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コギトの雨  作者: 海老
第二章 地底の都フィロソフィアとシュレーディンガーの猫
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七、研究者達のたかぶり

「まず、この文字とこの文字、接辞せつじ解釈かいしゃくを改めました。恐らくはエスペラント語と呼ばれていた言語にぞくするであろうという父の見解けんかいは、正しかったのだと思います。そうすると今まで解読出来なかった三箇所は、”出来ない”、”南東”と”正門にいたれり”となります。」

 少女は門にきざまれた文字群もじぐんの中から、指で一箇所一箇所指定しながら何やら説明をしておりました。

 僕にはその内容がさっぱりと理解出来ず、ただただ賢明けんめいなる少女に目を奪われるばかりで、周りの大人達も皆、同じに少女の言葉を聞き逃さぬよう注意深く聞いているというふうでした。

「キムさん、これはかなりの信憑性しんぴょうせいではなくて。全てつじつまがすっかり合うように思えるのだけど。」

 アマンダさんは少女の説明を一仕切ひとしきり聞くと、しばらく黙ってキムさんにたずねました。

「私もそう思います。ソヨの解釈かいしゃくが正しければ、この門はこちら側からは開かないけれど、別に正門が存在して、座標と深さからすると、我々ならそれを今日の深夜までには掘り起こす事が出来る。しかもその可能性はとても高い。」

 キムさんは小さな目を細めひたいに手をあて、高ぶりを抑えるように言いました。

「パダヤさん、やりましょう。すぐにカダカさんに連絡を。発掘班はラボ裏に集合と伝えて下さい。」

 アマンダさんはすくりと立ち上がって落ち着いた声で言いました。

 するとパダヤさんはニッカリと笑って、待っていましたというふうに右腕のそでをまくし上げ力こぶをぐぐぐうっと見せ、そそくさと昇降機の方へ走って行きました。

「ソヨ、お疲れ様。あなたは本当にすごいわ。お父様をよく助けているわね。キムさんもソヨも、皆も本当にありがとう。さあ、ここからは体力仕事よ。皆は研究室で良い報せを待っていてね。では上へ参りましょう。」

 僕は分からないながら、今から何か凄い事が起きるような空気をなんとなしに肌で感じ取っておりましたので、質問はおろか、何一つわずかな感嘆かんたんの声さえも口に出す事が出来ずにおりました。

 少女は立ち上がり服のひざ辺りに付いた土を両の手でぱっぱっとはらうと、キムさんに頭をでられ何かめられた様子で、たいへん嬉しそうに笑いました。

 僕にはその笑顔が、地下にあってなお輝く、たいへんにまぶしいもののように思えたのでした。

 そして皆がそれぞれに確認事を行い、では昇降機に向かおうという時、僕は少女とふいに目が合ったのです。

「あら、あなたは。」

 僕はにわかに緊張して、頭の中がカチコチとなりなんだか上手く言葉が出てきませんでした。

「あらあら、紹介が遅れてしまったわね。皆さん、今日からしばらく私の助手として勉強する事になりました、スムです。どうか仲良くして下さいな。」

「はじめまして、スムと言います。今日からよろしくお願いします。」

 僕は緊張をどうにか振り払おうと、たいへん大きな声で言いました。

 すると皆さん拍手をくれて、よろしくと言ったりようこそと言ったりして歓迎して下さいました。

「ソヨ、あなたとスムは同じ歳なの。色々教えてあげてね。」

 ソヨは分かりましたと元気に答えます。そしてこちらを見てニコリとしました。

「私はソヨンファ。みんなソヨって呼ぶの。どうぞよろしく。」

 ソヨは若草色の服のすそを両の手で上品につまみ、すっと軽く持ち上げながらひざを柔らかく少しだけ屈伸くっしんさせて、女性らしく挨拶あいさつをしました。

「僕こそよろしく。」

 僕はあわててそれだけ言うと、たいへん照れ臭いような恥ずかしいような気持ちになったのでした。

「さあ、皆さん。スムがラボに来たこの日を、私達で最高の記念日にしましょう。」

 アマンダさんがそう言って手をパンと叩くと、皆はうなずいたり握りこぶしを作って見せたりしながら、ガヤガヤと昇降機に向かいました。

「スム。では私とあなたはラボ裏へ行きましょう。」

 たいへんはきはきとそう言ったアマンダさんの目は、なんだかとっても生き生きとして見えました。

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