表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黎光の器 ―七つの魂と選ばれた少女―  作者: mamaりこ* chatty
第二章 光の選定、影の目覚め
145/152

第145話 揺らぐ未来と、初めての名前

レンセリオンの部屋にて。


「診察結果は……“健康”でした……。」


少し恥ずかしそうに報告すると、レンセリオンは肩の力を抜き、安堵の笑みを浮かべた。


「なので、もう医務官をお呼びしなくても大丈夫です。私は元気です!」


そう言い切ると、レンセリオンは穏やかに頷く。


ふたりは並んでソファに腰掛けていた。


横目でそっと視線を向けると、

レンセリオンは落ち着いた手つきでカップに口をつけている。


その端正な横顔は、先ほどまでの動揺などまるで感じさせない。


(さっきまで、あんなに……)


あまりのギャップに、思わず小さく笑みがこぼれた。


その気配に気づいたのか、レンセリオンがこちらを見る。


慌てて笑みを引っ込めると、彼はカップを置き、不思議そうに首をかしげた。


「どうかしましたか?」


「い、いえっ……」


ごまかすように首を振り、リリナは本題へと視線を戻す。


「あの……お話とは……?」


レンセリオンは一度言葉を飲み込み、

迷うように視線を落とした。


そして――静かに口を開く。


「……僕たちの婚約の儀の話が進んでいます。」


探るような視線が、こちらへ向けられる。


リリナは戸惑いを抑えながら、問い返した。


「婚約の儀とは……?」


「両家が揃い、誓約書を交わす儀式です。

公表としての“婚約式”は、また別日になるでしょう。」


リリナはこくりと頷き、小さく微笑んだ。


「緊張します……。」


レンセリオンも、ふっと表情を和らげる。


「ええ。僕も……初めてのことで、とても緊張しています。」


ふたりは一瞬見つめ合い、照れたように笑みをこぼした。


***


「今朝、騎士団本部に行きました。」


その言葉に、リリナは小さく頷く。


「第三騎士団イグレアが出発しました。」


記憶を探るように瞬きをすると、レンセリオンが補足する。


「探査型部隊です。」


「あっ……思い出しました。どちらへ行かれたのですか?」


何気なく問いかけた――そのつもりだった。


「セレフィアです。」


その一言に、リリナの呼吸がわずかに止まる。


「……ど、どこを調査に……?」


脳裏に浮かぶのは――未踏の山域。


「未踏の山域です。」


胸が、かすかに揺れた。


――あの時の会話。


エリオンと交わした、あの何気ない言葉が、

ふと脳裏によみがえる。


「もう一つ国があったりして」


あれは、冗談だったはずなのに。


なぜか今――

胸の奥に、小さな違和感だけが残った。


レンセリオンは、言いにくそうに視線を落とした。


「……その場所で、何かが反応したのかもしれません。」


「え……?」


胸の奥が、わずかに波立つ。


レンセリオンは慌てて身を乗り出した。


「す、すみません! 僕の憶測です。

不安にさせたかったわけでは……」


リリナはやわらかく微笑む。


「驚いただけです。

……でも、有能なルクヴェルの騎士団がいるなら、安心できます。」


レンセリオンはしばらくの間、黙ってリリナを見つめていた。


***


「婚約の儀は……いつですか?」


その問いに、レンセリオンの瞳がわずかに揺れる。


「……近日中になると思います。」


リリナはひとつ、息を整えた。


そして――静かに、言葉を選ぶ。


「私のこと……“リリナ”と呼んでください。」


その瞬間。


レンセリオンの耳が、みるみる赤く染まる。


「えっ……と……」


珍しく狼狽えるその様子に、

リリナの胸もまた、熱を帯びた。


ほんの少しだけ、距離を詰める。


「……レンセリオン様に、そう呼ばれたいんです。」


視線が絡む。


レンセリオンは耐えきれないように目をそらし――


リリナもまた、自分の心臓の音が聞こえてしまいそうで、

そっと息を呑んだ。


――その距離は、もう元には戻らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ