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-11-

騎士たちを乗せたエレベータは、高速で降下していく。

そして、ほどなくして停止した。


騎士たちは扉の向こう側を警戒し、各々が戦闘の際の構えを取る。


ランドルフは背の大剣の柄に手をかける。

ラスムスは弓に3本の矢をつがえている。……その一撃で多数を射貫くつもりなのか。

クリストハルトは柄だけの剣を右手に持ち、脱力したような感じで突っ立っている。その姿にはまるで無駄な力が込められておらず、いかなる事にも即、対応が出来るように思えた。

人狼のランプレヒトは片膝をつき、両手を床に置いている。まさに飛び出す体勢だ。それはクラウチングスタートに酷似している。

そして、ショーは彼らの背後で銃を手にしている。今度持っているのは先程とはまた異なる形の銃だった。


それぞれが扉が開くと同時に飛び出し、敵を殲滅せんとするつもりだ。

言葉を交わすことは無いが、お互いが次の行動のすべてが把握しているようだ。


そして、扉が自動で開かれた……。


扉の向こう側には、先程と変化無く30人程度の巨人たちが残っている。


すでに彼らの狂乱の宴は収まり、今はただ呆然と立ち尽くしている、といった感じだった。

しかし、突然に開いた扉から5人の騎士達が出てきたことで、すぐに彼らの愚鈍そうな瞳に本来の凶暴な眼光が戻る。

素早く床に転がしていた棍棒を掴むと、臨戦態勢へと移行していく。

3メートルを超す巨人達がこの人数で動くと、この大広間でさえ狭く感じられ、かなりの圧迫感を受ける。

足を踏み出すだけで地響きがしそうだ。


騎士達はというと、巨人達が戦闘態勢に入っていることなどには、全く注意を払っていない。

それどころではなかったのだ。


彼らは、眼前に広がる光景に、慄然としている。

———王女は死んだ。

確かに、その事実は皇子に宣告されていたし、その事実を受け入れる覚悟はできていた。

王女の遺体があるのだろうと想像し、覚悟していたのだ。


しかし、……そこにあったのは【そ ん な も の】ではなかった。


彼らの覚悟など、粉々に粉砕するほどの衝撃だったんだろう。


広間には、どす黒く変色した血溜まりがあり、その中央に、ただの肉塊が無惨に転がされていたのだ。

ピンクや黒や赤色をした何か———。

もはや、それは生物の痕跡でしかなかった。

それは、ただの肉の塊でしかなかった。


現実を全否定したかっただろう。……それは王女ではないと。

しかし、切れ切れになった鮮やかなゴールデンブロンドの髪の毛、王女が纏っていた衣服らしき黒い布切れ、そして、彼女が身に付けていたあのティアラが肉塊の中にあったことから、もはやそれが王女であったことを認めざるをえなかったのだ。


「おおお、犬が来た! 」


「今頃来た? バカみたい、ははは」


「俺達欲求不満。獲物来襲、即刻抹殺」

巨人が牙をむき出し、獰猛な笑みを浮かべる。


「よっしゃ、おまえら、あの犬どもを叩き殺せ」

兜をかぶった巨人が命令する。

おそらくはその号令よりも早く、巨人達は騎士に向かって駆け出していた。


「ぬおおおおおおおおおお!!! 」

咆哮が室内に轟く。


それは、騎士達の怒りの叫び声だった。

彼らの瞳が発光し、頭髪が逆立つ。

体内から発せられる、湧き上がる炎のような波動が可視化され、この場に具現化される。


その迫力に圧倒されたかのように、巨人達の進撃が止まる!


まずは、エルフが矢を放つ。


3本の矢が青白い光を放ちながら、一直線に巨人の群れの中へと走る。

矢は全てが巨人の頭部を貫き、その勢いで犠牲者を後へと転倒させる。


飛び道具の存在に気づき、警戒しようとした巨人達だが、すでに彼らの眼前には距離を一気に詰めた2人の騎士が突進してきていた。

ランドルフ、そしてランプレヒトだった。

彼らはエルフの騎士が矢を放つと同時に駆け出して、巨人の群れへと飛び込んだのだ。


「うおおおおおおおおお!! 」

その、かけ声と共に、ランドルフの持つツヴァイヘンダーが大きく振りぬかれる。


斬撃!


その大剣による一薙ぎで、二人の巨人の体が真っ二つになる。続いてもう一撃。

二撃目のそれは、宙を舞う巨人の死体を進路から除去するためだけの動作。

血しぶきが舞う中をさらに突進する。


また、人狼は、その巨体からの動きとは思えない程トリッキーな動きをする。

まるで地を這うような姿勢で駆け抜けて来る! 

その姿はまさに狼の疾走だ。

巨人の棒撃を軽々とかわすと同時に、その体勢を一気に引き起こす。加速度を利用し、地面すれすれの位置からの、すくい上げるような右手の爪の攻撃が、驚愕する敵の顔面を襲う。

爪は巨人の喉元に当たり、そのまま一気に頭部を粉砕する。

悲鳴を上げる間もなく、巨人は噴水のように血を撒き散らしながら後ろへと斃れていく。人狼はその勢いのまま巨人の身体を蹴飛ばすと、その反動で空中に飛び上がって後ろへ一回転して着地する。そして、間をおかず、今度は着地の地面を蹴る勢いを利用し、次の敵へと駆けていく。

ターゲットとされた二人の巨人が絶叫しながら棍棒を振り下ろす。しかし、それぞれの棍棒の先を手のひらでいとも簡単に掴むと、そのまま握りつぶし、さらに前へと突進しつつジャンプし、今度は巨人達の顔を鷲掴みにする。

「っぎょむう」

叫ぼうとする巨人を、その勢いのまま床に叩きつけ、押し潰す。

ゴキリ、グシャリという嫌な音。

それは背骨がへし折れる音、頭蓋骨が粉砕される音だった。


鬼神のごとき攻撃に圧倒され、その猛攻から逃れようと背を向けて逃走する巨人には、今度はエルフの放った矢が容赦なく打ち込まれる。


巨人達の間に明らかな動揺が走る。混乱し行動が遅くなっている。

彼らは、王女の騎士の力を侮っていたのだろうか?


「ええい、お前ら何慌てとんじゃ。奴らはたったの5人じゃ。しかも、主を失ったはぐれ者じゃい。一対一で立ち向かうな。数で圧倒しろ。囲んでなぶり殺しにしてしまえ! 」

動揺を察知したリーダー格の巨人が叫ぶ。

その言葉で一瞬にして巨人達の動揺が収まったようだ。

まだまだ数的優位は変わっていないのだ、ということに気付いたんだろう。


巨人達は頷き合い、互いにアイコンタクトをすることで誰がどの騎士を倒すかのグループ分けを行い、それぞれが陣形をとって騎士達へと向かう。


一方、ショーは巨人達との戦いは仲間に任せ、王女の遺体の場所へと駆けつけていた。

クリストハルトが付き添う。

ショーは大きな血溜まりの中の変わり果てた彼女の姿に動揺し、言葉を無くす。


しかし、クリストハルトが声をかける。

「動揺は後でもできる。我々は、今なすべきことをなすだけだ。ショー、お前は自分のなすべきことのみに集中するのだ。私も、私のなすべきことをする」


「……うん、そうだね」

ショーは頷くと、体の前に両腕で輪を形作る。

「リアリゼーション」

掌が発光を始める。そして彼の構築した両腕の輪の中に、何かが形作られていくようだ。

「形象表現。形を現せ、機能を発現させろ。俺は許可する、この場に存在することを」

さらに光が強くなっていく。


「なにやっとんじゃい、おどれら」

ショーの集中を削ぐような、濁声が聞こえる。

一人、二人、三人……。

合計6人の巨人がショーたちの周りにやって来ていた。

その中には巨人のリーダーも含まれている。

ゆらりゆらりと迫ってくる。


ショー達は完全に取り囲まれてしまった。

彼らと巨人との身長差は1メートル以上ある。

遠目には大人と子供のようにしか見えない。


助けを求めようにも、ランドルフたちも別の場所で体勢を立て直した巨人達と対峙している状態だ。助けに来るのは難しいのでは?

まともにぶつかると、体格差と数的な劣勢でショー達に勝ち目はなさそうだ。彼らはどうする。


「変なこと、やったら、いかん」

と巨人の一人が棍棒の先を二人に向けて怒鳴る。しかし、その顔は何故か嬉しそうだ。


「ふっ。おやおや、どうやら私とショーが弱そうに見えるらしい。それで、わさわさと集まってきたのか」

クリストハルトがため息をつきながら言う。


「ふは、そんなの戦術の基本じゃろ、弱いところから各個撃破すんのが。太古からの戦闘部族巨人大戦略じゃ。お前ら殺したら、次はあのエルフじゃい」


「そこのガキ、なんかしてる。お前一人で戦う。マズ死ぬ」

巨人の一人が嘲笑する。


「私もずいぶんと舐められたものだが……。しかし、お前の言うことは一応正論だな。それでも、あえて一応言っておく。何事も、やってみないと解らないものだよ……」

と、あくまで静かな声で語る。


ショーは巨人との会話など聞こえないのか、顔をあげることなく作業を継続している。この状況でも全く動揺することなく作業に集中している。自分の身の守りをクリストハルトに完全に信頼し委ねているようだ。

すでに彼の腕の中で物が構築されていた。それは、グレーがかった色の大きな容器だった。


「とりあえず、潰したらんかい! 」

リーダーの掛け声を合図に、5人が一斉に襲い掛かる。

「GOD=ド・Ragon、デイ・LITEの二人は前へ。他の連中は、わしに続けい!! 」

巨人達が体勢を整え、ショー達を包囲する。


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