第104話 光の声
講堂の天井では白金の梁が淡く光を返し、夜明け前の気配をまだ少しだけ残していた。
(……変わらないな。この光の匂い)
レンセリオンは胸の内で静かに息を整えた。ここに立つのは久しぶりではない。だが、今日は――ほんの一つだけ、いつもとは違う。
リリナ・エル・セレフィアが、この場にいる。
騎士団本部で別れたあの日から、わずか一週間ほど。けれど、思っていたよりも長かった。
七国の名が順に呼ばれ、各国の後継たちが壇上へと歩み出る。その動きを見守りながらも、心の奥でずっと待っている名があった。
そして――最後の声が講堂に落ちる。
「セレフィア王国、リリナ・エル・セレフィア姫。」
胸の奥が、ふっと熱を帯びた。
ゆっくりと歩みを進めてくる小柄な姿。淡金の髪が光を受けるたび、花弁がほどけるように揺れ――レンセリオンは思わず目を細めた。
(……あの日と、同じだ)
胸に手を添える。それはセレフィアの祈りの形。静かで、柔らかくて――触れれば壊れるのではなく、触れたら光が広がるような気配。
リリナが口を開く。
「セレフィア王国――光と命の国より参りました、リリナ・エル・セレフィアと申します。」
その声は、講堂という広い空間のどこにいても、まっすぐ届いてくる清らかさを持っていた。
続く言葉ひとつひとつが、光の大輪に触れて揺らぎを深めていくようで――レンセリオンは瞬きを忘れた。
「命は奪われず、姿を変えて還る……か。」
思わず心の中で繰り返す。まるで花が静かに開くような思想。それを、はっきりとした意志で語るその姿に、胸の奥でなにかがゆっくりと動いた。
(……綺麗だ、だけではない。この声は、光を呼ぶ)
リリナが一礼し、淡い光をまとって列へ戻る。
その横顔がふと揺れ、ほんの一瞬だけこちらに向いた気がして――レンセリオンは自分でも驚くほど静かに息を呑んだ。
(遠くにいたはずなのに……どうして、こんなにも近い)
講堂には拍手が広がり、儀式は静かに幕を閉じていく。
だがレンセリオンの胸の奥では、別の小さな幕が、そっと開いていた。
――また、会える。
そしてきっと、今日の彼女の言葉を思い出すだろう。
「光は奪われない。巡るだけだ」と。




