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行動が決まれば次は誰が残るかという確信部の話となった。


こればかりは多数決や話し合いで解決するような問題ではなかった。

人の生き死にとなるためだ。

……もっとも難しい判断を迫られ、それを決定しなければならないのが騎士団長の仕事となる。どんなに正しい選択をしても、誰かを犠牲にせねばならず、さらには必ず誰かには恨まれる決断を。


「異世界への門がある場所は、帝都スーリヤに程近い場所にある城塞遺跡の遥か地下だ。帝都に近いことから、当然ながら警備も厳重となる。しかし幸か不幸か、もはや戦況はほぼ決した状況であることから、かつてほどの厳重さは無いと想像される。ただ、遺跡の警備については、誰も入ったことがないからどうなっているかは分からない。ただ、異世界への通路となっていることを知っている王族にとっては非常に重要な場所だと認識していたと思われる。よって、それなりの警備がされているだろう。つまり、そこへ侵入するとなると、戦闘は不可避となるだろう。残るべき者はそこでの戦闘を乗り切ることができることを最重要として選択されることとなる」

ランドルフはみんなを前に宣言する。


誰もそれには反論をしない。


彼は全員の顔を見、覚悟を決めたように再び話し始める。

「遺跡の地下通路は決して広くない。そこでの戦闘は近接戦が主となるだろう。そして敵は多数であることから、少々の負傷さえものともしない生命力の高い者が優先される。また、帝都には人型の者しかいないということも大きな要因となる。……よって、男であること、体が大きいものであること、人型であることが条件となる」


つまり……。

女は除外される。

体の小さいものは除外される。

人間じゃないものは除外される。

遠距離型は除外される。


「……つまり、私の旅はここまでということですね」

少し寂しそうにエルフが言う。


「やれやれ、私もそうなるな」

クリストハルトが頷く。


「あちゃー。それだとう俺なんかもう決定じゃないか」

ショーが天を仰ぐ。


騎士達が想いを述べ、場がざわめく。


「では決定する。姫をお守りし、異界への門へ向かう者は、……私ことランドルフ、そしてロベール、ティボー、フィリップ」

騎士団長が次々と名前を呼んでいく。

呼ばれた者たちを見ると、皆がみんな、屈強な体をした、まさに重装騎士という名の相応しい体格の者たちだった。

皆が大剣を振りかざし、圧倒的な耐久力生命力で後衛の盾となりながら、敵を粉砕するタイプの騎士ばかりだ。

「ロベールージュ、リドルフォートの6名」


驚いたことにクリストハルトの名はそこになかった。あれほどの剣技を持つ彼が外れるのは理解できなかった。


さらにランドルフは続けた。

「最後の1名、それはショー、お前だ」


「な、……なんで俺? 」

思わず声を上げてしまうショー。

それほど意外だったんだろう。

「俺なんかじゃあ何の役にも立たないよ。近接戦闘じゃあ俺にはたいした武器も技量もない」


「その通りだ。ランドルフ殿、あなたの人選はおかしい」

ランプレヒトが声を荒げ、そのオオカミの顔の牙を剥き出しに抗議する。

「決定事項に文句を言うのもなんだが、ショーを選んだのはどんな事情からだ? 彼は、いっちゃあ何だが戦闘能力についてはほぼこのメンバーの中では最下位と言ってもおかしくない。特にこれから戦いの場となる場所での活用を考えたならば、明らかに間違いだ。……戦闘を優先するというのなら、どう考えてもクリストハルト殿を選ぶべきではないのか? 皆もそう思うだろう? 」

煽るような口調で喋り、見回す。人狼の意見に賛同するかのように頷くものもいた。


「クリストハルト殿、あなたもそう思っているのだろう?剣聖とまで言われるほどの圧倒的剣技を持つというのに。 問題があるのなら今言っておくべきではないのか」


ランプレヒトの問いかけに少し考えるように目を閉じてから

「決定事項だから、私はそれに従う……では納得してもらえないかな? 」


「そんなことを聞いているわけではない!! 」


彼は激高する人狼に微笑むと

「だろうな。先の戦いにおいて、進化した巨人と我らは戦った。その時のことはお前も覚えているだろう? あれの圧倒的な回復力。私の剣は何度も致命傷を与えたはずなのに、あれはすぐに回復し再び襲い掛かってきた。斬っても斬ってもだ。私の剣撃では致命傷を与えることなど不可能。巨人の回復力を上回るダメージを与えるほど、私の剣撃には力がないのだ。あの巨人の巨体を完全に葬りさることは不可能なのだよ。さすがにアレは辛かったがね。

 ランドルフや選ばれた騎士達はその圧倒的な大剣による対象物の両断というスキルを使用しなければ勝ち得ない。 ……私の剣を否定することになってしまうから辛いのだがな。

 そして、次の戦いについて言えば、あの巨人どもが必ず敵として立ちはだかるのは間違いない。そしてあれとの戦いが不可避だとするなら、私では力不足だということなのだ。勝利するために最善を選ぶのがリーダーの義務だ。ランドルフの選択は正しい」


「ぐぬぬ。あなたが言うのならやむを得ないか。……では、ランドルフに問う。ならば何故、クリストハルト殿ではなく、ショーを選んだというのだ」


「簡単なことだ。最終局面において、異界への門への封印は選ばれた王族にとっては何の障壁にもならない。だが、一度封印を解いてからでなければ通れない。解いたとなると再度封印をする必要がある。その役目を果たせるのはショーしかいないのだ」


「封印を行うなら、誰でもできることなのではないのか」


「残念ながら、他の者では無理なのです」

と、エルフが説明を始めた。

王族に伝わる封印魔術という技術は、現代となっては使われることがなくなって久しいということ。それは、そもそもが圧倒的な支配者である王族に、何かを隠し護る必要という必要性が無かったからなのだが。


ショーはいろいろと王族の太古の資料に興味を持ち、書庫にある資料を朝から晩まで寝る間も惜しんで読み漁っていたのを見、王女が面白がって封印魔術を教えたというのが本当のところらしい。


「そんな事情もあり、失われた技術である封印魔術を伝えられたものは王族を除いては、おそらくショーだけでしょう。もちろん適性も必要なのでそのあたりも姫は考慮してショーに教えたのだと思います。それまでの間、彼はあらゆる資料を読み、知識を蓄えていましたからね。我々エルフ一族をも上回るほどの術式を覚えていたかもしれません。故に適性ありと姫が判断されたのかもしれません」


「それならば私も今からでも間に合うのではないのか? 」


「ランプレヒト、残念ながら魔術と言うものは一朝一夕にできるようなものではないことはご存知でしょう? 並々ならぬ知識の蓄積と精進、たゆまぬ継続が必要なのです。もちろん適性も。武と術は相反するもの。よって、戦闘に特化している人狼のあなたでは会得するのはかなり困難だと思います。仮にできたとしても、相当な時間が必要です」


「そういうことなのか。無理だということなのだな。姫様は……すべては考え抜かれてのことだったいうことか……」

人狼が呻く。

突然、頭痛でもするのか両手で頭を抱え込む。

そして突然、カッと目を見開いたかと思うと叫んだ。

「ランドルフよ、頼む!! 私を戦いのメンバーに選んでくれ。お願いだ。戦闘力なら私の方が圧倒的に適性がある。他の誰よりも私が適任だ。だから人選のやり直しをしてくれ、頼む」

それはあまりに必死であり、切迫したように見えた。机に爪を立て、身を乗り出して睨むように騎士団長に訴えかける。

見る者によっては、見苦しく感じた者もいたかもしれない。


「見苦しいぞ、ランプレヒト。もはや、すべて決まったことだ。我々はそれぞれの役目を果たすだけ。残された者がかならず我らの想いを引き継いでくれる」

一人の騎士が批判する。


「そうです。確かに最後まで姫様にお仕えし、御守りしたいのは皆、思っている事。しかし、誰かが犠牲にならなければならないのです。形は違えども姫のためという目的を実現することには変わりありません。落ち着いてください」

女の騎士もランプレヒトを責める。彼女も彼女なりに思う所があるのだろうが、それを必死に抑えているのが分かる。だから、なにをこの期になって言うのかという批判めいた口調になってしまうのだろう。


「五月蝿い五月蝿い! 貴様らに何が分かるというのだ。私がいたほうが圧倒的に戦力があがるのだ。つまりは姫様の生存の確率が上がるのだ。何故それを否定するというのか。愚か者どもめ。私なら選ばれた騎士2人分の戦いをしてみせる。だから、ランドルフ! 頼む! 私を選んでくれ。でないと……」


「それは、できない」

ランドルフは冷たく宣告する。


「何故だというのだ。どうして私ではだめなのだ」


「最初に条件を言っただろう。目的地は帝都であることを。そして、帝都には人間しか存在しないとうことを。……つまり、人狼であるお前は目立ちすぎるのだ。異形のものである人狼の姿を、気配を隠すことなど不可能。すぐに敵に発見され戦いとなるだろう。目的地にたどり着く前に、我らは全滅することとなる。お前の戦闘力が圧倒的であることなどこの場の誰もが分かっている。それでも選ばなかった。いや選べなかったのだ。分かってくれるだろう? 」


「姿かたちなど、フードでもかぶれば誤魔化せる。どうにでもなるはずだ」


「人間と人狼を間違える者など存在しない。そしてお前の気配を隠すことなど、どうあがいても不可能だ」


「ぐぬううううう。何故分かってくれない。分からぬというのだ! 愚か者め! えええい、話して分からぬというのなら、力でそれを勝ち取らねばならないというのか、ならば!! 」


一触即発の状態だ。


人狼の体がわずかに膨張したように見えた。

周りの騎士達がそれに反応し、剣に手をかける。


刹那

「ヌガあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! 」

突然、悲鳴とも呻きとも分からない奇声を上げたと思うと、人狼は頭を抑えてもがき始めた。

椅子が弾き飛ばされ、机が激痛を堪える人狼の両手で握り潰される。

口から泡を吹きながら床に倒れた人狼は、激痛にのたうちまわる。


「どうした、ランプレヒト」

皆が駆け寄る。


「うががががあああああああああああああ、うがぐがうがうが」

何かを言おうとするが言葉にならない悲鳴だけが彼の口から発せられる。


「ランプレヒト! 」

ランドルフも駆け寄る。


「ガがおがおうお、がおうごあうごあうごあ」

人狼は混濁する視界の中で騎士団長を捉えたのか、彼に向けて必死に手を伸ばし、何かを伝えたいのか口を動かす。


「どうした何が言いたいんだ? 」


「え、ルケチソロキ、あなへでぃ、サタワさたわ、ヒサタウ」

しかし、人狼の話した言葉は意味を成さなかった。

そして大きく呻いたと思うとそのまま彼は白目をむき、気を失ったのだった。

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