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戦国乙女ゲーのお市に転生したので、推しの柴田勝家ルートを現実で攻略します  作者: 一月三日 五郎


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第4話:魔王の「合格点」と笑顔の男

稲葉山城の戦いは、竹中半兵衛の策が面白いほどに嵌まった。

内部からの火計と疑心暗鬼によって鉄壁の城門は内から開き、

柴田勝家はその機を逃さず、一番乗りの軍功を挙げたのである。


---


清洲城に戻った私たちを待っていたのは、祝宴ではなく、肌を刺すような静寂だった。


奥の間。


織田信長は、相変わらず不敵な笑みを浮かべたまま、上座から私たちを見下ろしている。


「……報告は受けた。権六、貴様があの稲葉山城に一番乗りを果たしたとな」


「はっ。すべてはお市様の……」


「黙れ。市が何を吹き込んだかは知らぬが、動いたのは貴様だ」


信長はゆっくりと立ち上がり、勝家の首筋に冷ややかな扇の先を突きつけた。


「並ぶ者のない軍功を挙げ、余を感嘆させれば、市の『戯言』を一考してやらんでもない。

……余は確かにそう言った。」


部屋中の空気が張り詰める。


「そして、貴様の今回の働き、確かに賞賛に値する。

 猪武者にしては鮮やかなものよ。腹立たしいほどだ……。」


もしここで魔王の機嫌を損ねれば、勝家の首は飛び、私は予定通り浅井へ嫁がされることになる。

私は祈るような心地で、隣に控える勝家の横顔を見つめた。

泥にまみれ、それでも瞳には強い光が宿っていた。


「…………ふん」


信長は不意に扇を引き、鼻で笑った。


「市。貴様の『推し』とやらは、どうやらただの置物ではなかったようだな」


「……兄上!」


「勝負は預けだ。……権六、次は余の目の前でその働きを見せよ。

 市、貴様の縁談も、暫くは棚上げにしてやる」


---


勝った。


歴史が、シナリオが、私の意志で動き出したのだ。


信長の部屋を辞した途端、私は廊下で勝家様に向き直った。


「権六! やりましたね、本当にお見事でした!」


「……お市様。この権六、一生の不覚にござる。

 姫様にここまで背中を押していただかねば、汚名を雪ぐ機会すら得られぬところでした」


勝家様は不器用に眉を下げ、それでいて私を守るように大きな手を肩へ添えた。


「約束いたします。これからは、この命に代えてもお市様の望む未来を切り拓いてみせましょう」


(最高……。勝家様の忠誠イベント、実写(?)で見れるなんて……!)


ときめきで破裂しそうな心臓を抑えながら、私は彼の手を握り返した。

まだ「お見合い」が一時停止したに過ぎない。

けれど、この不器用な武人の隣でなら、どんな鬼畜なイベントも塗り替えられる気がした。


私の「推し存続計画」は、ようやく一つの大きな壁を乗り越えたのである。


信長様からの「棚上げ」という名の合格点を勝ち取り、緊張の糸が切れた私と勝家様。


その背後に、場にそぐわないほど明るく、それでいて油断ならない声が響いた。


「いやはや! 実に華々しいご武功! 柴田殿、この藤吉郎、感服つかまつった!」


振り返ると、そこにいたのは一人の男だった。


少年のような華奢な体に纏うのは仕立ての良い極彩色の着物で、

まるで太陽のように眩しく、後年の聚楽第を先取りしたような煌びやかさだった。


顔はといえば、愛嬌のある小さな瞳に、くるくるとした巻き毛。

「猿」という渾名から想像する醜さとは真逆の可愛らしさを演出していた。


だが、その瞳の奥には、すべてを飲み込むような底知れぬ野心と、

見る者を幻惑するような人懐っこい光が同居していた。


豊臣――いや、羽柴秀吉である。


「……藤吉郎か」


勝家様がわずかに眉をひそめる。

この二人の相性の悪さは、ゲームでも「犬猿の仲」なんてレベルじゃなかった。


「左様! 皆々が城攻めに手間取る中、まさか柴田殿が一番槍とは。

 おまけにお市様を軍師に立てての離れ業……。

 いやあ、お市様の慧眼、そして柴田殿の剛勇!

 お二人の仲睦まじき武功、まさに天下の語り草にござりますな!」


秀吉は揉み手を作りながら、大仰に頭を下げる。

その拍子に、腰に下げた瓢箪がカラカラと鳴った。

一見、ただの調子の良い祝辞。けれど、その鋭い目は私と勝家様を交互に観察し、

私たちの「距離感」を測っているのが分かった。


「……口が過ぎるぞ、猿。我らはただ、己の職分を全うしたまでだ」


「これは失礼! お市様に免じてご容赦を。……しかしお市様、一つだけお耳に」


秀吉はひょいと私の隣に潜り込むと、声を潜めて囁いた。


「『推し』を支える軍師様……そのお覚悟、この藤吉郎、高く買わせていただきますぞ。

 ……何せ、私も『上様』という最大の推しを持つ身にござりますれば」


そう言ってニカッと笑った秀吉の顔は、先ほどまでの道化の仮面を脱ぎ、

一瞬だけ「天下人」の片鱗を見せた気がした。


その笑顔を見た瞬間、私は思い出してしまった。

――この笑顔の男こそ、未来で勝家様を滅ぼす相手だということを。



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