六、ソヨとの出会い
三人が外へ出ますと途端に遠くから近くからあちこちで声が上がりました。ラボラトリの中はまるで祭騒ぎのようです。
「おおいキムゥ、ソヨちゃんがまたやったってえ。お前さん仕事取られっちまうなあ。があはっはっはっ。」
下の方で発掘屋の格好をしたおじさん達が大笑いをしております。
キムさんはなんとも照れ臭そうに頭をボリボリとかいてそれに応えました。
たくさんの研究室からもみんな顔を出して、おめでとうございますと丁寧に言う人もあればキムさんの背中をバシリとしたり、拍手を送ったりなどして、それぞれにキムさんをお祝いしているようでした。
僕はどうにも何が起きているのか分からないまま、入ってきた時とはまるで様子の違うラボラトリのあちこちをキロキロとしては、なんだか大勢の視線を自分が浴びているような気になって、恥ずかしいような体裁の悪いような気持ちで二人の後ろをちょろちょろ行きました。
入り口の方へ速足で進む僕達に、ラボラトリ中が視線と歓声を送っている中、強面の背の高いおじいさんがしゃがれた大きい声でまた下の方から言いました。
「嬢ちゃん、外ぉ掘ってるわけえ衆呼び戻しとくかい。」
アマンダさんも負けないくらい大きな声で答えます。
「ええ、お願いしますわカダカさん。まだどうなるかはわかりませんが、一応バギーの手配もお願いします。」
カダカさんというおじいさんは右手をブランと上げてそれに答えると、発掘屋さん達を集めて何やら指示を出しているようでした。
アマンダさんとキムさんは、研究室のドアとは随分と違う雰囲気の扉の前で立ち止まり、横のボタンのようなのをカチャリとやりました。するとそのドアがひとりでに開いたので、僕はてっきり中側に誰かいるものと思ったのですが、これが不思議なことに中の小さな部屋には誰もいないではありませんか。
僕はその事に随分と驚いていたのですが、たいへんたかぶって見える今の二人にはこの小さな衝撃をとても伝えるべきだとは思えませんでしたので、がんばってだんまりとしたままにしました。
そうして二人に習って中に入ると、ドアはまた誰の力もなしに閉まりました。辺りをきょろりと見回しておりますと、途端に部屋がゴオンと揺れ、なんだか宙にでも浮いたようなそれは気持ちの悪い妙な感覚になりました。
僕がたいへん不安そうにしていると、アマンダさんがその様子に気が付きました。
「あら、昇降機は初めてかしら。少し変な感覚でしょう。」
僕はなんだかまだ不安でしたので、黙ったまま頷いてみせました。
「ははは、不安そうだね、スムくん。この部屋は小さな箱になっていてね。上から頑丈に吊してあるのさ。それを強力なモータで巻き上げたり下げたりして、人や物を昇降させるのだよ。安全な作りになっているから、心配はいらないよ。」
キムさんはまるで励ますように言いました。
「そうよ、心配はいらなくてよ。今は下へ下がっています。下では地中深くまで発掘が行われているわ。そこで見付けた旧世界の文字をソヨが解読したの。」
ソヨという子に感心をする前に、僕はこの部屋が箱で吊されて落ちているという事実と向き合うのでどうにも精一杯なのでした。
するとまた変な感じがして、部屋がガコオンと鳴りました。
「さあ、着きましたよ。」
ドアがまた勝手に開くと、そこには本当に土の中の空間が洞窟のように広がっておりました。
奥へ奥へ、通路のように掘り進められていて、その空間は縦も横も大人の男性の身長の倍程の広さはあるようでした。一定の間隔で電気ランプが土の壁に取付けられていて、中は足元までは苦もなく見える程度の明るさです。
暫く奥へ進むと行き止まりになっておりまして、そこには何人か人がいて、その中の一人がこちらに気付いて言いました。
「おお、来たかお嬢。今解読し終わったとこだ。」
わしゃわしゃと髭を生やした屈強で大きな身体の男性が、こちらに向き直り片手に持ったランプをかかげました。
男性の向こうには何か辺りの土壁とは明らかに異質な、門のようなものが見えており、その門の前では本や書類を持った白衣の人達が、四、五人集まって何か熱心に話をしております。
「おはようございます、パダヤさん。皆もおはようございます。朝からお疲れ様です。おはよう、ソヨ。やったわね。本当に凄いわ。では、説明をお願い出来るかしら。」
アマンダさんは身を屈ませて、穏やかな声で言いました。
「おはようございます、アマンダさん。今朝は早起きしてしまったものですから、お洗濯の前に少しお散歩をして、この子達の事を考えていたの。そしたら突然に思いついて。」
白衣の人達の間には、無邪気に笑う黒い髪に黒い瞳の少女が、ランプの光で美しく照らされておりました。




