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黎光の器 ―七つの魂と選ばれた少女―  作者: mamaりこ* chatty
第二章 光の選定、影の目覚め
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第135話 世界論 ― 響きあう魂

書室には、薄い香草の香りが満ちていた。


静けさの中で、イリアスの声がゆっくりと落ちる。


「ルクヴェルの学者の間では――

二魂響者ツー・スピリット”という考えがあります。」


聞き慣れない言葉に、レンセリオンは眉を寄せた。


イリアスは本棚に指を沿わせながら続ける。


「印持ちが“特別”とされる理由。

民から“神聖視”される理由。

それらは単なる権力や伝統ではありません。」


振り返ったその眼差しは、

静かに、だが確かな重みを帯びていた。


「印とは――

大地の創造主である神獣が、魂に刻む“最初の光”。


印持ちとは、

“創造主の意思を帯びた人間”なのです。」


レンセリオンは、幼い頃から教え込まれてきた教義を思い返す。


だが今、その意味が違って感じられた。


イリアスはさらに言葉を重ねる。


「その中でも、“器(Hope Vessel)”――黎光の器と呼ばれる者は特別です。


“七魂を導く中心核”とされますが……

器もまた、初めはただの印持ちに過ぎません。」


レンセリオンの肩が、わずかに動いた。


「器は魂と出会い、

初めて“本来の役割”を目覚めさせる――


そうする説があります。

それまでは、他の印持ちと変わらない、と。」


「……器の役割とは、

魂を“希望へ導く”ことなのでしょうか。」


「世間では、そう言われています。」


イリアスは、ほんのわずかに声を落とした。


「ですが――」


一拍の間。


「学者の中には、

“魂が器と深く繋がったときにのみ、目覚めが始まる”と考える者もいます。」


レンセリオンの胸が、強く脈打った。


(……深く繋がったとき)


あの光。

あの紋。

あの瞬間――。


イリアスは淡々と続ける。


「その現象を、“共鳴”と呼びます。


ただし――

記録はありません。」


静寂が落ちる。


「ゆえに、その先を知る者は、まだいないのです。」


レンセリオンの呼吸が、わずかに浅くなる。


「もし魂が器に共鳴するとすれば――

二人は“二魂響者”と呼ぶべき状態に至るのではないか。


そう考える学者もいます。」


「……仮説、なのですね。」


「ええ。あくまで推論です。」


イリアスは静かに頷いた。


そして、窓の外へ視線を向ける。


「魂の波が“大地の根”に触れる領域がある、と言われています。


以前お話しした――

世界ルミナリエの“未解明の半分”に関わる話です。」


差し込む光が、床に細く伸びる。


「その境界に最も近いとされるのが――

セレフィア王国の未踏の山域だ、という“説”があります。」


(……未踏の山域)


レンセリオンの胸がざわめいた。


(もし――あれが“共鳴”なのだとしたら)


喉元まで、問いがせり上がる。


「……共鳴が起きたら、どうなるのですか。」


その問いに、イリアスは迷わず答えた。


「共鳴は――

世界を揺るがす、と言う者もいます。」


空気が、止まった。


未踏の山域。

父王の言葉。

聖鏡の間で起きた出来事。


すべてが、一本の線で繋がり始める。


「……先生は、それを止めようとは思われないのですか。」


イリアスは、まっすぐにレンセリオンを見た。


「王子様は、“正義の魂”を持つ方です。」


その声は、静かで揺るがない。


「過去、誰も成し得なかったことなら――

未来を開くのは、次代の魂を持つ者だと……私は思います。」


そこには、責任と――確かな信頼があった。


やがて、イリアスはふと表情を和らげる。


「……セレフィアの姫君が運び込まれたと聞きました。」


レンセリオンの胸が、強く鳴る。


「ええ……眠っておられます。

理由は、分かりません。」


「そうですか。」


優しく頷く。


「学院生活を終えたばかりです。

王子様も、どうかお休みください。」


その声は、どこか懐かしく、あたたかかった。


レンセリオンは静かに頭を下げる。


だが――


胸の奥のざわめきは、消えなかった。


“共鳴”。

“未踏の山域”。

そして――リリナの眠り。


答えはまだ、どこにもない。


そのすべてを抱えたまま、

レンセリオンは書室を後にした。

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