第141話 胸に残る灯、告げられた婚約
「レンセリオン様は……何か、変わったことはなかったのですか?」
リリナは不安を含んだまなざしで問いかけ、
そっと手を伸ばし、レンセリオンの首筋へ触れた。
その瞬間、レンセリオンは小さく息を呑み、動きを止めた。
「……見たのですか。」
低く押し殺した声。
リリナは戸惑いながら頷く。
「でも……消えているようです。」
触れた指先を引っ込める。
レンセリオンは胸に手を添え、ゆっくり首を振った。
「僕の胸の内は……灯ったままです。
消えてなどいません。」
そして、その瞳がリリナを捉える。
「僕は……あなたを守りたい。」
真っすぐな言葉が、刺さるように胸へ届いた。
「レンセリオン様……」
見つめ合うふたり。
空気がそっと震えた。
だが――レンセリオンがわずかに視線を外す。
「……この状況に被せるように、僕たちの婚約が決まりました。」
落ち着いた声なのに、その奥に揺らぎがあった。
レンセリオンは恐る恐る視線を戻す。
リリナの瞳が大きく揺れた。
「……婚約と、今……言われましたか?」
思考が追いつかない。
私の結婚相手が――レンセリオン様?
どうして……。
「政略結婚です。」
淡々と告げられたその言葉に、リリナは息を止めた。
胸の奥に、エリオンの姿が痛みのように浮かぶ。
苦しげに目を伏せる。
――あまりにも早い。
けれど――それが王族の道なのだと、
どこかで分かっていた。
ゆっくりと、息を整える。
レンセリオンもまた、顔をそむけていた。
「僕は……受け入れます。」
短いその言葉の重さに、リリナは何も返せなかった。
だけど――
姫として私情を優先するわけにはいかない。
レンセリオンもまた、王子として同じ立場にあるのだ。
リリナは一度、目を伏せた。
胸の奥で揺れるものを押し込むように、
ゆっくりと息を整える。
そして――
リリナは震える指先をそっと握りしめ、
静かにレンセリオンへ向き直った。
「……よろしくお願いします。」
その声は小さく震えていた。
レンセリオンは驚いたように瞬きし、
次の瞬間、リリナの手をそっと取り、両手で包み込んだ。
「僕を信じてください。」
彼の瞳は誠実そのものだった。
「あなたを守りたいと言った気持ちは、
ルクシオンに揺さぶられたものだけじゃない。
……僕の本心でもあります。」
ふたりの視線が絡み――
胸の奥で、何かが静かに、確かに結ばれた。




