第136話 眠りの間(かん)に寄り添う影
部屋へ戻ると、セリナがすぐに歩み寄った。
「意識は……?」
短い問い。
だが、その奥には抑えきれない焦りが滲んでいた。
セリナは、静かに首を横に振る。
「まだ眠っておられます。」
レンセリオンは小さく息を呑み込み、
襟の留め具を外しながら、まっすぐベッドへと向かった。
「目覚めたら、すぐに知らせる。
それと……リリナ姫が療養できる部屋と、従女を城へ呼び寄せてほしい。」
「承知いたしました。」
セリナは深く一礼する。
それ以上は何も問わず、静かに部屋を後にした。
扉が閉まり、沈黙が降りる。
レンセリオンは深く息を吸い、
天蓋ベッドの帳へ手を添えた。
そっと開く。
淡い光が差し込む空間。
その中で、リリナは静かに眠っていた。
胸元が、わずかに上下している。
それだけが、確かな救いだった。
ベッドの端に腰を下ろした瞬間――
全ての重みが、肩へと落ちてくる。
婚約。
共鳴。
そして――彼女を深い眠りへと導いてしまったこと。
両手で顔を覆う。
「……すまない。」
誰に届くでもないその声は、
悔恨と祈りのあいだで揺れていた。
やがて、そっと顔を上げる。
そこにあるのは――リリナの寝顔。
安らかで、痛みの影すら見えない。
(目覚めたら……何から話せばいい)
胸が、静かに締めつけられた。
レンセリオンはためらうように身を寄せ、
そっと手を伸ばした。
リリナの手を、包み込む。
温かい。
――生きている。
その確かな温もりが、
どれほど自分を支えているのかを思い知る。
「……リリナ姫。」
囁くように、名を呼ぶ。
返事はない。
だが――
穏やかな寝息が、静かに続いている。
その呼吸に引かれるように、
レンセリオンもまた、ゆっくりと瞳を閉じた。
帳の内側。
外界から切り離されたその空間で――
ふたりの呼吸だけが、静かに重なっていた。




