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第37話 朝の黒板と、王子の影

リリナが講師を務める当日が訪れた。


いつもより早く王立学院の小講堂へ入り、

まだ誰もいない構内で黒板と向き合う。


チョークを握った指先が少し震える。


(……話したいことは、たくさんある……)


黒板の中央に、

セレフィアの象徴――大樹〈黎光の大樹〉を描き始める。


すると、後ろで扉の開く音がした。


振り返ると、ユリウスが立っていた。


少し驚いたように目を瞬かせ、

やがて穏やかに微笑んだ。


「セレフィアの大樹ですか?」


そう言って、前列の席へ腰を下ろした。


「はい……」

リリナは照れ笑いを浮かべながら答えた。


ユリウスは机に肘をつき、まっすぐに彼女を見る。


「今日の講義……楽しみにしています。」


リリナの胸にプレッシャーがじわりと広がる。


「が、頑張ります……。」


小さく笑って返し、

再び黒板へ向き直る。


静かに響くチョークの音。

その後ろ姿を、ユリウスはじっと見つめていた。


視線を感じ、振り返ると――目が合う。


ふたりは小さく笑い合った。


(……集中しないと……)

 ――そう思うのに。


黒板に描く大樹へ、

そっと羽を休めるアウルの姿を描き始めたとき――


「リリナ姫も、見えるのですね。

神獣の姿が。」


ユリウスの控えめな問いにリリナは振り返る。


それはまるで、印の有無を確かめられているような問いだった。


「……はい。見えます。」


ユリウスは、安心したようにふっと微笑む。


「そうですか。」


(ユリウス様は……?)


尋ねたい気持ちが喉まで上がったが、

聞けなかった。


レヴィアンもアルメアも印を持たない。

王族であっても、それは珍しくない。


けれど――

ユリウスは、彼女の戸惑いを読み取ったようにすぐ答えた。


「僕には……魂の印はありません。

国印なら刻まれていますが。」


そう言って、右手首の内側を少し見せる。


薄い袖口の陰で見え隠れしていた印が、

ようやくはっきり見えた。


流れるような曲線で描かれた、セレリオスの紋章。


リリナは息を呑む。


「国城へ帰るときの通行手形のようなものです。」


なるほど……。


だがユリウスは、指先で印をなぞりながら言った。


「けれど……この国印のせいで、常に“王族の在り方”を求められるようで。」


その横顔に、

うっすらとした影が差した気がした。


「もう、慣れましたが。」


そう言って、いつもの完璧な微笑みを浮かべる。


その笑顔が――どこか寂しく見えた。


リリナはそっと言葉を返した。


「ここでは……皆さん同じ立場です。

きっと、いつもよりずっと気楽なはずです。」


ユリウスは目を丸くし、

そして柔らかく笑った。


「……そうかもしれませんね。」


小講堂の朝の光が、ふたりの間に静かに差し込んだ。

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