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―――。


そして、すぐにショーだけが戻ってきた。


騎士達は別の部屋のテーブルに各々が腰掛けている。彼らはショーには気付き一瞥するものの、誰一人として声を上げなかった。


どういうわけか、みんなが無言になっている。


「……どうしたんだよ、みんな。何で黙り込んでいるんだよ? 」

怪訝な顔をしてショーが問いかける。


「そりゃあ、決まっているだろう」

身を投げ出すような形で椅子にもたれかかった、騎士の一人が答える。

「確かに姫は復活された。しかし、……あのお姿をみんなも見ただろう? もはや、かつての姫様とは思えないほどの弱々しさじゃないか。立っているだけで、今にも壊れてしまいそうなくらいに。そりゃあな、勿論、あの様な状態から復活され、我等の前に立たれた事ただけでも奇跡だと思わなければならないことは分かっているんだ。でもな、今は平時じゃあないんだよ。はたして、あのようなお体でこの先の戦いに耐えられるんだろうか」


「まさに、……それは当然の疑問だな」

とフィリップが追随する。

「姫があのような状態では、戦いに巻き込まれたりしたらどうなることか、俺は不安だ。……違いは誰が見ても分かる。我々は、これから敵地のまっただ中に向かうことになる。極力見つからないようにするものの、戦いは避けられないだろう。かつての姫ならば、ご自分の身はご自分で護ることができる力を持たれていた。だが、今の姫は違う。誰かが護らなければ、とてもじゃないが無理だろう。そうだだとすると、すでに立案されている計画通りに事を運ぶのは難しいのではないか? 計画は姫が以前と変わらずに戦闘できるということを前提にしているのではないか。……となると戦略を練りなおす必要があるのではないか? 」


それを聞いたランドルフが、すぐさま反論する。

「フィリップの言うことも一理あるとは思うが、戦略の変更を行うにも我々に残された時間はほとんど無いのだぞ。兎に角、一刻も早く、異界への門のある場所まで姫を無事に送り届けなければならないという目的だけは変えようが無いぞ」


「しかし、団長もご覧になったでしょう。姫の、あの変わりようを。……今にも壊れそうで、あまりにも弱々しい。弱々しすぎる。仮に我々が触れただけで、そのか細い体は壊れてしまいそうなくらいだ。それは肉体的なものだけではなく、精神からも同じようなものを感じたのは俺だけでは無いはずです。そんな姫を、僅かな時間で帝都まで移動することでさえ、難しいのではないですか? 姫のお体の回復状態がどれほど回復状態は分からないです。ただ、俺が見た限りでは、人間なみの耐力しか……いや、むしろそれ以下としか思えない。あの状態では、例え逃げるだけでも姫が怪我をする可能性が高いし、場合によっては混戦の中で命を落とす可能性だってあるのでは無いですか? そんなことがあったら、俺たちは逝った者に顔向けができない」


「……では、フィリップに問おう。お前は、どうすればいいと考える? 作戦をどう変更すればよい? 」

無言のまま、一人の騎士の言動を見つめていたランドルフが再び声を上げた。


「では、僭越ながら、私案を述べます。たしかに、帝都までは共に移動するしかないと思います。しかし、その後は二手に分かれ、片方が街中で派手に暴れる陽動作戦を取って敵を引きつけ、その間に残りの戦力が異界への門がある場所へと急行するほうが、はるかに成功率が高いと考えます。そして、その方が本隊が戦いに巻き込まれる確率が大幅に下がると考えます」

と、フィリップが答える。

「何でしたら、私がその陽動部隊を買って出ても良い」


「ふむ……」

ランドルフが頷く。

「確かに、お前の言う作戦には、一考する余地はある。むしろ、我々が通常の状態ならばそちらの案を採用すべきだろうな。……しかし、考えてもみてほしい。我々には、部隊を割くほどの兵力を持たない事を。僅か7名しかいないものを二手に分けてしまえば、格好の各個撃破の的にしかならない戦力でしかないのではないか? 恐らく帝都の警備に当たるのは、あの巨人族だ。奴らは強敵だ。例え個々の能力で我等が上回るとしても、陽動作戦は我々の存在をあえて敵に示すこととなる。さらには別動隊の存在にも、例えあの愚鈍な連中にさえ、気付かれるだろう。どんなに陽動部隊が奮戦しようとも、数の前には苦戦は必至。敵は難なく陽動部隊を倒すとともに、本隊たる姫の部隊の探索と殲滅に必至になるだろう。なにしろ、本隊には巨人ぞっくの仇敵である姫がいるのだからな。そして、考えるまでもなく、直ぐに本隊の場所も突き止められよう。そして敵は殲滅部隊を差し向けてくるだろう。そうなったら、ただでさえ手薄な兵力が分散されたことで、とても戦力にもならない。敗北は必至。姫は捕らえられ、処刑されるか、もっと恐ろしい目に遭わされる可能性がある。そんな事だけは絶対に避けなければならない」


「では、ではどうすれば良いというのですか! 」


「出来る限り隠密行動で進んで、異界への門がある遺跡に潜り込み、あとは入り口を封鎖して時間を稼ぐ間に、姫を異界へと逃げていただくという当初の作戦しか無いと思うよ。うん、……俺は、だけれど」

他の騎士達と比べて、明らかに小柄な人間の少年が口を挟み、すぐさまフィリップに睨まれる。

その視線はショーを射殺すほどの強い念が込められていて、気付いたショーも驚いたような顔をして途中で言葉を濁らせてしまう。


「馬鹿を言うな! そんなにうまく見つからずに行くものか! ショーよ、お前は騎士ではなく、まともな戦いを経験していないから、そんな非常識な事が言えるのだよ。考えれば誰でも分かるようなことだろう。目的地は敵の本拠たる帝都だ。生やさしい警備ではない。そんな中に、そう簡単にとけ込めるはずがないだろう。常に戦闘は覚悟しておくのが当然だ。しかし、戦闘になった場合、もはや逃げ道は無い。ならば誰かがおとりとなり、敵の目を誤魔化す方が成功率が高いだろう」


その異常なまでの剣幕に、場の雰囲気が険悪になっていくのを誰もが感じた。唐突過ぎるほどに。


「お前みたいな役立たずが偉そうに何を意見する! 一体何様のつもりだ。ちょっと姫に取り入るのがうまかっただけで、特別気取りかよ。……まったく、なんでお前なんかが残ったのか俺にはわからん。本来ならば戦力にカウントされるべき者がお前を生かすために犠牲になってるんだ。まったく馬鹿馬鹿しい」

吐き捨てるようにフィリップが言う。


「な、何を。……俺だって何で俺が残ったか分かっちゃいない。俺より生きるべき者がいたことくらい、俺だって認識している! 全て皆の総意で決まったことに、今更文句を言うのかよ」

さすがにあまりの侮辱にショーさえもがいきり立つ。


「まあまあ、フィリップも興奮するな。お前の言うことももっともだが、ここは落ち着け。落ち着くのだ。ショーも俺に免じてこの場は押さえてくれないか? 」

そう言って別の騎士が間に割ってはいる。そしてフィリップの耳元に何か小声で呟く。

そうしながら、ちらちらとショーを見る。

興奮気味に次の言葉を続けようとしたフィリップも一瞬困惑したような顔をして、騎士を見、そしてランドルフを見て何故か納得したような顔をした。

そして、大きく息を吐いたと思うと、

「すまない。興奮しすぎて心にも無いことを言ってしまった。ショーよ謝る。感情的になりすぎてしまった。……申し訳ない」

と、頭を下げた。


「う、うん。……分かってくれたらいいんだ」

突然の相手の変貌に困惑しながらも、ショーもその矛を収めた。

唐突な収束に感情的には納得できないところがあるようだが、今は他にやるべき事があるということでその思考を停止させたようだ。

「今はそんなことで揉めている場合じゃないもんな」


「ショーの言うとおりだ。我々に残された時間は少ない。揉めている時間などないのだ。今残っている者は最終目的の為に誰一人として欠けてはならない者を私が全責任を持って、選んだ精鋭達なのだから。その点だけは皆も認識しておいて欲しい」

騎士団長の一言で全てが終了した。

皆がランドルフを見て、うなずいた。


騎士団長の言葉で全てが終了させられたとはいえ、空気感が平穏なままではないことは変わりなかった。


再び、誰もが無言になった。

手持ち無沙汰で剣をいじる者、目を閉じたままの者。……ショーはうつむき加減で床の一点を見つめている。

彼らはただ、彼らの主を待つしかなかった。


そんな中、遠くから微かに聞こえていたシャワーの音が止まり、こんな世界には不似合いな髪を乾かすドライヤーの音のような、モーター音が微かに聞こえてきてた。


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