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第108話 濃紺の微笑

カーディアス率いる第二部隊は騎士団本部・第四騎士団情報班で密輸馬車の照会へ。

レンセリオン、ルーク、カイルはナイトクロウ商会へ向かうことになった。


通りの路地で馬を降りると、レンセリオンは外套の内側から身分を示す徽章を外し、懐にしまう。


「殿下、お気をつけて。」


ルークが言い、カイルも真剣に頭を下げた。


「何かあったら、すぐ突っ込みますから!」


レンセリオンは軽くうなずき、紺の木壁に淡い灯りを宿す〈ナイトクロウ商会〉の扉を押した。


扉を開いた瞬間――甘く濃い香りが押し寄せた。


「……っ」


レンセリオンは鼻をわずかに押さえる。


(……落ち着かない匂いだ。妙に頭に残る)


棚には香類、儀式具、布製品。

“見せたい品”と“隠したい品”の匂いが混じる空間。


奥から濃紺のドレスの女――ヴィオラが現れた。


「まあ……騎士様。また来てくださるなんて、嬉しいわ。」


前回より一歩近く、探るような微笑。


「探し物は、用意していただけただろうか?」


ヴィオラは「もちろんですわ」と言い、小さな金の缶を取り出した。


カチリ。


蓋を開けると、淡紫色の布で作られた小袋がひとつ。


「“夜の気をほぐす品”でしたわね。」


ヴィオラはその小袋を摘み上げ、口紐をそっと緩める。


ふわり――乾いた香りが広がった。


袋の中には、灰紫がかった薄い葉を乾燥させたものが詰められていた。


レンセリオンはわずかに目を細める。


(……バリーク草か?

 湯治場で見かけるものに似ている……だが、色が深い。

 葉の縁の形も違う)


似ている――だが違う。

ルクヴェルの植物ではない。


ヴィオラは静かに微笑んだ。


「ある植物を乾燥させたものですの。枕元に置けば、精神の緊張をゆるめてくれます。」


「その植物とは?」


「――それは“内緒”ですわ。騎士様でも聞いてはなりません。」


囁くように言うその声音は、妖しいほど柔らかい。


それ以上追うことはできなかった。

レンセリオンは代金を静かに支払う。


店を出ようとした刹那――ヴィオラと視線が交錯した。


「ひとつ、尋ねたいことがあります。」


レンセリオンの静かな声に、ヴィオラの肩がわずかに揺れる。


「何でございましょう?」


「……貴女は、ソレイダ出身ですか?」


たった一瞬。ヴィオラの瞳が揺れた。


「私は……ルクヴェルの国籍を持っております。」


声は整っているが、動揺は残る。


レンセリオンは薬指の指輪をちらりと見る。


(……国籍のための婚姻か?

 いや、恋愛の結果かもしれない。

 いずれにせよ――ソレイダとの繋がりは無視できない)


ソレイダ特有の布の巻き方。手首の飾り。仕草の端に宿る“熱”。


(……間違いない。ソレイダの気質だ)


「失礼しました。個人的に気になっただけです。」


柔らかく微笑むと、ヴィオラもほっとしたように息をつく。だが――


「深夜帯でしたら……もっと深いお話もできますよ?」


絡みつく視線。意味を含んだ微笑。


レンセリオンは視線をそらし、軽く咳払いした。


「……では、失礼する。」


短い礼を残し、店を出た。

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