四、カザリゼの街並み
港が近く、大規模な太陽光発電施設を有するカザリゼは、最大の交易の街として世界中で知られていました。
海の向こうで生産されている、バギーなど大型電化製品の卸売で、街の経済は非常に安定しています。
それはバッテリの性能が向上したことで、カザリゼの南に位置するアイーダを除く六つの街まで、通常のバギーでも充電が持つようになったからだといいます。
アイーダまで充電する事なく運行出来るのは一部の超大型バギーだけで、その運行は充電に膨大な電力がかかる事から、今ではほとんどされていないそうです。
そしてカザリゼのもう一つの特徴は、未だプラトーンの影響をほとんど受けていない事から、食物や木材など、有機的な資源が豊富な事でした。
コギトはむしろこの事が、街の潤いを呼んでいると考えていました。
「食物が豊富だと言う事は、そこには命がたくさんあるという事。命と命は惹かれ合い、連鎖するものなんだよ。」
カザリゼの街の豊かさと、あまりの人の多さに呆気にとられている僕に、コギトは諭すように言いました。
ここはカザリゼの入口広場です。
「己の命を別の命に繋いでいく事。それがこの星に命の光が宿った瞬間から脈々と受け継がれる、唯一絶対の生命たる制約なんだ。だからスム、食事は良く噛んで下さいね。」
そういうとコギトは、僕の頭にそっと手を置きました。
「なんでそういうことになるのさ。全然分からないよ。」
僕は子供扱いされたのがなんだかカチンと来ましたので、少しむっとしたように言いました。
けれどもコギトはすっかり澄ましています。
「さあ、もう宿に行こうよ。」
本当はまだまだ物珍しい街を見て回りたかったのですが、またコギトに子供扱いされそうだと思いましたので、わざとまるで興味もないというふうに言って歩き出しました。
「密接な関係にあるのだけどなあ。まあどちらにせよ食事は良く噛んでとるようにね。さあ、スム。僕は宿の前に寄りたいところがあるものだから、先に行っていてくれるかい。」
コギトはまた何もなかったように言いました。
「寄りたいところってどこさ。」
僕はふて腐れてぶっきらぼうに聞きます。
「少し買い物をしようかと思ってね。ジャッタルイカの街で画が良く売れたものだから。」
コギトは画がとても上手なので、行く先々の街でそれを売って生活しています。
プラトーンの浸蝕が始まる前の世界を描いているらしいのですが、コギトの描くのは見た事のない生き物ばかりです。
けれど、どうやら蓬莱にはまだその生き物達がいるとコギトは言います。
コギトは決して嘘をつきませんし何でも知っていますので、きっと蓬莱は本当にあって、そこには本当に画の生き物達がいるのだと思いました。
「では先に宿へ行きます。コギトは今夜も画を描くの。」
「ああ、そのつもりだよ。だからスムの部屋だけで良いからね。」
そう言いながらコギトは僕にお金の入った古い革の袋を渡しました。
そうして気をつけるようにと言うと、コギトは人込みに消えて行きました。
しかしよくよく考えてみると、旅に必要なもので特に切らしているものはありませんしこれ以上荷物は増やせませんので、いったい何を買うというのだろうと、僕は今更不思議に思っておりました。
するとギイリギリと荷車を引いた、筋肉質で身体の大きな水屋のおじさんが、心配そうな顔をして話しかけて来ました。
「ぼうや、一人きりかい。」
僕はそうですと丁寧に答えて、宿を探していると話すと、おじさんは親身になってあれやこれやと教えてくれました。
どうやらこの入口広場は電化製品の商いの最も盛んな場所らしく、各地から買い付けに来る機械屋ばかりで、僕のような子供が一人でいるのはなんとも珍しい事のようでした。
そしてたいへんに弱った事に、おじさんが言うにはこの街には宿が幾つもあるらしいのです。
これだけの大きな街ですからよく考えたら当たり前ですが、コギトとはどの宿に泊まるのかまでは決めておりませんでした。
「それじゃあはぐれちまったって事だなぁ。1番目立つのは、そら、そこの煉瓦造りの建物だが、あそこのスープはどうにもよくない。使ってる水が悪い証拠さ。安くて飯のうまい宿なら、この機械広場をくず鉄通りとは反対に真っ直ぐ抜けて、市場の外れにとびっきりのがある。まぁ見てくれは良くないし、目立たないがね。それに料理の腕は確かだが愛想と口が悪くて頑固なじいさんがいる。まあうちが水を卸してんだ。飯の味は間違いない。」
水屋のおじさんは腕を組んで得意そうにふんと鼻を鳴らしました。
「僕、見てくれは関係ないです。やっぱり水やご飯がおいしいのが1番だもの。それにおじさんは親切でいい人だから、おじさんの言う事は間違いなさそうだ。見つけづらくてコギトには申し訳ないけれど、僕そこが良いです。」
おじさんはワッハッハッと豪快に笑いました。
「よし、ではまず宿まで送ってあげよう。その後一緒にそのコギトという青年を探そうじゃないか。物騒な盗賊共が随分幅を効かせてるからな。最近はデイダラの弓もこのへんに来ているらしい。」
おじさんは手を腰に当てて難儀そうな顔をしました。
「そんな申し訳ないです。まだお仕事中なのに。」
僕は慌てて言います。
「まあ、仕事といってもこいつを引いて街中に水を売って回ってるだけさ。今日は大きい仕事がなかったものでね。ウチでのんびりしようにも家内にどやされてしまうしな。」
おじさんはまた大きく笑いました。
僕も一緒になって笑いました。
「スムと言います。よろしくお願いします。」
僕はまだ少し笑いながらきちんとお辞儀をしました。
「殊更賢い子だ。身体も頑丈でよろしい。俺はカヤックだ。よろしくな。」
カヤックさんは感心した様子で僕の頭や肩の辺りぽんぽんと叩きながら言うと、また豪快に笑いました。
なんだか嬉しくて、僕は少し得意になります。
「では僕もお手伝いしますね。」
カヤックさんの引いている荷車の後ろに回ると、思い切り押してみましたが、これがもう本当にビクともしません。
「はっはっはっ、スムにはちょっと重いかもしれんなあ。じゃあ荷車に乗って水瓶を抑えてくれるか。縛ってはあるがどうにもボロでな。」
僕はすぐに荷車に乗りましたが、もっと重くなってしまって大丈夫なものかと心配になりました。
「しっかりつかまってな。」
カヤックさんがぐっと前に体重をかけると、荷車はゆっくりと動き出しました。
カヤックさんの背中は、なんだかとても逞しく見えました。




