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第126話 光へ向かう者

イリアスの部屋には、紅茶の湯気が静かに揺れていた。


レンセリオンは深く息を吐いた。

胸の奥に残っていたざわめきを、静かに整える。


講義のこと。

リリナの声。

蛍の光。

あの一瞬に固まった想い――


(……どうして、あれほど心が動くのだろう)


その問いは、喉元まで来ていたが――言葉にはしなかった。


わずかに揺れた視線を、イリアスは見逃さなかった。


イリアスはカップを置き、穏やかに微笑む。


「王子様。

時に――心が動く瞬間は、理由を求めない方が良いのです」


レンセリオンは、わずかに目を伏せた。


「理由……ですか」


「ええ。

人が世界を見る範囲など、ほんの一部にすぎません。

学者の間では、“世界はまだ半分しか知られていない”とさえ言われています」


レンセリオンは顔を上げる。


イリアスは続けた。


「未知に触れた時、人の心は必ず揺れます。

……それは決して悪いことではありませんよ」


(未知……)


その言葉が、胸の奥に静かに落ちる。


リリナの光。

セレフィアの森。

彼女が語った祈りの詩。


自分が知らなかった世界。

自分が知らなかった光。


(……確かに、俺は知らなかった)


イリアスは、まるで心の内を読んだように微笑んだ。


「王子様は、正義の光を背負うお方です。

しかし“光”には形があって――

思っているよりもずっと、柔らかい」


レンセリオンの胸が、わずかに締めつけられる。


一瞬、父王の言葉が脳裏をよぎった。


――セレフィアの未踏の地は、世界の根に触れる場所だ。


(……父上。

あの山に、何を見ているのですか)


イリアスは紅茶を飲み干し、穏やかに言った。


「焦らずに、王子様。

正義も、光も、心の揺れも――

答えは必ず、自分で見つけるものです」


レンセリオンは、ゆっくりと頷く。


胸の奥に、ひとつ灯がともる。


まだ言葉にも形にもならない――

けれど確かに“始まり”だと分かる灯。


(……あの日の光に、もう一度手を伸ばしたい)


イリアスは立ち上がり、軽く頭を下げた。


「またいつでもいらっしゃい。

昔のように」


レンセリオンも立ち上がる。


「はい……先生」


部屋を出ると、

廊下の空気は昼よりもわずかに涼しくなっていた。


遠くの窓から差し込む光が、

まるで道を照らすように床へ落ちている。


レンセリオンは静かに息を吸った。


(光は遠くにあるものじゃない――

そう言っていたな、リリナ姫は)


なら、自分も向かえばいい。


まだ知らない“半分の世界”へ。

彼女が照らす、その先へ。


静かに歩き出しながら――

胸の奥で、ひとつだけ確かに思った。


(……俺は、あの光を守りたい)


こうしてレンセリオンは、

初めて“自分の意思で”未来へ歩き出した。

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