-2- プロローグ(覚醒から異世界へ)
薄暗い……。
目を開けても、その視界は薄暗いままだ。
能力を使えば暗闇は暗闇でなくすことができる。でも、そのスイッチをいれるのが億劫だ。
それでも微かに漏れてくる外の明かりで、わずかだけれど部屋の状況は見える。そこがベッドの中だってことは分かった。
目を凝らせば、自分のいる場所が見慣れた光景であることが分かる。
安物だけど、遮光力がありそうな分厚いカーテン。枕元のテーブルに置かれたアニメキャラの目覚まし時計。少し向こうの壁際には、画面の大きさは小さいけれど、誇り高き我が日本製の薄型液晶テレビ。
もごもごと何かが布団の中で動いた。首筋や胸元にくすぐったい感触。
見ると、俺の腕の中にはゴールデンブロンドの髪があった。
つややかな長いストレートの髪。
まだ小さい頭。
まるで人形のように白い肌。首筋。肩。そして胸元……。
なんだ、王女と一緒にベッドで寝ているんだと気づく。
ベッドはシングルだけど、王女はまだまだ身体が小さいから、俺が添い寝しても広さ的にはなんとか大丈夫なんだ。
ん?
そこでやっと気づいた。
そういや、さっきからなんだか体がスースーするような気がしていたんだけど、視線を下に向けると見えてしまった。
彼女が衣服を纏っていないことを。
さらには、俺も何も着ていないということを。
どういう経緯か、俺たち全裸で抱き合ってる?!
俺の触感が猛然と信号を伝達し訴えてくる。今、俺の胸や腹や腰や足に王女の生肌が密着していることを。
腕枕をするような形で抱きしめているようだ。王女自身も腕や足を絡めてきている。完全に密着状態!! というわけだ。
何、このシチュエーション?
どういう経緯でこんな状態になったっていうんだ?
俺は驚いて飛び起きようとするけど、何故か体が動かなかった。それは別にスケベ心から動かなかったわけじゃない。そういった生々しい俗な感覚じゃ無いんだよ。
王女と俺は何かで繋がっているのを初めて感じとれたんだ。聞くには聞いていたけど、実際にそれを明確に感じ取れたのは、たぶんこれが初めてだった。
これが王女の言っていた、「契約」による魔術回路を通した魔力供給とかいう物なんだろうか?
それは瞳を閉じると更に強く感じ取れる。言葉では言い表しようのない、暖かくて優しい気が流入してくるのを感じる。その感覚は春の穏やかな休日に日向ぼっこをしていて、うとうとしているような気分になるのと同じような感じ。とても心がリラックスしていく感覚。
真の癒しとは、こういったことをいうんだろうな。
その暖かい感覚が胸の辺りから全身へと広がっていく。四肢へ頭部へ。そして指先、つま先、頭のてっぺんまで。傷つき壊れた回路が癒され修復され回復していく様が手に取るように分かる。
その治癒効力は体だけじゃなく、傷ついた心にも染み渡っていく。おだやかなゆるやかな、心地よさ。何か大きな、暖かく柔らかいものに包まれているような感覚だ。身体以上に擦り切れ、傷ついた俺の精神には驚くほどその効果が現れてくる。
再びの眠りの中へと、俺は落ちていくんだ。
そして、見てはならないものを見てしまうことになる。
王女の秘密を。