第139話 静寂の帳で交わす言葉
ふたりはソファに並んで座り、しばらく沈黙が続いた。
部屋の静けさが、まだ残る余韻をやわらかく包み込んでいる。
そのとき――
扉が、控えめに開いた。
「温かいスープをご用意しました。」
姿を見せたのは、穏やかな眼差しの侍従の女性だった。
リリナの前にそっとスープ皿を置き、丁寧に一礼する。
「……ありがとうございます。」
リリナが微笑むと、女性もやわらかく微笑みを返した。
「王宮侍従のセリナ・ロウベルと申します。
リリナ姫様がルクヴェル城に滞在される間、
身の回りのお世話を任されております。どうぞよろしくお願いいたします。」
「こちらこそ……よろしくお願いします、セリナさん。」
深く礼をするリリナに、セリナは嬉しそうに目を細めた。
ふと顔を上げると――
セリナとレンセリオンの視線が、一瞬だけ交わる。
次の瞬間。
セリナは、どこか意味ありげな微笑みを浮かべ――静かに退室した。
扉が閉まる。
レンセリオンは、小さく息を整えた。
だがすぐにリリナと目が合い、わずかに肩を揺らす。
リリナは、くすりと笑った。
「綺麗な方ですね、セリナさん。」
レンセリオンは少しだけ視線を逸らす。
「僕は一度もそう思ったことはありませんが……
“王室の白薔薇”と囁かれていると聞いて、笑いました。」
そこまで言って、ふと眉を寄せる。
「……すみません。聞き苦しい話でした。」
「いえ。むしろ……はっきりしていて、素敵だと思います。」
リリナの言葉に、レンセリオンはわずかに目を見開いた。
「仲が良いのですね。」
少しの沈黙。
レンセリオンは、言葉を選ぶように口を開く。
「信頼しています。
カイルやルークと同じ……父上が僕の傍に置いた者たちです。
家族よりも、家族に近い存在かもしれません。だから――遠慮がいらないんです。」
「……心を許している相手、なのですね。」
その言葉に、レンセリオンの耳がほんのりと赤く染まる。
話題を変えるように、彼は続けた。
「リリナ姫の侍女の方も、城へお呼びしました。」
「マルナが……? 本当ですか……!」
ぱっと表情が明るくなる。
その反応に、レンセリオンも自然と微笑んだ。
「マルナさん……大切な方なのですね。」
「はい。姉のような存在なんです。」
「素敵な関係ですね。」
照れるように笑うリリナ。
レンセリオンは、やわらかな声で言葉を重ねた。
「セリナが、リリナ姫のお部屋を用意しております。
お休みになりたいときは、遠慮なく仰ってください。案内をさせます。」
「……ありがとうございます。」
リリナはスープを一口、口に運ぶ。
やさしい温もりが、身体の奥へと静かに広がっていく。
そのぬくもりは、どこか――
先ほどまで触れていた“あの手”の温度に似ていた。




