第55話 届いた願い、こぼれた光
コインを取り出したユリウスは、
指先でそれをくるくると回しながら、噴水を背にゆっくりと歩幅を測った。
一歩、二歩。
くるりと振り返って距離を確かめ、再び前を向く。
そして――
コインを軽く弾いた。
銀の軌跡が弧を描く。
まるで計算されたかのように、噴水の上段の縁へ――
コトリ。
静かに、そこへ乗った。
「すごいです!」
リリナはシェイクを置き、ぱちぱちと手を叩く。
その笑顔は、昼の光よりも眩しかった。
ユリウスの感覚の鋭さは、レンセリオンにもエリオンにも劣らない。
そこにあるのは、単なる器用さではない。
――夢は、偶然ではなく、意志で掴むもの。
そんな哲学が、自然とにじんでいた。
ユリウスは柔らかく微笑みながら戻ってくる。
「噴水の縁が大きいので、乗りやすかったですよ。
もう数センチ低ければ……少し難しかったかもしれません」
そう言いながら、何事もなかったようにシェイクを口にした。
それは――
“願いを叶えるために投げた”というより、
“できるかどうか試した”だけの、
どこか気まぐれで、けれど一貫した彼らしい行動だった。
リリナは小さく笑いかける。
「……願ったのですか?」
ユリウスは「あ……」と、ほんの一瞬だけ目を瞬かせた。
その反応に、リリナがくすっと笑う。
「忘れてしまったのですか?」
ユリウスはそっと首を横に振った。
「いえ――」
一拍。
「リリナ姫の願いが、叶いますようにと」
心臓が、大きく跳ねた。
「わ、私の……?」
ユリウスの視線が、ふとリリナの手元へ落ちる。
シェイクは、いつの間にか空になっていた。
その仕草に気づき、リリナは思わず吹き出す。
「えっと……光露のゼリー串が食べたいです。
それから、光珠キャンディをお土産に買いたいです!」
ユリウスはくすっと笑い、
「分かりました。
では、全部叶えましょう」
そう言って――
ふたりは再び、光あふれる露店の通りへと歩き出した。




