表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コギトの雨  作者: 海老
第二章 地底の都フィロソフィアとシュレーディンガーの猫
11/31

三、スムの学び部屋

 アマンダさんの研究室に入ると、中には二つの立派な机と大きな本棚ほんだな、それに見たことのない機械がいくつかどっかりありましたが、僕の研究室というイメージとはなんだか少し違っているというふうでした。

 研究室と言えば、珍妙ちんみょう色形いろかたちの色々な実験器具が所狭ところせましと並んでいるというのが、やはりなんともそれらしいと思えたのです。

「ここが私とお父様の部屋よ。研究室と言うより事務室ね。さあ、今日からここがあなたの学び部屋です。暫くはそちらの机を使ってね。お父様の机だけれど今はいないから。少し大きいだろうけど、新しい机が届くまで我慢してね。」

 僕はたいへん慌てて言いました。

「そんな、机だなんて。僕なんかどこか平らな所があればそこで十分です。本当に学ばせていただけるだけで幸せなんです。この上アマンダさんのお父さんの机や新しい机だなんて、とてもお借り出来ません。」

 僕がわたわたとしていると、アマンダさんは何故だかふふふと笑って言いました。

「いいえ、スム。私はコギトとあなたを教える約束をしました。引き受けたからには私は手を抜かないわ。あなたにはちゃんとした環境で学んでもらいます。そのかわり厳しくてよ。なにせジャンバニ仕込みですからね。」

 僕はなんだか申し訳ない気持ちでいっぱいです。

「でもさすがにこんな立派な机は恐れ多くて。」

 するとアマンダさんは少し困った様子で言いました。

「まあ、恐れ多いだなんていったい何処で覚えたのかしら。利口過ぎるのも困ったものね。いいこと、スム。学者の価値は机で決まるものではなくてよ。そんな事は気にせず、知の探求にだけ目を向けなさい。今はただそれだけでいいのよ。」

 僕はしばらくぐるぐる考えましたが、やっぱりアマンダさんの言う通りにするのがなんとも良いように思えました。

「分かりました。ああ、生意気を言ってごめんなさい。アマンダさん、本当にありがとうございます。どうかよろしくお願いします。」

 僕は深々とお辞儀じぎをして、この感謝の気持ちが本当に伝わればいいと思いました。

 アマンダさんはしばらく僕を見つめると、そっと近づき優しくぐっと抱き寄せて言いました。

「本当に利口過ぎて困ってしまうわ。この小さな小さな身体のいったい何処に、こんなかしこさと優しさが詰まっているのかしら。」

 僕は少しむっとして、聞き捨てならないというふうに言いました。

「僕、随分大きくなりました。コギトも見違える程だって言っていました。」

 僕は男の子なものですから、小さいだなんて言われては黙ってなんていられません。

 けれどアマンダさんはヘンテコで、たいへんな勢いで笑い出したのです。

「はあ、ごめんなさい。そうね。紳士に向かって失礼でした。反省します。どうか許してね。さあ、スム。そこに座って。そろそろお話をはじめましょう。」

 僕はなんだか納得がいきませんでしたが、言われた通りきちんと椅子に座りました。

 そしてその椅子のあまりのすわり心地の良さにびっくりしたのですけれど、アマンダさんはもう随分と真剣な様子でしたので、その事はしっかり黙っておりました。

「コギトの話をする前に、一つ聞いても良いかしら。」

 アマンダさんは静かに尋ねて、僕が黙ってうなずくとそのまま続けました。

「スムは何故、コギトと旅をする事になったの。」

 アマンダさんはなんだか慎重そうに聞きました。

「おじいさんがそうしなさいって。僕には必要な事だって言ったんです。」

 僕がそう言うとアマンダさんは顔いっぱいに疑問を浮かべて、分からないというふうです。

「おじい様は元々コギトとお知り合いだったのかしら。」

 僕はそう言われてはじめて、二人がどういう関係だったのか不思議に思いました。

「分かりません。でもおじいさんはコギトが訪ねてくるのを知っていたようでした。」

 アマンダさんは手をあごにやってしばらくじっくり考え込んでおりました。

「そう。そうだったの。話してくれてありがとう、スム。さあ、今度は私の番ね。何から話しましょうか。」

 アマンダさんも自分の椅子に腰かけて、遠い遠いここではないどこかを見つめているという目で言いました。

 僕はその深い美しい目を見ていると、にわかに心臓がドックリとなり出して、なんだか不安なような心配なような、たいへん心許こころもとない気分になったのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ