表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/37

-23-

暫くの時間が経ち―――。


閉じられていた扉が開くと、騎士達の前に再び王女が姿を現す。


漆黒のドレスを身に纏い、その頭の上には中央に透明度が非常に高く複雑にカットされた宝石がはめ込まれ、複雑な意匠が施された本体には大小様々の宝石が散りばめられたティアラが乗せられている。

身に纏ったそれら全ては、かつて倒れる前の騎士達の王が身に付けていたものを彼女の体型に合わせて作り直した物であった。その加工は【生き残る者の選択】において命を託す側に回った女性騎士達が行ったものである。


王女は、ほんの少し前までの、濡れそぼって怯えた子猫のようだった姿など微塵も感じさせない堂々とした、そして自信に満ちあふれた姿で立ち、騎士達を一人ずつ見つめる。

それ自身が光を放っているような腰まで伸びた黄金色の髪、見る者を圧倒するような深い深い青色の瞳。透き通るまでの白い肌。かつての王女の姿と比較すると、体も小さくなり美しさというよりは可愛さの要素の方が強くはなっているものの、このまま成長すれば、かつての王女と寸分違わぬ高貴な姿になるであろうことは容易に想像できた。


騎士達は慌てて立ち上がり、自らの主をまぶしそうな顔で見つめる。


「みんな、心配をかけてしまいましたね。……私はもう大丈夫です」

その声もずいぶんと幼い子供のものになってはいるものの、透き通るような、それでいて強い意志と威厳を感じさせるものだった。

「みんな座って……」

王女に促され、騎士達は椅子に腰掛ける。彼らの顔には一様に緊張の色が見て取れる。王女の姿を見、声を聞いたことにより、先ほどまでのかつての主に対する不安といったマイナス要素が払拭されていくのが分かる。


「では、ランドルフよ」


「はっ」

大きな音を立てて、騎士団長が再び立ち上がった。


「そんなに緊張しないでいいわ。……では、今の状況を教えてください」


「では、説明させていただきます……」

緊張した面持ちのまま、ランドルフは言葉を選びながら、時折詰まったりしながらもなんとか王女が倒れてから後のことを説明する。


王女は時々俯きながら、しかし感情を読み取られまいとしてか無表情のまま説明を聞いていた。


――王女が倒れた事により、王女と騎士との間に結ばれていた【契約】が解除されたと同様の状態となり、それまで王女から供給されていた騎士達の命の源といえる【魔力】が途絶えてしまった。そして、王女からの魔力供給を失った騎士達はその体内に残された【魔力】のみで行動するしかできなくなり、その【魔力】の完全喪失=死ぬという状況に置かれてしまったこと。

ショーによる王女の再生作業による、彼女の回復までの日数計算により、王女の復活までは全員が生きていることは不可能であり、何らかの方策を実施しなければ全員が死亡する状態だったこと。そして、緊急避難的な措置として、生き残っている騎士のうち半分の者が死ぬことにより、その命を残りの半分の騎士に分け与えることで、王女が復活するまで生き残る者の選別を行わざるを得なかったことを説明した。


王女が倒れている間に半数の騎士が死んだという説明のあたりで、彼女の肩が少しだけ震えたように見えた。しかし、それは一瞬だけの事で誰も気付かなかった。また王女も決して表情に表すことは無かった。


そして、これからの計画についての説明もなされる。


王女をこの絶望的な状況から脱出させる為に、かつて王女が話していたことのある、異界への門があるとされる場所へ向かうこと。そして封印解除を行い、異世界へのゲートを解放し、王女を逃がすことを。

敵の追跡や妨害が考えられるが、生き残った騎士達が全力をもって、彼女が異界へと旅立つまでの時間を彼らの命に替えて成し遂げるということを。


「……以上が、これまでの経緯と今後の計画です」

説明を終えると、騎士団長は緊張が解けたのか大きく息を吐いた。


「ランドルフ、……あなたにはずいぶんと大変な想いをさせてしまったようですね。そして、皆の者にも辛い思いをさせてしまいました」

と、王女は静かに呟いた。

唇が「ごめんなさい」と動いたように見えたが、それは声としては発せられなかった。

王女が謝れば、彼らの判断は誤りであり、騎士達はその責めを負うことなってしまうからだろうか。


「も、申し訳ありませんでした。私がいながら何もできず、そして、こんな重大なことを全てを独断で決定してしまいました。それについてはいかなる処罰を受けても構いません」

ランドルフが跪き、深々と頭を下げる。


「いえ……」

王女は最後まで残った騎士を一人ずつみつめる。

そして、最後に騎士団長を見やった。

「ランドルフ、お前は何も間違ったことをしていないわ。与えられた条件の中で、適切に判断を成しています。それに、……そもそも私が不在の場合は、お前が私の代わりにすべての判断をすることになっていたでしょう? お前を信じているから、信じるに足る存在であるからこそ、騎士団長の座を任せているのですから。お前の判断は、すなわち私の判断。ゆえに私に謝る必要などないのです。……後は、その決断を実行するだけなのです。他のみんなも、いいですね? 」


騎士達は頷いた。

王女はそれを確認し、ランドルフの側へと歩み寄り、うつむいたままの彼の肩を小さな手で触れる。


ランドルフは王女を見上げる。

優しさに満ちた笑顔で王女は彼を見、他の騎士達を見る。

「私の無力さゆえに、まだまだお前達に苦労をかけてしまうことになりますね……わたしは」

一瞬、言葉を詰まらせる。

何かを言おうとして、しかし、あえてその言葉をやめたといったふうにみえた。

何か思い悩むような表情にさえ見る。うつむき少し考えるようなそぶりを見せる。しかし、次の瞬間には迷いのような表情は消えていた。

「……お前達の命を私にください。そして、持てる能力全てを使い私を助けて下さい」


「もちろんです。我らにお任せ下さい。必ずや姫様をお守し、安全な所までお逃げ頂きます」

騎士達は一斉に声を上げた。

使命を与えられ高揚感にあふれた表情をみんなが見せている。


王女はそれを見、満足そうな笑顔を見せて頷いた。

「では、ランドルフ。出発の準備を始めて下さい」


「かしこまりました、姫。急ぎ準備を終わらせます。完了しましたらお知らせします」


「どれくらいかかりますか? 」


「ショーよ、【モグラ】の再起動にかかる時間はどれくらいだ? 」

王女の問いかけに素早く騎士団長がショーに問う。


【モグラ】とは、彼らが移動手段として使っていたドリルのついた水陸両用それどころか地下も移動できる車両のことだ。


「そうだね、調整も入れたら、だいたい一時間くらいだと思うよ」

と、ショーが答えた。


「了解した。ショーはその準備を急いでくれ。他の者達は【モグラ】の再起動までにすべての準備を整えるように」


「了解! 」

騎士団長の指示に部下達が答える。


「……お願いしますね」


「姫はどうされますか? 」


「少し休ませてもらってもいいかしら。どうも……まだ、体に違和感があるようなの」


「姫様、大丈夫なのか? 」

心配そうな顔をショーが見せる。


「言い方がおかしかったかもしれないわ。お前達が心配するような状態になっているわけではありません。前と体が何もかも違うのでしっくりこないだけです。あまりに急な変化なので、心と体の調整がうまくいっていないだけです。心配しないでください。少しだけ、少しだけ休めば大丈夫だと思います」


「そうなのか、本当に大丈夫なのか? 痛いところや違和感とかがあったら言ってよ。……俺的には万全は尽くしたとは思うけど、そもそも何もかもが初めての事なんだから、少しでも異変があったら教えてくれないと困るんだから、な」


「安心しなさい。……お前はお前の仕事に専念して下さい。他の者も残された時間はわずかしかありません。目標のために全力を尽くして下さい。では、ランドルフ。準備ができたらお願いします」

王女は騎士達に微笑むとすぐに背を向け、彼女の部屋へと歩いていった。


「よし、我々も作業を進めるぞ」

騎士団長の声で、騎士達は一斉に動き出した。どうやら、彼らは王女不在の間、ずっと抱いていた未来への不安が王女の復活により払拭されたことでもういっぱいで、彼らの主の僅かな変化に気付くことがなかったようだ。


しかし―――。


誰もいなくなった部屋でただ一人、ショーだけが王女が去った扉を見つめていた。

その顔には何やら不安そうな表情があった。そして、何かを思い詰めたような表情でしばらくの間、閉じられた扉を見つめていたのだった……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ