八、発掘屋の男達
昇降機で地上に上がり、ラボを出てぐるりと裏手に回ると、そこには何処までも発掘現場が広がっております。その中の一角に大きな平地があり、そこには既にたくさんの男衆が集まっておりました。
その先頭では先程のパダヤさんが何か大きな声でざわつく男衆に指示を出しております。
そこへアマンダさんと僕が近づいて行くと、男衆は興奮と喜びが抑えられない様子で、またお祭りのようなたいへんな大騒ぎをはじめました。どうやらパダヤさんは、先頭で大声を出して皆を静かにさせようとしているようでした。
怒鳴り散らすパダヤさんの隣には、ツルハシを杖がわりに使ってじっと黙って立っているカダカさんがどっかりそこにおりました。両の目をつむってまるで眠っているというふうで、ピクリとも動きません。
僕は少し離れて見ておりましたが、アマンダさんはパダヤさんの隣まで行き、腰に手をあて呆れた様子で言いました。
「あらあら、まるでお祭りね。まあ無理もないけれど。」
石像みたいにしておりましたカダカさんは、どうやらアマンダさんに気がついたのか、俄かに目を見開きますと、まるで地割れのような大きな大きな声で怒鳴り散らしました。
「てめえら男だあろうが。ちったあ静かにしやあがれ。」
すると男衆はぴたりと騒ぎを止め、さっと綺麗に並びました。
「さすがあ、親父。」
一緒になってぴたりと止まっていたパダヤさんが、ぼそりと呟きました。
すると今度はアマンダさんが、負けずに大きな声で話しはじめました。
「皆、話は聞いているわね。今日は久しぶりの大仕事ですから、興奮するのも仕方がないわ。大いに腕を振るってちょうだい。でも発掘場所が少し厄介で、許可を取っている区域のぎりぎり外にあるの。ですからもたもたしていると各方面から横やりが入りそう。たいへんだとは思うけれど、出来れば今日中に片付けて欲しいの。皆なら、きっと出来るわ。父がいつも言っています。発掘屋どもは決して誇り高い奴らじゃない。けれど奴らの誇りは泥臭く屈強でどこまでも深い。女房子供を地上に残して穴蔵進むなんざ、並の心意気じゃあ勤まりゃあしないってね。私もそう思います。さあ、発掘屋の男の意地と心意気、今から私に見せてちょうだい。」
一瞬の静寂の後、男衆は一斉にそれはそれは物凄い勢いで沸き立ちました。アマンダさんはその様子を見て、満足そうに微笑んでおります。
すると今度はカダカさんです。
「野郎どもお、まずは飯だ。昼飯を食った奴からバギーに乗り込め。場所の指定は昼飯が終わる頃には嬢ちゃんから通達がある。いいか、どんなに血が騒いでも飯は焦って速く食うな。それに食い過ぎも良くねえ。分かるな。今日は厳しくなる。必ず言霊を持って来い。では解散。」
男衆はガヤガヤとなんだかたかぶりをどうにも抑えられないといった様子で、昼食をとりにあちこち散って行きました。
その中でその場に残ったアマンダさんとカダカさん、パダヤさんは何やら専門的な話をしているようでしたが、僕の所までは良くは聞こえてきませんでした。
アマンダさんは暫くして話を終えたのか、発掘屋の皆さんの迫力に一歩も動けずにいる僕をこちらに来なさいと呼びました。
「スム。こちらはカダカさんとパダヤさん。見ての通り発掘班を仕切ってくれてるわ。ご挨拶をして。」
僕は三人の所へ慌てて駆け寄りました。
「はじめまして。スムです。よろしくお願いします。」
僕は先程までの様子で、カダカさんが少し恐いように思えておりました。
するとカダカさんが僕にぬうっと顔を近づけて、しゃがれた声で言いました。
「お前がスムか。コギトの野郎と旅をしているらしいじゃあないか。それにカヤックの小僧にも気に入られたとか。なるほど確かに良い目をしているな。」
僕は蛇にでも睨まれたようにびくびくとしておりましたが、驚きでそういうあれこれがふっと飛んだようでした。
「カダカさんは、コギトとカヤックさんをご存知なのですか。」
カダカさんはクックックッと喉を鳴らして笑います。
「坊主。わしはお前さんの五倍以上長く生きておる。お前さんが知っておってわしが知らぬ事なぞ、ざらにはないのだよ。コギトの奴は昔から知ってはおるよ。わしはこの嬢ちゃんの親父とずっと組んでやって来たのでな。わしが掘ってベネットが調べる。そういう仕組みさ。ただコギトの奴は、発掘現場に近寄りたがらなかったのでな。あまり言葉を交わす機会はなかったわな。それにコギトの事は嬢ちゃんから皆に話してある。あいつが魔物だなんだ呼ばれている事をガタガタ言うようなやつぁここにはいないさ。カヤックの小僧は、ああ、良い仕事をするようになった。あいつの親父さんは一流の水屋だったからなあ。」
そう言ったカダカさんは何処か遠くを見ておりました。
すると横からにゅっと顔を出したパダヤさんが言いました。
「俺もカヤックの野郎は知っているぜ。確かにあの野郎の親父は良い水屋だか、うちの親父は超一流の発掘屋だ。」
パダヤさんはニッカリと笑って見せました。
僕はパダヤさんはカダカさんを本当に尊敬しているのだなあと思いました。
「じゃあ嬢ちゃん。わしらもそろそろ飯にさせてもらう。坊主、しっかりやれよ。」
カダカさんはそう言うと、パダヤさんと一緒に何処かへ食事をとりに行きました。
「さあ、あなたもお腹が空いたでしょう。ジャンバニにはお昼はいらないと言ってしまったけれど、あなた一人分くらいならどうとでもなるでしょう。宿に戻って食べるといいわ。私はまだする事があるものだから、申し訳ないのだけれど一人で戻れるかしら。」
アマンダさんは首をかしげて僕を見て言いました。
「はい、僕行けるので大丈夫です。」
僕ははきはき答えました。
「では食事が終わったら私達の研究室で待っていてね。ねえ、ところでスム。ソヨ、どうだった。かわいい子でしょう。」
アマンダさんは僕の顔を覗き込んで言いました。なんだかニヤニヤとしていましたので、僕はからかわれる気配を直ぐさま感じて言いました。
「そうやってからかおうというのですね。アマンダさんひどいや。ソヨは確かにかわいらしかったですし、物凄い才能のある子だと感じました。もう、これで満足ですか。」
僕は膨れっ面で言いました。アマンダさんは僕の反応が意外だったらしく少し驚いたふうです。
「あらあら、あなたは本当に素直な子ねえ。私も見習わなくっちゃ。ではスム。ソヨの才能とはいったい何なのでしょうねえ。」
アマンダさんは、今度は空を見ながら言いました。
「それは閃きとかではないのですか。」
僕は当たり前にそう思いました。
「そうねえ。そうかもしれないわねえ。ではあなたには、ソヨの才能が眩しく輝いて見えているのね。」
「はい、そういうふうに見えています。」
アマンダさんはそう言う僕をしげしげと見つめ、ふっと笑って言いました。
「いいこと、スム。私にはあなたもソヨと同じに輝いて見えているわ。それはあなたがソヨのように何か一つ飛び抜けたものを持っているからではないわ。そのことを、どうか覚えておいてちょうだいね。」
僕はアマンダさんのおっしゃることがよくわからず、どうにも返事を出来ずにおりました。するとアマンダさんは僕の頭をくしゃくしゃっとやり、ぱんと手を叩きました。
「さあ、私もそろそろ行かなくちゃ。ではまた後でね。」
アマンダさんはそう言うと忙しそうに速足で何処かへ行ってしまいました。
僕はなんだかよく分かりませんでしたが、そろそろお腹が空いてきましたのでとりあえず言われた通りに宿へ戻り昼食をとることにしたのでした。




