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第125話 師の紅茶

ルクヴェル城――

静かな午後、廊下に足音がひとつ響いた。


レンセリオンは姿勢を正すと、

とある一室の前でゆっくりと扉をノックした。


「……はい」


落ち着いた、聞き覚えのある声。


「レンセリオンです。イリアス先生に、紅茶をお持ちしました」


先ほど、廊下で侍従が紅茶を運ぼうとしているのを見かけ、

レンセリオンが「自分が行く」と申し出て譲り受けたのだった。


一拍の間。


そして――


「……どうぞ」


レンセリオンはドアノブに手をかけ、静かに部屋へ入る。


中央の机に座っていたのは、

幼少期、礼儀・政務・哲学・歴史を教えてくれた師範――

イリアス・ヴァロウだった。


思わぬ訪問者に、イリアスの表情がわずかに緩む。


「王子様に紅茶を運ばせるとは……私の侍従も大胆ですね」


レンセリオンはわずかに笑みを返し、

気づけば無意識に“昔の席”へ腰を下ろしていた。


師弟として向き合った、あの頃の距離。


その感覚が、わずかに部屋へ戻ってくる。


イリアスは紅茶を一口すする。


そして――静かにレンセリオンを見つめた。


目が合う。


イリアスは、ふっと穏やかに微笑んだ。


――怖くて、優しくて。

――傷も、ゆらぎも見透かしてしまう。


そんな“昔の師”の表情だった。


「……久しぶりに、先生と話がしたくて」


イリアスは静かに笑みを返す。


「王子様のご活躍は、私の方にも届いておりますよ。

今は王立学院で、シリウス殿の講義を受けていると耳にしましたが……」


レンセリオンは素直に頷いた。


「はい。

世界の在り方、各国の思想、神獣……そして魂と器について学びました。

今は各国の代表者が順に講義を務めています」


イリアスの目が、わずかに輝く。


「ほう……興味深い」


レンセリオンは一呼吸おき、そっと視線を伏せた。


(……父上の言葉が、胸に残っている)


セレフィアの未踏の山域。

世界の根。

あの山の秘密。

そして――“結び”。


胸に重く沈んでいた思いを、

ほんの少しだけ軽くしたかった。


だからこそ――

昔のように、この人に会いたくなったのだと気づく。


レンセリオンは、静かに顔を上げた。


その瞬間。


イリアスの柔らかな視線が、

迷いをほどくように迎えていた。


「……先生」


その呼びかけは、

子どもの頃のように、ほんの少しだけ弱い。


イリアスは微笑んだまま、促すように頷く。


「ええ。続けてください」


――だが。


レンセリオンは、すぐには言葉を継げなかった。

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