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黎光の器 ―七つの魂と選ばれた少女―  作者: mamaりこ* chatty
第二章 光の選定、影の目覚め
151/152

第151話 甘い香りと侍従の推理 ― 姫の胸の秘密

レンセリオンの部屋を飛び出したリリナは、

頬だけでなく首元まで真っ赤になっていた。


(無理……! 心臓が、さっきからずっと……っ)


胸を押さえながら早足で廊下を進み、

曲がり角を抜けた、その瞬間――


「きゃっ!」


「わっ!」


タオルを抱えたセリナと、見事にぶつかった。


慌ててタオルを支え、

ふたりは同時に顔を上げる。


「リリナ姫様!」


「セリナさん……!」


声が重なる。


セリナは一瞬で状況を見渡し――

わずかにレンセリオンの部屋の方へ視線を送り、


そして、リリナを見つめた。


(……顔が真っ赤)


「姫様……何か、ございましたね?」


「な、何もありませんっ!」


即答。


――余計に怪しい。


セリナは落ちたタオルを整えながら、

やわらかく微笑む。


「とりあえず、お部屋へ参りましょう。ゆっくりお話を。」


そっと手を取り、リリナを連れていった。



部屋に入ると、灯りがともる。


リリナはソファに座り、

胸元を押さえたまま、ぽつりと話し始めた。


「……私、レンセリオン様の部屋にあった小さな瓶を……

気になって、触ってしまったのです。」


セリナは静かに頷く。


「それで……?」


「香水だったようで……

誤って、かけてしまって……」


“この辺に”と胸元を示す。


セリナが目を瞬かせる。


「王子様が、香水を……?」


「ええ……第四騎士団の調査対象の、怪しい商会から貰ったものだと……」


「怪しい商会……?」


セリナの眉が、わずかに寄る。


「そのような物を……なぜ王子様が……」


ふたりは顔を見合わせる。


「わ、分かりません……」



セリナは、そっとリリナの胸元へ近づいた。


ほんの少しだけ、香りを確かめる。


「……甘い香り、ですね。」


リリナは何度も頷いた。


「その……この香りで、レンセリオン様が……

ちょっと……その……」


腕で顔を覆う仕草をしてみせる。


その瞬間。


セリナが、吹き出した。


「ご乱心、なさったのですね?」


「そ、そうなんです!!」


全力で再現するリリナ。


セリナは口元を押さえながら、笑いを堪える。


「……リリナ姫様。ご無事で本当に良かったです。」


「ご無事って……!?」



セリナは一度咳払いをし、

表情を整えた。


「“魅惑の香”と呼ばれるものがございます。」


「……え?」

思わず、声がこぼれた。


「特定の香りで、異性を強く惹きつける……そのような類のものです。」


「……っ!?」


リリナの顔が、一気に赤くなる。


「効き目は……王子様の反応が、何よりの証拠かと。」


セリナが言いながら、また少し笑う。


リリナは混乱したまま口を開いた。


「で、ですが……レンセリオン様……

そういう香りを持っていたのに、距離を縮めるようなことは……」


セリナは静かに首を横に振る。


「恐らく――」


一拍。


「王子様は、その存在をお忘れだったのでしょう。」


「……え?」


「事故で香りがかかり……

王子様の“抑えていた部分”が、表に出かけたのかと。」


「お、おさえていた……部分……?」


(それは……まだ私の知らない、

別の顔を持つレンセリオン様、ということ……?)


理解した瞬間――


耳まで一気に、熱が駆け上がった。


セリナはやさしく微笑んだ。


「ですが、ご安心ください。

王子様は……姫様を乱暴に扱うようなお方ではありません。」


その言葉に、リリナの胸が少し落ち着いた。



「もう、お休みになりますか?」


セリナが問いかける。


リリナは小さく首を振った。


「いえ……まだ、レンセリオン様と……

大事なお話をしていないのです。」


一度、息を整える。


「私……一度セレフィアへ帰国しますから。」


セリナはすべてを理解したように、ふわりと微笑んだ。


「では、入浴なさって香りを落としてから――

王子様のもとへお戻りください。」


タオルを手渡しながら、

いたずらっぽく囁く。


「……その香がなくとも、

今の王子様は姫様を止められないと思いますけれど。」


「~~~~~っ!!」


リリナの顔が再び真っ赤に染まり、

タオルを抱えて浴室へ逃げ込んだ。



その背中を見送りながら――


セリナは、くすりと笑う。


「……本当に、お似合いのふたりですね。」

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