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第124話 水の王子との朝

ルクヴェル城・応接間。


朝食を終え、廊下を歩いていたレンセリオンの前に、セリナが静かに現れた。


「王子様、お客様がお見えになっています」


「客? こんな朝早くにか」


「応接間でお待ちです。……エリオン様でございます」


レンセリオンは、一瞬だけ呼吸を止めた。


(昨夜……

カイルが小石を投げて……

よりによってエリオンの部屋だった……)


胸の奥が、ひりつくように熱くなる。


深く息を吸い、扉を押した。



エリオンは優雅に紅茶を口にしていた。

朝の光に、淡銀の髪がやわらかくきらめく。


レンセリオンを見ると、静かに微笑んだ。


「おはようございます、レンセリオン」


「……ああ。おはよう」


自分でも分かるほど、気まずい声だった。


向かいに座ると、視線がふわりと交わる。

微笑んでいるのはエリオンだけ。


レンセリオンは、無表情のまま視線を落とした。


「話は何だ」


「話がないと、来てはいけませんか?」


まっすぐな眼差し。


レンセリオンは一瞬だけ詰まり、視線をそらす。


「……別に、そういうわけではない」


その返答に、エリオンは少しだけ嬉しそうに笑った。


「……随分早いな。まだ朝だぞ」


「あなたを捕まえるには、この時間しかなくて。

僕から行かないと、ろくに話せませんから」


胸が、わずかに痛む。


レンセリオンは小さく頷いた。


「……悪かった」


「いえ。あなたらしいです」


穏やかな声が、胸のざわめきを静かにほどいていく。



エリオンはカップに指を添えたまま、ふと口を開いた。


「昨夜……」


その一言で、レンセリオンの肩がぴくりと揺れる。


「昨夜がどうした」


「あなたを見た気がして」


――固まる。


ほんの一瞬の沈黙。


次の瞬間、エリオンは堪えきれずに小さく笑った。


「だから来ました。

……何か、僕に話したいことがあるのでは?」


探るでもなく、ただ寄り添うような瞳。


逃げ場が、なくなる。


レンセリオンは無意識に唾を飲み込み、わずかに顔を背けた。


「……ある」


「聞きたいです」


エリオンは静かに微笑む。

その表情には、長い年月で積み重ねられた信頼が滲んでいた。


レンセリオンは咳払いし、言葉を絞り出す。


「……俺が、この先どんな決断をしたとしても……

俺は、昔のままだ」


エリオンの瞳が、わずかに揺れた。


「昔のまま……」


そして、柔らかく頬を緩める。


「ええ。あなたほど純粋な人、いませんよ。

……かっこいいですよ、レンセリオン」


その一言で、レンセリオンの耳がほんのり赤く染まる。


「もういい。話が終わったなら、俺は行く」


立ち上がろうとした、その時――


「久しぶりにチェス、しませんか?」


エリオンが穏やかに誘った。


「僕、強くなったんです」


レンセリオンは呆れたように目を細める。


「お前は昔から俺より強いだろう」


「二手でいけます」


鼻で笑う。


「なめるなよ、水の王子」


二人は同時に笑い、

自然とチェス盤の前に並んだ。


その姿は――


騎士でも王子でもなく、

ただの“幼馴染に戻った二人”だった。

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