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慌ただしく騎士達が動きまわっている。

武器の搬入や、自分の装備の確認を行う騎士。

モグラと呼ばれた、乗り物へと荷物を運び込む騎士。

僅かな人数しかいないため、騒々しいとまではいかないが、それぞれの者が一つの目的の達成の行動しているのだ。


全ては、―――王女のために。


否、王女のためだけに。


廃墟のように朽ちた隠れ家に閉じこめられ、ずっと陰鬱な雰囲気の中で隠れていなければならなかった彼ら……。

本来ならば騎士として戦場において敵と戦い勝利することだけを目的としていたのに、対峙した敵との圧倒的な戦力差の前に穴蔵に潜り込んで身を潜めるしかできず、おまけに主の生死までどうなるか分からない状態。さらにそんな中で生き延びるために、味方を犠牲にしなければ生きることができなかった彼ら。

戦いで死ぬことは騎士としての本望。しかし、戦場でも何でもない場所で、強大な敵と剣を交えることもなく、ただ死を選ぶしかなかった仲間を想う時、生き残った彼らの心中はどんなものだったのだろうか?


先の見えない真っ暗な未来の中で、かつては敵と戦いその圧倒的な力で常勝不敗だったその剣技を生かすこともできず、ただ待つだけしかできない状況だった彼らにとって、王女の復活、そして目的の存在は彼らの心をかつて無いまでに高揚させるには十分だった。

皆がそれまでの陰鬱とした表情からは別人のように、本当に生き生きとした表情で動き回っている。

たとえこの戦いに勝利したとしても、誰一人生き延びることができないという現実を知っていても、彼らは王女を生き延びさせることができるのだ。


もはや何の迷いも存在しないようだ。


主の為に―――その言葉の下に。


そんな準備作業に沸き立つ騎士達を見やりながら、ショーが外から帰ってきた。

「ショー、【モグラ】の準備はできたのか」


「うん、燃料補給とエンジンの再始動は終わったよ。あとはあれの自動修復機能に頼るだけさ」

と、ショーは騎士の一人の問いに答える。


「すべてはあれにかかっているからな。光学なんとかは大丈夫なのか? 」


「うん。迷彩タイプのバージョンはいくつも持っているから、今回は別のバージョンに変更作業も行っているよ。前のヤツは巨人族あいつらに見られてしまっている。さすがに同じものを2回使うわけにはいかないだろうね。すでに、あのバージョン対策が行われている可能性があるからね。大丈夫とは思うけど、念には念を入れておかないと」


「たしかに、我々には次はない。失敗は許されないからな。まあ、お前がそう言うなら大丈夫そうだな。……じゃあ、もう荷物とかを積み込んでも構わないんだな」


「うん。問題ないよ。……移動の事については、まあ、任せておいてよ」

そう言い残し、彼らの元を後にしたショーは王女のいる部屋へと歩いていく。


他の騎士達は歩いていく彼のことにほとんど気に懸けていないようだ。


―――


ショーは主の部屋の前に立つ。

部屋をノックしようとするが、なかなか踏ん切りが付かない。

何度も何度も深呼吸をし、ついには覚悟を決めて、ノックをしようとした。


その刹那、

「う、……うう」

部屋の向こうからほんの微かにだが、呻くような声がした。

それは痛みをこらえる声のようでもあり、泣き声であるようにも聞こえる。


「ひ、姫様……? 」

恐る恐る扉の向こう側に呼びかけてみる。

しかし、返事は帰ってこない。


再び、呻くような声。


何か異変が起こっているのでは?

主の普段とは異なる変化に気付いたショーは、先ほどまでの躊躇をやめていた。

「姫、姫様、どうしたんですか。何かあったのですか? 大丈夫ですか? 」

そして、ドアをノックする。それでも返事が無いので、再び声を掛ける。


王女は体の一部を奪われ、それだけではない。まるでミンチのように切り刻まれてしまっているのだ。本来なら、いかなる手段を用いたとしても再生するなどあり得ないはず状態だった。しかし、それでも王族の力なのか、あのような状態から、……ショーの用いた科学の力で再生することができてしまったとはいえ、そんなことは王族であってもこれまで誰もが行ったことのない施術だったはず。その再生術の結果、どのような異変が王女の身に起きるか誰にも解らない。


再度ノックをするが返事が無い。

ドアノブに手をかけるショー。ドアはロックされていない。抵抗もなくドアノブが回る。

「姫様、……すみません、入りますよ」

恐る恐るといった感じでゆっくりとドアを開ける。


部屋の中の灯りは消されたままのようだが、どういうわけか青白い光で照らされている。

「姫様、大丈夫ですか? 」


部屋の隅の壁際に蹲るように座っている小さな姿を発見する。


――王女だ。


彼女の周りには5つの厚みのない長方形の物体が浮かんでおり、それらが青白い光を放ちながら、何の支えもないというのに宙に浮かんでいる。

それらはまるでパソコンのモニターのようで、大きさは20インチ程度、厚さは無いに等しいくらいに薄い。そしてそれぞれのスクリーンには文字が浮かんでいるがこちらから見ると反転しているように見える。


nonexistent


Can not access


それらは、脳内言語変換により、そんな文字に見えた。

文字の最後にはカーソルらしきものが白く点滅を続けている。


「姫様、どうされたんですか」

ショーは異様な光景の中、彼女の元へと駆け寄る。

声をかけるが王女は反応しない。

声のする方向に顔を向けるが、その視線はどこか遠くを見るように彷徨うだけで、彼の存在は見えていない。

意識が無いかのように思える。


「姫様、姫様、しっかししてください」

彼女の小さな両肩を掴み、揺さぶるようにショーが叫ぶ。


「あ、……うん? 」

王女に精気が戻ってくるのが分かる。瞳の焦点が合い、自分の騎士を認識したようだ。

「ショ、ショーなの? 」

まだ意識がハッキリと戻っていないのか、確認するように喘ぐように言葉を発する。


「そうです、姫様。私です、ショーです。一体どうされたんですか? 」

どうしていいか分からないような表情で心配そうな顔で主を見つめる騎士。


「姫……」


「ふふふ……」

と、王女は乾いた声で笑う。

そんな主を怪訝そうな目で見る騎士に気付いたのか、

「ごめんなさい。意味が分からないわよね」


「いえ、そんな。……このディスプレイは何でしょうか? 」


「そうか、ショーは異世界から来たのだからこんな物を見たことがあるのね」


「はい。私の世界でもここまでの物はありませんでしたが、映画のなかではよく見かけています」


「空中投影ディスプレイ……そんな名前で呼ばれているかしら……」


「いったいこれは何なのですか? 」


「私たちが捨てたはずの神の力よ」

何でもないように王女が口にした言葉。

「神という概念といったほうが正しいかも知れない」


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