第56話 光が近づくとき
光露のゼリー串を片手に、ルク=セリアの街路を歩くふたり。
淡金色の透明なゼリーが、小さな四角になって串に並んでいる。
口に含むと、ぷるん、とやわらかく弾けた。
「蜂蜜の味と……」
リリナが首を傾げながら言うと、
「ミント」
ふたりの声が、同時に重なる。
目が合った瞬間――
ふいに、笑い合った。
もうひとつ、ゼリーを口に運ぶ。
「以前、リリナ姫が言ったでしょう。
“ここでは皆が同じ立場で、気楽だと思います”と」
「……あ。そんなこと、言いましたっけ?」
思い出そうとするリリナの表情に、ユリウスが柔らかく笑う。
「言いました。――本当に、その通りでしたよ」
そう言ったユリウスの横顔は、どこか晴れやかだった。
「今だけは、本当の僕でいられる……そんな気がしているんです」
遠くを見つめるその目に、淡い光が揺れる。
リリナは、その視線を追った。
「……光の粒が、綺麗です」
見上げた空に――
聖光竜ルクシオンが、ゆるやかな弧を描いていた。
光の粒が、空から静かに降り注ぐ。
「……!」
リリナは息を呑み、ユリウスを振り返る。
その視線を、ユリウスは静かに受け止めた。
「……見えますか?」
「え……? あ……はい」
「そうですか」
再び空へと目を向ける彼の表情は、どこか寂しさをまとっていた。
「見えるのですか……?」
恐る恐る問うリリナ。
ユリウスは、小さく笑う。
「僕には魂の印はありません。……お伝えしましたよね?」
「はい。でも……」
(印がなくても、この光が見える……?
どうして……?)
困惑するリリナを見て、ユリウスが少しだけ楽しそうに笑った。
「ほんの少しだけ、分かるんです。
理由は……分かりませんが」
ふたりの視線が、静かに絡む。
探るような、やわらかな緊張。
「リリナ姫は……僕に、何かを感じますか?」
その問いに、リリナの心が強く揺れた。
(……器としての“何か”。
わたしは、どう答えれば……?)
迷いながらも、そっとユリウスの左胸へ手を伸ばす。
距離が、一気に近づく。
顔を上げれば、すぐそこにユリウスの瞳。
「印がなくても……ユリウス様は、特別な人です」
そっと見上げると、ユリウスの瞳が揺れた。
「ユリウス様の光……見つけましたから」
そう言って、リリナは指先で彼のえくぼを軽くつつく。
一瞬、ユリウスは固まった。
そして――ふいっと顔をそらす。
耳が、赤い。
「……近すぎたようです」
その反応に、リリナも一気に頬が熱くなる。
「ご、ごめんなさい」
ふたりは少し距離を取る。
けれど――
目が合った瞬間、また同時に照れ笑いがこぼれた。




