王国歴1669年10月21日①:まさかの朝チュン!?
王国歴1669年10月21日
気が付くと朝だった。
私は柔らかいベッドに上体を起こすと、不意に襲ってきた未知の不快感に頭を抱える。風邪とは違って目の奥が鈍く痛むような、世界が回っているような不思議な感覚だった。
えっと…昨日は…みんなで食事して…
何だか凄く楽しくて…それでどうしたんだっけ?
私は記憶の断片を搔き集めようとするが、どうにも上手くいかない。グララブと乾杯したり、シーナルと一緒に歌ったり、キースに頭を撫でられたり、ヒイロの腕にしがみついた映像が浮かんでは消える。
「う~~ん、何にも思い出せない…」
「おはよう、コマイちゃん」
「あ、おはようございます………って、えええぇぇェェェェェェェッ!」
声の方を向くとローブ姿のヒイロが、木のコップを2つ持ってベッドの側に立っていた。見れば私も同じローブを着ており、当然だがその中に服は着ていなかった。
「ほら、これを飲んで」
ヒイロがコップを渡してきた。木目が透けて見えるので、どうやら水の様である。それを飲むヒイロに従い、私もコップの水を口に含んだ。井戸から汲み立てなのか、とても冷たくて美味しい水だ。身体が欲していたのか、ついゴクゴクと飲んでしまう。
その水のお陰か少しだけ頭が冴えてきた。私は現状を確認しようと、周囲を注意深く観察する。
えっと…知らない部屋よね…コーモノ様の部屋より立派かもしれない…
ベッドもフカフカで、このローブも上等な品だ…
そ、そして……ローブの下は………
良かった、木綿の肌着とかぼちゃパンツは穿いてる……
け、けど、もう一度着せられる事も考えられる…のかな?
…どこも痛くはない……けど……人によっては痛くないらしいし…
ヒイロさんもローブで…厚い胸板……逞しい腕…………
って、見惚れてちゃ駄目だろ!
表情は…何だか優しく微笑んでるけど…どういった意味なんだろう…
そんな私の考えを余所に、ヒイロがベッドに腰掛けてきた。
「昨日は楽しかった?」
「…え?は、はい!」
「最初はみんな、あんな感じだよ…恥ずかしい事は無いからね?」
え?え?え?
なに?最初?恥ずかしい?
………もしかして、私、初体験しちゃってるの!?
私は掛け布を捲ってシーツを確かめたい衝動に駆られた。先輩の話では白いシーツに初夜の印が出ると聞いていたからだ。
しかしさすがにそれを実行するのは躊躇われた。もし交合していればハニトラ成功なのだ。未来の旦那様に恥ずかしい行動は見せられない。
しちゃった…って事は、す、全てを見られたという事よね?
姉さん達みたいに大きなモノを持ってたら良かったんだけど…
私のは…その…自分でも掴めないぐらいだし…
け、けど、色は良いと思うのよ?
…ガッカリしてないかな?してないと良いんだけど……
私はローブの胸元を直すと、頑張ってヒイロに聞いてみた。
「わ、私…どうでした?」
「何ていうか…とても元気で可愛かったよ?……もしかして、覚えてないの?」
「い、いえ!そんな事は決して!しっかりバッチリ覚えてます!」
”可愛い”と言われた事は嬉しかったが、初夜で”元気”と言われるのは女としてどうなのかと思う。しかしそれは大した問題ではない。問題なのは何も覚えてないという事だ。記憶もないのに交合するような軽い女に思われたくはないのである。
「そう?覚えてるなら次から気を付けようね。人が変わったみたいだったし、程々にした方が良いと思うよ?」
…………え?
…人が変わった?程々にした方が良い?それに元気だったって…
………もしかして私から襲い掛かって、何度も求めちゃったの!?
…そんな…わたし…初めてなのに…ケダモノだったんだぁぁぁぁぁ………
私は恥ずかしさに泣きそうになりながら、最後の気力でヒイロから顔を背けた。そして自分の尊厳を守る為に謝罪の言葉を絞り出す。
「………ず、ずびばぜん……本当は……何も…覚えてないんです…」
「…まぁ、そうだろうと思ったよ」
ヒイロは優しい口調で呟くと、私の頭をゆっくり撫でてくれた。
「す、すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァッ!!!」
「あ、謝らないで!グララブさんも悪いし、気付かなかった俺も悪いから!」
私はベッドから飛び降りると、その場に土下座して謝罪した。ヒイロがフォローしてくれるが、それでも謝罪しなければ気が済まない。私はそれだけの事をしていたのだ。
ヒイロの話によると、私は酔って暴れたそうだ。
グララブが果実水に酒精を混ぜていたらしく、気分が良くなった私はシーナルの耳を引っ張り、キースの髪の毛を毟り、グララブから酒を奪って一気飲みし、ヒイロに抱き着いてキスを求めたそうだ。
このままではいけないとカリーナが馬車を手配して食事会はお開きとなったのだが、その頃には私は立ち上がる事も出来ず、ヒイロに背負われて外に出たらしい。そしてその背中で私は嘔吐してしまったのだ。
その状態では馬車に乗せられず、私一人で宿に泊まらせる事も出来ない。仕方なくヒイロは私を背負ったまま泊っている宿まで歩いたそうだ。そして私の汚れた服を脱がし、お湯で丹念に拭いて、ベッドに寝かせてくれたらしい。ちなみに服は宿の人に頼んで洗ってもらっているそうだ。
「その…ゲロまみれにしちゃって…本当にすみません……」
「気にしないで?最初は良くある事だから…」
「……幻滅しちゃいますよね……こんな汚い女なんて……」
ヒイロの優しい微笑みが余計に辛く、私はポロポロと涙を零してしまった。ヒイロはそんな私の頭を撫でてくれる。
「その…俺も最初は失敗したからさ…最初の依頼を成功させて、嬉しくて飲んじゃって、同じように吐いたんだ。だからコマイちゃんの事を汚いなんて思ってないよ?だから元気出して?」
「………はぃ………」
私が返事を絞り出すと、ヒイロは安心したのか私の頭から手を放す。そして何を思ったのか、私の身体を抱きかかえるとお姫様抱っこをしてくれた。
「え!ちょ、ヒイロさん!?」
「二日酔いだと辛いでしょ?もう少しベッドで横になりなよ」
ヒイロは私を軽々と運び、ベッドに優しく降ろしてくれた。そして掛け布を被せてくれると、まるで子供をあやすように頭をポンポンしてくれる。
「俺は少し汗を流して酒を抜いてくるよ。ゆっくり休んでてね」
「ぅ………はぃ……」
鼓動が跳ね上がった為か頭痛が酷くなり、私は返事をするのがやっとだった。
ヒイロは部屋の隅でローブを脱ぎ、薄手のシャツと短パンに着替える。
私はベッドから上体も起こせず、ただヒイロの背中を眺める事しかできなかった。




