「権能により想像され現実世界に展開される逃避世界……だよ」
ショーが答える。
「そんなものが実在したというのか? ……知性ある物なら誰でも自分一人だけの世界を心に持っているという。子供のころはその妄想の世界で一人遊びをし、その世界をどんどん作り上げていくが、やがて大人になるにつれてそういった世界との接点を無くしていくもの。否定的な意味ではお前の言うように、現実から逃避するため「だけ」に作り上げた、自分だけのための世界だ。……しかし、能力ある選ばれた者がその世界との繋がりをずっと持っていられた場合、その世界を現実世界と置き換える……否、世界を侵食させる事ができる。心象の具現化……そんな能力をお前が持つというのか? それは世界を改変する力。神と同等の力! そんなものを人間のお前が承継するなどあり得ん! 」
確かに、妄想世界といって馬鹿にすることはできない。その造られた世界の中では、その妄想している者こそが最強であり神へと昇華される存在だ。その世界のみではあるが。
しかし、その妄想が現実世界と置き換えることが可能とするならば、その力は絶大。
「ショーよ。お前がそんな能力を持っていたとするならば、何故もっと早く使わなかったのだ? 早い段階で使えば、サイクラーノシュですら撃退できたのではないか? 」
興味本位で問いかける。
「残念だけど……」
ショーは力の抜けたような声で答え始める。
「この力は現実世界に侵食する権能じゃあないんだよ」
「ならば、なんだというのだ。この世界をどう説明するというのだ」
「俺の力は、自分の作り上げた世界に特定の人間を招待する……いや、違うな。引きずり込む力なんだよ。そして、その力を使うには自分の生命力を燃焼させる必要があるんだよね」
あっさりと種明かしをする。
「なんだと? つまり、俺がお前の世界に取り込まれたというのか」
「そうだよ、ランドルフ。お前の魂をこの世界に引きずり込むことに成功したってだけなんだけどね。捕食系の能力だし、わりと卑怯な力だから姫様にも内緒にしていたんだよ。……だってこの権能って殺すためだけに特化した力だからね」
そういってニコリと笑う。
「な、なにを! 」
その言葉に動揺するランドルフ。慌てて大剣を構える。
「この世界は俺が造り上げた世界。俺のためだけに造られている。だから、あんな瀕死の状態だったのに今は無傷だろう。ここは現実世界とは完全に切り離された精神世界……」
言葉の途中でランドルフが突進し、思い切り振りかぶった剣をショーに叩きつける。
金属同士がぶつかり合う凄まじい音。
ランドルフの大剣はショーの少し手前で彼によって彼の手にした銃により受け止められていた。
「ぐっ、そんな馬鹿な」
うめき声を上げるランドルフ。2メートルちかい金属の固まりと言っていい大剣を、渾身の力を込めて叩き込んだはずなのに、自分より遙かに小さい、しかもそれほど鍛えているとは思えない少年が片手で受け止めたのだから。
「現実世界だったら今の一撃は俺の腕を叩ききり、それどころか体を縦にまっぷたつにしているんだろうね。けれど、ここは俺の支配する世界。ランドルフよ、お前では俺を斃すことはできない」
感情の抑揚無く宣告するショー。それは絶対に改変できない決定事項を告げるものだった。
「黙れ黙れ、そんな事があり得るわけがないのだ」
ランドルフは吼えると、猛然と攻撃を再開する。
凄まじい速度で振り上げられた大剣が何度も何度も打ち付けられる。命中よりも破壊のみに特化した全身全霊を込めた攻撃が振り下ろされる。
けれど、その全ての攻撃がショーの片手によっていなされ防がれ排除された。
防がれても防がれても、猛烈な爆発のような攻撃を何十何百撃を繰り返し、そして、ランドルフは停止した。
「な……何故だ。どうしてこんな奴に攻撃が通じないのだ。私は血の滲むような努力を重ね、強さを求め手に入れたはず。あらゆる敵を排除し勝利する力を。なのに、こんなチビを斃すことができないというのか? クソッ」
ランドルフは大剣を地面に突き刺す。そして、目を見開いて憎々しげにショーを睨みながら、苦悶するように呻く。
「ランドルフ……俺はお前を本当の友人のように思っていたんだよ。姫様を守り、勝利するために共に戦う仲間だって思っていたんだ。なのに、どうして、こんな結末を選んだんだ? 」
辛そうな表情でショーは問いかける。
「姫様を裏切って何がお前に残るっていうんだよ。お前は姫様のために本当にがんばってきた。それは皆が認めるだろうし、姫様だって認めて下さっているだろう? その努力を捨て去るっていうのか」
「お前に、お前に何が分かるというのか」
苦悶に歪んだ表情でランドルフがショーを睨んだ。
「お前のような奴に私の、私達の苦しみが理解できるはずがないだろう。私は姫を許すことはできない。永遠に敵でしかない。姫を斃すため、今の地位から引きずり降ろし私達同胞が受けた苦しみを味あわさなければ、死んでも死にきれぬ。そのためだけに私は必死で耐えてきたのだ。そのためだけに生きてきたのだ」
怨嗟の言葉が響き渡る。




