第128話 印が導く先で
ルクシオンの塔の内部は、
まるで人の手で整えられたかのような空間だった。
磨かれた石壁に淡い光が反射し、
ひんやりとした静けさが満ちている。
「内装……されているんですか?」
「ええ。
歴代の印持ちが手を加えてきたのでしょう。
僕の代では、何もしていませんが」
リリナは頷きながら、胸の内に広がる高鳴りを抑えきれずにいた。
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壁際の階段をのぼり、二階へ。
さらに進めば、三階へ続く階段が見える。
「……あの。聖鏡の間は……?」
「五階です」
「五階ですか?!」
思わず声が上ずる。
レンセリオンが、くすりと優しく笑った。
「少し休みますか?」
「いえ……大丈夫です。
少し驚いただけで……こんな高い建物、初めてで……」
恥ずかしそうに答えると、彼は柔らかく首を傾けた。
「怖くはありませんか?」
「怖くはありません」
その返事に満足したように頷き、レンセリオンは再び歩き出す。
リリナも、その背を追った。
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「聖鏡の間とは、どんなところなんでしょうか?」
「全面がガラスで覆われた空間です」
「ガラス……」
ルクヴェルの工房で見た、あの光を思い出す。
「光が差し込む構造になっていて……
時間によって、色が変わるんです。
そのグラデーションは、なかなか見事ですよ」
想像が広がる。
自然と、足取りが軽くなった。
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四階へ辿り着いた、その時だった。
「この先です」
レンセリオンの言葉と同時に、
階段の先にある扉が視界に入る。
――その瞬間。
リリナの左胸の印が、かすかに熱を帯びた。
「……っ」
反射的に胸に手を当てる。
レンセリオンも、わずかに目を見開いた。
「……感じますか?」
静かな声。
リリナは小さく頷く。
「はい……。
何か……呼ばれているような……」
視線が重なる。
空気が、わずかに変わる。
どちらからともなく、一歩を踏み出した。
レンセリオンが階段を上り、
リリナもその後を追う。
扉の前に立つ。
レンセリオンが手を当て、ゆっくりと力を込める。
――重い響きとともに。
扉は、ゆっくりと開いた。




