第112話 雨の旧街道
ソレイダとルクヴェルを繋ぐ森林ルート。
かつては交易の往来が多かった旧街道。
だが土砂崩れや落石が続き、いまでは通る者もまばらとなった。
――その旧街道には、南区第三倉庫街の裏道へ抜ける、密輸人しか使わない分岐が存在する。
レンセリオンは、雨にけぶる旧街道を馬で進んでいた。
分岐点に到着した頃には、陽はまだ高いはずなのに、雨雲と霧で森は薄闇に沈んでいた。
彼は馬を木陰に繋ぎ、フードを深くかぶる部隊の姿を静かに見渡す。
ぽた、ぽた……雨音だけが一定のリズムを刻んでいた。
「……雨で、形跡が全部流れているな」
レンセリオンの低い声に、カイルが肩をすくめながら言った。
「身体の芯まで冷えてきますね……」
雨の中、全員が無言で立ち続けている。
誰も弱音は吐かないが、指先がわずかに震えている者もいた。
(今日、この道を通る保証はない。だが――ここしかない)
密輸馬車は不定期。
だが、この旧街道を通るという情報は確かだ。
ソレイダからの馬車を待つ視線を、森の奥へ向けたその瞬間。
……ギシ……ギシ……
森の静寂を裂くように、車軸の軋む音がした。
「来たか?」
レンセリオンたちは木陰へ身を沈める。
だが――馬車が現れた方角は、ソレイダ側ではなかった。
「倉庫街のほうから……? 戻りか?」
「積み荷が重そうだな……車軸が沈んでる」
鋭い囁きが次々に走る。
レンセリオンの瞳が細められた。
「……動くぞ。馬に乗れ。追跡に入る」
雨の中、第四騎士団の影が一斉に走り出した。
旧街道を抜け、密輸馬車の“帰り”を追うために。




