王国歴1669年10月20日③:初対面!
化粧を終えた私は、カリーナから衣装を借りて着替える。カリーナのようなカクテルドレスが良かったが、私では丈が長すぎて着れなかった。仕方がないのでフリルの付いた白のブラウスに赤い大きなリボンを付け、紺のフレアスカートという落ち着いた服装を選択した。子供っぽい服装だが、そこは化粧で挽回できると期待している。
準備を終えた私とカリーナは、コーモノ様が呼んだ馬車に乗って街へ出掛けた。車窓の外はすでに夕闇が迫り、家路を急ぐ人々が見て取れる。11月の頭から始まる収穫祭の為か、少しだけ人々の顔が明るいような気がした。
馬車は西の繁華街へと向かっていき、ある一軒の料理店の前で止まる。その店は『ガストロミ』といい、伯爵領の中でも美味しいと評判の店だった。私も以前から気になっていたのだが、一人単価5Gとかなり御高めで、実家に仕送りしている私では挑戦する事ができなかったのだ。
私はここの料理をタダで食べられると思い、カリーナと『天井知らず』に感謝した。
カリーナが慣れた足取りで馬車を降り、私に手を差し伸べてくれる。反対の手には何故か化粧道具を詰め込んだメイクボックスが下げられていた。
私は狭い視野に苦戦しながら、助けを借りて何とか馬車を降りる。視野が狭いのはカリーナが出掛ける前、私に女優帽とマスクを被せたからだ。理由を聞くと彼女曰く「初めての化粧を見せるのは、男性のほうが反応が判りやすい」らしい。よく判らないが、とりあえず彼女の指示に従う事にする。
明るい店内には控えめだが品のある調度品が並び、上品な音楽が会話の邪魔にならない程度に流れていた。裕福そうな客達は高級そうな料理を味わい、ワインで唇を濡らしながら楽しそうに歓談している。私が普段行くような大衆食堂とは全然違い、何となく場違いさを感じてしまった。
店に足を踏み入れたカリーナに、店員が無言で頭を下げて先導する。どうやら顔パスのようだ。店員は私達二人を店の奥へ案内し、豪勢な扉の前で立ち止まった。
「キース様、カリーナ様がお見えになりました」
「おう、待ってたぜ!」
男性の返事を確認した店員が扉を引く。すると先程の店内よりも豪勢な室内で4人の男性が酒を飲んでいた。
「よく来たな、カリーナ。相変わらずイイ女だ!」
「あらキース、相変わらず口が上手いのね」
キースと呼ばれた男性は歓迎するようにジョッキを持ち上げる。カリーナは私の手を引くと男性達の前に導き、そして背後に回ると肩に手を置いた。
「紹介するわね、コーモノからのハニトラ6人目、コマイちゃんよ」
「宜しくな、コマイ」
「宜しく、お嬢さん」
「よろしくね~ッ!」
キースと呼ばれた人間、エルフ、ハーフリングの少年が口々に挨拶をしてくれる。もう一人の人間は口を開かず、軽く微笑むと小さく頭を下げてくれた。
「あ、あの、宜しくお願いしますッ!」
私の挨拶に皆が拍手をしてくれる。何とも優しそうな人達だ。一通りの拍手が終わると、カリーナが私の背中を軽く押した。
「それではお披露目で~す!皆様、忌憚のない点数を付けてくださいね♪」
(ほら、帽子とマスクを外して)
私はカリーナの耳打ちに覚悟を決め、帽子とマスクを外した。
どうだ!私の渾身の化粧はっ!
カリーナの様な憂いある瞳を目指し、濃いめに塗ったアイシャドー。
大人らしく彫りを深くするために、強めに入れたシェーディング。
鼻をくっきり高く見せる為の、真っ直ぐなノーズシャドウ。
血色を良く見せる為に施した、広範囲の濃いめのチーク。
そして魅力的な唇を強調する、情熱的な真っ赤なリップ。
これが私の思い描く、大人の女性の理想像だァァァァ!!
「仮装ならもうちょっと派手な方が良いな…35点」
「南方領の部族が施していた呪術化粧に似ています、再現度が高いので60点」
「猿の仲間にもこんな顔したのが居たよ?40点」
「うわぁぁぁぁぁァァァァァッ!!」
私は恥ずかしさのあまり女優帽で顔を隠した。自然と涙も零れてくる。
「みんな、あんまりな事を言うなよ!努力は認めようじゃないか!」
無口だった男性がフォローの言葉を口にするが、私の傷口に塩を擦り込んだだけだった。その場に崩れ落ちた私の肩を、カリーナがポンポンと叩く。
「ま、最初はこんなもんだって!化粧の考え方から違うのよ、ほら、顔を拭いて!」
「うむ、化粧が崩れて迫力が出た…60点」
「本当に呪われそうです、85点」
「ここまで来ると芸術だよね、80点」
男達の勝手な言葉に激怒しながら、私はテーブルにあった手拭きで顔をゴシゴシと拭いた。それでも化粧が落ちなかったのか、カリーナが手に化粧油を垂らして私の顔に塗り込んでくれる。それを何度か拭き取ると私の黒歴史化粧は完全に消えてくれた。
「お?なんだ、可愛い嬢ちゃんじゃないか」
「ふむ、将来性を感じる顔立ちです」
「…なんじゃ、儂の種族と同じ、幼い顔立ちではないか…」
「うん、とても可愛らしいよね」
若干の棘のある言葉が混じっているようだが、先程までの発言とは打って変わって高評価の雰囲気だった。私の気持ちは急上昇し、みんなの顔を見ながら聞いてみた。
「それじゃ私と結婚してくれる?」
「すまん、俺は胸の大きい女が好きだ」
「私の趣味ではありません」
「何でこんな子供を相手せにゃならんのだ」
「うわぁぁぁぁぁァァァァァッ!!」
私はその場に再び崩れ落ちて号泣した。




