第148話 晩餐会 ― 白炎の微笑、静かなはじまり
ルクヴェル城・大光宴の広間。
天井高く吊るされた光のシャンデリアが、
夜の城を昼のように照らしている。
並べられた白い花々は、
どれも淡い光を帯びて、静かに輝いていた。
婚約の儀を終え、
王族・貴族・近衛騎士たちが次々と広間へ集う。
リリナは胸元の光花の首飾りにそっと触れながら、
レンセリオンの隣を歩いた。
ざわめきの中――
ふたりは穏やかに、
そして確かに注目を集めていた。
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列の向こうから、白い衣をまとった女性が歩み寄る。
熾天の妃――セラフィーネ王妃。
優雅そのものの所作でリリナの前に立つと、
ふわりと温かな微笑みを浮かべた。
「リリナ。……今日のあなたは、光でした。」
その言葉は柔らかく、けれど確かな力を持ち、
まるで母が娘を迎える時のような温度を帯びていた。
リリナの胸が、じんわりと熱くなる。
「ありがとうございます……王妃様。」
セラフィーネはそっとその手を取り、
手の甲を親指でやさしく撫でた。
「息子を、よろしくお願いします。
あの子は……強いのに、不器用なのです。」
「……はい。」
小さく頷いたその瞬間、
王妃は満足したように微笑み、静かに離れていった。
レンセリオンはその背を見送りながら、
どこか照れくさそうに肩をすくめる。
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続いて現れたのは、紺の礼装をまとった男性だった。
ルクヴェル王家の紋章を胸に刻んだその姿は、
落ち着きと気品を備えている。
ライゼル・ヴァン・ルクヴェル。
レンセリオンの叔父にあたる人物だ。
彼は丁寧に一礼すると、穏やかな声で言った。
「希望の姫。……ようこそ、ルクヴェルへ。」
その声音は、やわらかく落ち着いていた。
「あなたの光が、この国に新たな風をもたらすことを、心より願っております。」
「ありがとうございます。」
リリナが礼を返すと、
ライゼルは満足げに微笑み、静かにその場を離れた。
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その後も、貴族たちからの挨拶が続く。
祝福の言葉。
丁寧な礼。
穏やかな視線。
ひとつひとつに応えながらも、
リリナの体には、少しずつ疲れがたまっていく。
その様子を――
レンセリオンは見逃さなかった。
視線が合う。
ほんのわずかに、眉が寄る。
「……大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫です。」
そう言って、微笑む。
けれど――
レンセリオンの瞳は、やさしく揺れていた。
「……少し、出ませんか。」
リリナは瞬きをする。
「出る……?」
「外の空気を。」
手は差し出さない。
けれど、その声はどこまでも穏やかだった。
「……リリナが望むなら。」
その言葉に、胸がきゅっと締まる。
リリナは、そっと頷いた。
「……はい。」
レンセリオンの表情が、わずかにほどける。
ふたりは人目を避けるように、
静かに広間を離れた。
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大きなバルコニー。
月光が差し込み、
晩餐会の喧騒が遠くに溶けていく。
夜風が、ふたりの間をやわらかく通り抜けた。
リリナの髪が揺れ、
胸元の光花が淡く光を返す。
「……にぎやかすぎて、疲れてしまったでしょうか。」
「少しだけ。でも……」
リリナは横目でレンセリオンを見る。
「レンセリオン様が隣にいてくださったので、大丈夫でした。」
その言葉に――
レンセリオンの呼吸が、わずかに止まる。
そして、静かに視線を逸らした。
「……そう言っていただけると、救われます。」
月明かりの下。
ふたりの影が、寄り添うように並ぶ。
それは――
政略の婚約ではなく。
ふたりの、静かな“はじまり”を告げる夜だった。




