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第118話 蛍作戦

講義を終えたあと、気づけば足は自然と第四騎士団の控室へ向かっていた。


王に「学院に専念せよ」と言われたばかりなのに、身体に染みついた習慣は簡単には抜けない。


部屋に入ると、カーディアス部隊の姿はなかった。


代わりに、カイルとルークが机に向かい、紙束を広げている。


「……カーディアスたちは?」


レンセリオンが問うと、ルークが顔を上げた。


「森林の旧道で張り込み中です。密輸馬車を順番に捕まえてます」


「これ、今日の積荷一覧ですよ」


カイルが紙をひらひらさせて見せる。


レンセリオンは無意識に手を伸ばした。


しかし――


「っと!」


カイルは器用に身をひねり、紙を背後に隠した。


「……なぜ隠す」


不満げに眉を寄せるレンセリオンに、ルークが淡々と告げる。


「殿下は王様から“学院に集中”と言われたはずですが?」


その一言で、レンセリオンは手を引っ込めた。


(……確かに、今は任務を離れている身だ)


カイルが口元を押さえながら、じりじりと追撃してくる。


「で? セレフィアの姫様の講義はどうでしたか、殿下?」


「……良かった」


短い答えに、カイルが盛大に吹き出した。


「いやいや! もっとこう……“どこがよかった”とか“どう響いた”とか!

殿下の気持ち、全然伝わってきませんよ!」


レンセリオンはわずかに肩を強張らせ、視線を逸らす。


「殿下、言葉にするの大事ですよ。姫様にも、です」


カイルの追撃。


レンセリオンは沈黙し、微妙に表情を硬くした。


(……これだ。殿下がこうなるときはだいたい……)


カイルとルークが、目で合図を交わす。


次の瞬間――


「よし、蛍を見に行きましょう!」


カイルが電光石火で立ち上がった。


「……は?」


「殿下が俺たちに言えない想い、姫様に直接伝えるんです!

蛍の光の下なら雰囲気も完璧ですよ!」


「待て。夜も遅い。姫様は講師を務めたばかりで疲れているはずだ」


ルークは苦笑しつつ肩をすくめた。


「蛍が一番きれいなのは“今”ですよ。

殿下も疲れているなら、癒やされに行くのが一番でしょう」


「そうですよ殿下。ほらほら、行きましょう!」


左右から腕を取られ、レンセリオンは深くため息をついた。


「……強引すぎる」


「殿下のためです!」


「姫様のためでもあります!」


その掛け声のまま、レンセリオンは納得のいかない顔で宿舎へと連行されていった。


その背中を見送りながら、カイルとルークは小さく拳を突き合わせた。


(――行け、殿下)


(――今夜くらいは、光を見てもいい)

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