仮にも女子が何を言う!!
※中二レベルの下ネタが飛び交います。後半は下ネタパラダイスです。苦手な人は即逃げてください。
※背後に人がいないことをお確かめください。
(うう・・・・・・)
木下明香里はピンチに追い込まれていた。
(痛いよぉー・・・・・・)
昼間の学校、英語の授業中にこっそり下腹部を押さえる。ここまで酷くなるのはもう、反則だ。
明香里は酷い生理痛持ちだった。生理が始まって五年ほど経ったから周期は決まりつつあるが、毎月毎月痛みにやられる。毎回生理が始まる日から三日くらい前から前兆なのかお腹がゴロゴロ言い出すのだが、ちょっと寝相が悪い明香里は『お腹冷やしたか!?』と別の意味に捉えてしまうのだ。
それにしても、今日は酷い。一日目なのに酷い。お腹の筋肉が捩れてひきつれるようだ。顔を歪めずにはいられない。
一日目でこの痛みだと、二日目の明日はどうなるんだろう・・・・・・と涙目になってくる。
(んうっ!)
今、極限まで筋肉を引っ張られた気がした。痛みが尾を引いてなかなか冷めてくれない。
(絶対、絶対腹ん中に何かいる! 針とか包丁とかそこら辺の凶器持った何かがいる!)
一寸法師に腹の中を針で刺されまくって大泣きした鬼の気持ちが痛いほど、本当に痛いほどよく分かった。
下痢でもここまで痛くなったことはないかもしれない。しかも下痢の場合は対処法が分かってるからちょっと痛い思いすればあとは大丈夫なのだが、生理はそうは行かない。出したくても出せないというか、なんというか。
「明香里ー、なんか辛そうだけど、大丈夫ー?」
同じクラスで胸も大きくとても大人っぽくて憧れちゃう美人、夏川里奈が机に突っ伏している明香里に高い背をかがめるようにして声を掛けてきた。
「どうしたの? そんなに英語のミスター池田、嫌い?」
「ううん。あの先生は、授業ラクだから、どっちかってっと、好き・・・・・・」
「ふーん――――って、ちょっとホントに大丈夫? なんか死にそうだよアンタ」
「・・・・・・死んだっていい。てか、今のお腹なら死ねる。死なないほうおかしい」
「? ・・・・・・もしかして、お腹空いてんの? 思えばお腹押さえてるし。次給食じゃん。いっぱい食べな!」
ガンバ! と胸の前で拳を握ってキレイに笑った夏川は短いスカートの裾を翻していつも仲良くしているグループへ戻っていった。
次、給食か。給食かあ・・・・・・。
「食べれる気が、まったくしない・・・・・・」
だが一応用意はしなきゃいけないので、おぼん片手に配膳の列に並ぶ。今日は煮っ転がしだ。おいしそう。
なんて思える余裕なんて、どこにもない。
日直の『いただきます』が終わった直後、我慢できなくて明香里は机に突っ伏した。
口からは嗚咽も漏れる。
「いっつう・・・・・・」
一寸法師どころじゃない。針で刺されるなんてものじゃない。グラグラとマグマが煮え滾り、冷えて固まった火成岩が尖ったその身で容赦なく腹を切り裂いてくる。
「・・・・・・大丈夫?」
机を向かい合わせて四人組の班になったため今は隣の席、いつもは後ろの席の面倒見のいい頼れる友達、佐倉琴子が心配そうにこちらを見てくる。明香里はふるふると突っ伏したまま首を振った。
「痛い・・・・・・辛い・・・・・・」
「お腹?」
「うん」
「大丈夫? ムリして食べなくていいと思うよ。入るぶんだけ食べたら?」
その優しい声音に涙がにじみそうだ。
――――ピキッ。
「っぎゃーっ!」
そのとき、今年最大級の痛みが襲ってきて明香里は思わず叫んだ。
お腹が重い。痛い。吐きそう。出したい。出せない。辛い。
もう、色々限界で、何かがはちきれそうだった。
「――――なんで、なんで女子だけこんな痛い思いしなきゃいけないのーっ!!」
神様は不公平だ! と堪えきれず叫んだ今の言葉で、さりげなく明香里を心配していた同じ班の男子二名が、明香里が何に苦しんでいるか気づいた。そのうち明香里と正面で向かい合わせになる男子は女子のナイーブなことだから下手に声を掛けないほうがいいと判断したが、残りの男子は違かった。
「あー、なんだ明香里。ハライタか。大丈夫、オレもその痛み分かるから!」
このクラスで一番エロくて変態で昭和歌謡が大好きな男子、寒河江健が嬉しそうに分かる分かると言ってきた。
「はあ!?」
何が分かるだ! 男が分かるわけないだろ! 分かったような口利くなこのエロハゲ!
寒河江の軽すぎる一言で、明香里の最後の砦が崩壊した。
「分っ・・・・・・かるわけ・・・・・・、分かるわけ、ないじゃん! だって男子は出したいときに出すだけ出してスッキリするけどさぁ! 女子は違うんだからね違うんだからね! 分かってたまるかあ!」
ぷるぷると震えながらワーッ!! といきなり下ネタをぶっ放し、明香里以外の班員全員が固まった。
「明香里ちゃん、落ち着いて。ね、落ち着いて。私はある程度分かるから。ね?」
慌てたように佐倉が諭してくれるが、ダムが決壊し感情が滝のように流れ溢れ出る明香里の耳には届かなかった。
明香里のシモい反論に寒河江は一瞬怯んだが、今度はニヤニヤし始めた。
「さすが明香里サン、よくお分かりで」
・・・・・・絶対、バカにされてる。
反論したくてしたくてたまらなかった。
「分かるっつーかアンタがいっつも――――っんううううう!!」
が、長く続かない。
・・・・・・お腹空いた。けど腕を動かすのもあごを動かすのも物を飲み込むのも、全てが億劫だった。
「はぁ・・・・・・」
大きく息を吐き出す。
「もう、ヤダ。なんでこんな痛くなんなきゃいけないの? なんで? うち、なんか悪いこと、したかな・・・・・・」
「元気出して。とりあえず今日はゆっくり休もう。あ、そうだ今日私ね――――」
「あー、うんうん。分かる。分かるよその迷い。なにかにぶつけたいその痛み。どう? 一緒に分かち合おうじゃないか」
本当に疲れて出たため息のような呟きにふざける口調で返されて、もう本当に何かが切れた。
じゃあ、お前にぶつけてやるよ!
「だーかーらっ! お前に何が分かるんだ何があ! こちとら痛いんだからね激痛なんだからね! 女子は激痛なんだからね! だけど男子は違うじゃんむしろその逆じゃん! 悦んで出して出して出しまくるくせになにが分かるだこのエロガッパァァァァァッ!!」
後半はもう少しで放送規制のピー音が入りそうな単語を惜しげもなくぶっ飛ばしたところで給食終了のチャイムが流れた。
結局、ご飯にも汁物にも牛乳にも手をつけられなかった。
あとから知ったのだが、明香里と寒河江の会話は他の班にも筒抜けで、佐倉と寒河江以外の男子はすごくいたたまれない顔をして座っていたのだそうだ。それと、痛いの逆ということで寒河江が『気持ちい――――』と言いかけていたのを、正面の男子が引っぱたいて阻止したのだそうだ。
昼休み。佐倉が机から動けないでいる明香里の許にやってきて、
「明香里ちゃん、私、痛み止め持ってるんだけど、飲む?」
救いの手を差し伸べてくれたので明香里は堪らず、
「飲む!」
縋りついた。
佐倉は少し遠いけど人の少ない西校舎に行こうと申し出てくれたので明香里は頷く。佐倉の肩を借りて階段を上り、予想通り誰もいない西校舎の水道で鎮痛剤を二錠もらって嚥下した。
「明香里ちゃんって十五でいいんだよね?」
「うん。・・・・・・ありがとう。助かった。今度なんかあったら言ってね。うちに出来ることならなんでもする」
「ありがと。でも今は明香里ちゃんが早く治ってくれれば一番」
「佐倉さん・・・・・・」
やばい。佐倉の後ろに白くて大きな羽が見える。思わず抱きついた。
「ありがとおー。佐倉さん大好き。愛してる」
「あはは、ありがとう。今日はお疲れ様。今度またお腹痛くなったら・・・・・・早めに教えてね」
「うん・・・・・・うん。教える。絶対教える」
明香里はその言葉を佐倉の優しい気遣いとだとばかり思っていた。
もちろん、佐倉の気遣いでもある。
だが、リーダの部分に佐倉は本音を隠していた。
『今度またお腹痛くなったら、もうあんな恥ずかしい思いはしたくないから、早めに教えてね』
◆END◆
ここまで読んでくださいありがとうございます。沖田リオです。
しばらく二つある連載小説のほうにかまけていて、かなり久しぶりの新作になりました。いかがだったでしょうか?
といってもメインは下ネタです。15禁にならないようにだけ努めてみました。でも見る人によっては15禁かもしれません。
自分も酷い生理痛持ち(しかも毎月じゃなくて数ヶ月に一度単位ですっげぇ酷いのが来る)なので、どうあの痛みを伝えてみようかすごく悩みました。なんとなくこんな感じの痛みかな? と想像してくださったらもう十分です。ありがとうございます。
作中に出てきた『夏川里奈』と『佐倉琴子』ですが、それぞれを主人公にしたお話も書いています。興味があって時間を持て余している心の広い方、よかったら覗いていってみてください。夏川里奈の話はこれまた下ネタメインで今作と似たような題名で、佐倉琴子の話は友情の崩壊を描いたちょっとシリアスなものになっています。
では、最後の最後までお目通しくださり、本当にありがとうございました。
またあなたさまのお目にかかれるよう、日々精進してまいりたいと思います。