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第106話 講義の合間

王立学院・小講堂。


今日から講義が始まった。昨夜は結局、城へ戻ったのは深夜を過ぎていた。身体は当然のように休息を要求している。


出てくる欠伸を噛み殺しながら、レンセリオンはシリウスの説明に耳を傾けていた。


――だが、リリナの名前があがった瞬間だけ、曇っていた思考がすっと澄むように感じた。


斜め前の席に座る彼女へ、無意識に視線が向く。淡い光をまとった横顔は、講堂の白光に溶け込むようで――その“存在そのもの”が、眠気を静かに払い落とした。


視線を感じて隣を向くと、ユリウスと目が合った。


ニコッと微笑むユリウス。レンセリオンも、それらしく笑顔を返す。


「眠そうですね」


口パクでそう言われ、レンセリオンは息を吐き、苦笑した。


「稽古ですか?」


今度は口パクのまま、ペンを剣のように振る仕草をしてみせるユリウス。


(……そういうことにしておくか)


純粋に興味だけで眠気の理由を探ってくるユリウスに、レンセリオンは短く頷いた。


その時、シリウスが各机の上に本を置いて回り始めた。レンセリオンの机にも本が置かれる。


シリウスは、その下にそっと白い紙を挟んで見せた。レンセリオンが視線を向けると、ほんのわずかに頷く。


誰かからのメッセージ――そう理解した。


講義の合間を装いながら、レンセリオンは紙を開く。


そこには簡潔な文字が記されていた。


〈徴税院調査〉

・香類の輸入数、申告と一致

・輸入元:ソレイダ


〈追補〉

・本日午後、境界番所にてソレイダ馬車の通関予定

・申告品:雑貨(香類を含む)

・荷受人:ナイトクロウ商会


それだけ。だが状況を知る者には、あまりにも十分だった。


(……今日“動き”がある)


胸の奥が、ゆっくりと冷たく締まっていく。


調合物の痕跡は、表の帳簿からは掴めない。だが――その“積荷”が今日、運ばれる。


(講義が終わり次第、向かうしかない)


レンセリオンは紙を折り、静かに息を吐いた。


(……間に合うかどうかの勝負だな)

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