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第2話 黎光の子(プロローグ②)
王宮の夜は、不思議なほど静かだった。
それはまるで、
何かが生まれる前の“静けさ”のように。
そして、ついにその日が訪れた。
誕生の朝。
朝露がまだ葉に宿る静かな朝。
王宮の奥、誰も足を踏み入れぬ“黎光の間”で――ひとりの姫が生まれた。
その産声は、まるで水面に初めて光が差し込む瞬間のようだったという。
名は、リリナ・エル・セレフィア。
その瞬間、王都の空に“黎明の花”が咲いた。
淡金と薄桃の光をまとった花弁が、風もない空にふわりと舞い、
静かに大地へ降り注いだ。
古くより、それは「希望の器が誕生した証」として語られてきた兆しだった。
産着の胸元には、淡い金の光が宿っていた。
左胸――小さな鼓動のすぐ上に、花弁の形をした印がかすかに浮かんでいる。
その光は、泣き声とともにやわらかく瞬き、
まるで世界がその命を受け入れるように、ひとつの光を吐いた。
髪は陽光を溶かしたような金色。
肌は桜の花弁のように透きとおり、
瞳は金茶の奥に淡く桃を宿していた。
その微笑は、春の光のようにあたたかく、
泣き声さえも、やさしい音色をしていたという。
王と王妃は息を呑んだ。
――この子は、生まれながらに“印”を宿している。
その胸の奥で、まだ誰も知らない、
“光と影の物語”が、
静かに動き出していた。




