第61話(前編) 笑顔と作戦のラリー
各ペアで、試合前の手慣らしを行うことになった。
リリナは薄い木製の“光盾ラケット”を受け取り、
軽く手のひらで転がすようにして重さを確かめる。
「軽いですね……」
柔らかく微笑んで言うと、
隣のカイルが「おっ」と声をあげ、指を鳴らした。
「姫様、その笑顔――戦法に取り込みましょう!」
「えっ……?」
リリナが瞬くと、
カイルは小声でそっと身を寄せてくる。
「前衛と後衛に分かれるんです」
ふたりはしゃがみ込み、
カイルは土の上にざっくりとコート図を描きはじめた。
「姫様は前衛。ネットを越えたボールを叩き落とす役。
後衛は俺。どんな球でも拾ってみせます!」
リリナは熱心な説明に頷きながら、ふと彼を見る。
真剣な横顔――
けれど視線が合った瞬間だけ、ふにゃっと優しく崩れた。
そのギャップに、思わず笑みがこぼれる。
「姫様、聞いてます?!
なんか……俺の顔、変ですか!?
そんな見つめられたらドキドキするんですけど!」
わあわあと騒ぐカイルの後頭部を、
無言で軽く小突く影があった。
ルークだった。
リリナは吹き出すように笑ってしまう。
ルークは淡く笑みを浮かべた。
「試合が始まるまで暇なんだ。……それと、別にスパイじゃない」
「絶対スパイですよ!
機密をレン殿下に漏らす気だな!」
カイルが抗議するが、ルークは軽く受け流すだけ。
その柔らかな目は、どこか安心をもたらす不思議な静けさを帯びていた。
カイルは気を取り直し、説明に戻る。
「例えばですよ。殿下が対面にいたとします。
いえ、殿下だけじゃなく全員です。こうやって――」
ラケットを構え、「にこっ」と笑う。
……だが、その笑顔を見たリリナとルークは、同時に固まった。
「これで怯ませる! どうです?!」
にこっ。
にこっ。
にこっ。
カイルは嬉々として繰り返す。
ついにルークが肩を震わせ、
「……お前がやると、気持ち悪い」
と、吹き出した。
リリナは苦笑し、首を横に振る。
「恥ずかしいです……。それに、真剣勝負がいいです!」
その言葉に、ルークが小さく拍手した。
「いい心がけだ」
リリナは照れたように笑う。
カイルも「じゃあこの案はボツですね〜!」と
額をぽりぽりかきながら笑ったが、すぐに真顔へ戻る。
「ただ、一つ覚えておいてください」
ラケットを肩に担ぎ、続けた。
「殿下は……勝負となると、容赦ないです」
「え……?」
「純粋に“勝ちを取りにいく人”なんです。
スマッシュなんて、ラケット折れる勢いですよ!」
「そ、そんなに……?」
どんな試合になるのだろう――
リリナは思わず、苦笑した。




