第143話 選ばれた道に灯す光
室内に入ると――
テーブルに突っ伏したまま、マルナが眠っていた。
その姿を見た瞬間、
胸の奥にあふれた感情が抑えきれず、リリナは駆け寄る。
そして――その背に、そっと抱きついた。
ふわりと香る。
いつもの匂い。
お日様のようにやわらかく、温かい香り。
「……マルナ」
その名を呼んだ瞬間――
マルナがはっと目を覚ました。
振り返るなり、
「姫様……!」
今度は正面から、首にしがみつくように抱きついてくる。
リリナは、思わず小さく笑った。
「お目覚めになったのですね。」
マルナはリリナの顔を覗き込み、何度も確かめるように見つめる。
リリナは、その視線に応えるように、何度も頷いた。
「心配かけて、ごめんなさい。」
マルナは強く首を横に振る。
「セリナさんから事情は聞いています。
私のような者にも、ここまで配慮していただいて……
レンセリオン様は、本当に素敵な方です。」
その名前が出た瞬間――
リリナの胸が、わずかに揺れた。
それを、マルナは見逃さなかった。
「……とても、急なお話でしたね。」
その一言が、静かに落ちる。
リリナの胸が、きゅっと締めつけられた。
――エリオン。
その面影が、ほんの一瞬だけ胸をよぎる。
逃げるように、視線を落とす。
けれど――
ほんのひと呼吸のあと。
リリナは、ゆっくりと顔を上げた。
揺れる瞳。
それでも、その奥に灯る意志は、まっすぐだった。
「……私の婚姻が、セレフィアの未来を担うものになるのなら――
それは、私の大義です。」
マルナが息を呑む。
リリナは、自分の胸にそっと手を当てた。
「怖くないわけではありません。
ただ……選ばれた道なら、光を灯したいんです。」
言葉を選ぶように、静かに続ける。
「周りの人たちが、幸せでいられるように。」
ふと――
レンセリオンの姿が、心に浮かぶ。
胸に刻まれた光の紋。
あのとき感じた、確かな響き。
「それに……」
わずかに息を吸う。
「個人としても、レンセリオン様とは……
魂で繋がってしまいました。」
「この光は――嘘をつけません。」
マルナの頬を、涙が伝った。
リリナの目にも、うっすらと涙がにじむ。
それでも――
小さく、笑った。
「……だから、私もきっと幸せになります。
選んだ道で、ちゃんと。」
その言葉に、マルナはもう堪えきれず――
リリナを強く抱きしめた。




