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第113話 逃げた影

レンセリオンが馬を跳ねさせる。

雨でぬかるむ森林の旧道を、影のように駆け抜けた。


「距離を保て。見失うな!」


号令と同時に、第四騎士団の影が一斉に広がる。

泥が跳ね、馬の息と蹄の音が雨音に重なる。


少し開けた場所へ出たとき、前方を走る密輸馬車の御者がこちらを振り返った。


――目が合った。


ほんの一瞬。

だが御者は肩を大きく揺らし、次の瞬間には速度を急激に上げていた。


(気付かれた……!)


レンセリオンは奥歯を噛む。


(何を積んでいる……? なぜ逃げる?)


さらに距離を詰めようと馬を蹴った――その瞬間。


「殿下! 正面から別の馬車が来ます! ソレイダ側からです!」


カーディアスの声が雨を裂いた。


視線を前へ向けると、霧の向こうからもう一台の馬車がこちらへ向かって進んでくる。


その姿は、まさに情報班の言っていた“定期的に現れる密輸馬車”そのものだった。


二台同時は無理。


追っていた馬車は、倉庫街を出てソレイダ側へ抜けようとしている。

正体は掴めていないが――任務の核心は“ソレイダから来る密輸”の経路だ。


一秒だけの迷い。


(……本命は、こちらだ)


レンセリオンは手を挙げ、鋭く振り下ろした。


「追跡を中止! 正面の馬車を優先する!」


第四騎士団が一斉に方向を変える。


濡れた土を踏みしめ、ソレイダ方面から来た馬車の前に壁のように立ちはだかった。


剣の柄に手を添え、レンセリオンが静かに告げる。


「止まれ」


馬車は急制動で泥を跳ね上げ、止まった。


御者が青ざめた顔をこちらに向ける。


「な、何か……何かあったんですか? こ、こんな所で……騎士様方が……」


怯えすぎている。

ただの旅商人ではあり得ない反応だった。


「申告票と、積荷を確認する」


レンセリオンが手を伸ばすと、御者の喉がごくりと鳴る。


荷台を開けると――帳簿と実際の積荷に“いくつもの齟齬”があった。


数量が違う箱。

記載にない木箱。

逆に、帳簿にはあるのに積まれていない品目もある。


カイルが息を呑む。


「……隠してますね。完全に」


カーディアスも黙って頷いた。


レンセリオンは帳簿をそっと閉じる。


動きは静かだったが、その指先は稲妻のように冷徹だった。


「――この件は、第一騎士団に引き渡す」


御者の顔が蒼白になり、膝が震える。


第一騎士団〈オルディナ〉。

ルクヴェルの“秩序そのもの”を担う司法の剣。


偽装帳簿と密輸は、彼らが扱う案件だ。


湿った空気が一気に凍りつく。


レンセリオンの黒衣が風に揺れた。


(……一台は逃したか。

 奴らは何を積んで、どこへ向かった?)


雨の匂いの裏で、小さな“影の鼓動”が確かに動き始めていた。

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