第140話 闇が告げるもの、胸に残る光
再び、沈黙が流れていた。
レンセリオンは指を組んだまま、ほどいてはまた絡め、
どこか落ち着かない様子を見せている。
リリナはその様子をちらりと見て――
ふと、背後の窓へと視線を向けた。
外が――真っ暗だった。
「外が……」
思わず、声がこぼれる。
レンセリオンも窓へ目を向け、
小さく首を傾げると、すぐにリリナへ視線を戻した。
「?」
「真っ暗です……!」
驚きを隠せない声。
その反応に、レンセリオンはくすりと笑った。
「何かと思いました。ええ、もう深夜です。」
リリナは慌てて両手で口元を押さえる。
「わ、私……どれくらい眠っていましたか……?」
レンセリオンは壁の時計へ視線をやる。
「半日ほど……でしょうか」
「半日も……」
ふたりの視線が重なる。
リリナは小さく息を吸い、胸へ手を当てた。
「私……聖鏡の間の記憶が、途中からないんです。」
その言葉に、レンセリオンの表情がわずかに固まる。
――脳裏に浮かぶのは、あの瞬間。
胸の印へ落とした口づけ。
身体の奥を貫いた熱。
そして――首筋へと走った光の紋。
リリナもまた、そこまで思い出した瞬間、
頬を赤く染めて視線を落とした。
「私……どうなったのでしょうか……」
言葉が、かすかに震える。
そのとき――
ふと、夢の記憶がよみがえった。
「……ルクシオンの夢を、見ました。」
レンセリオンの瞳が、かすかに揺れる。
「……夢を、見られたのですか?」
リリナは小さく頷く。
「ルクシオンは……何か、伝えてきましたか?」
その問いは静かでありながら、確かな熱を帯びていた。
レンセリオンが、わずかに距離を詰める。
リリナは思わず背筋を伸ばした。
「えっと……ええと……」
言葉を探す。
「わ、私の光がまだ弱いって……言われました。」
レンセリオンの片眉が、わずかに上がる。
リリナは続ける。
「怖がらなくていいって……。
この先を歩くなら……連れていってほしい、と……。」
レンセリオンの視線が、リリナの唇と目を行き来する。
ひとつひとつの言葉を、確かめるように。
「最後に……
“正義は、光なくして生まれぬ”と……。」
沈黙。
ふたりは、探るように見つめ合った。
やがてレンセリオンが小さく息を吸い、静かに言う。
「……僕たちは、もう無関係ではいられないようです。」
「……それは、どういうことなのでしょうか……?」
レンセリオンは言葉を選ぶように、ゆっくりと手を持ち上げた。
そして――
リリナの左胸の位置を、そっと指し示す。
「僕の“光の紋”が……」
言いかけて、言葉が途切れる。
何かを飲み込んだように、沈黙が落ちた。
リリナはそっと背を向け、
上衣をわずかにずらして、印を確かめる。
「……っ!」
息を呑む。
印が――増えていた。
慌てて振り返る。
「印が……」
視線が揺れる。
「……ルクシオンの“連れてゆけ”って……
こういうこと、なのでしょうか?」
レンセリオンは、答えられなかった。
頷くことも、否定することもできないまま――
ただ、リリナを見つめていた。




