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ちっぱいメイドは玉の輿&寿退社の夢を見れるか!?~伯爵家の下っ端メイドですが ハニトラしてこいと命令されました~  作者: 岩爺


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10/12

王国歴1669年10月21日④:18枚の小金貨!

「えっと…彼女はビビィ先輩…前はゲッスーナ伯爵家で私と一緒にメイドの仕事に就いていました」

「ふむふむ、できれば個人的な情報をもっと教えてほしいのですが…」


 席の対面に座ったシーナルはテーブルを乗り越えんばかりの勢いで身を乗り出し、私に更なる情報を求めてきた。私はその勢いにドン引きしてしまう。


「えっと、シーナルさん…その、本人に許可もなく色々教えるのはどうかと…」

「…ふむ、確かにその通りです。それは人として問題がある行動ですね」


 そういうとシーナルは懐から巾着を取り出すと、その口を緩めて中身を見せてきた。中には相当な小金貨が入っており、その手が動くたびにチャリチャリと美しい音を奏でる。



  ちょっとシーナルさん!

  私にビビィ先輩を売れっていうんですか!?

  いったい私の事をどう思っているんですか!


  …さすがパーティの頭脳担当…人を見る目は確かなようです…



「えっと、確か18歳で、趣味は食べる事ですね」

「他には?例えば、その、結婚してるとか、お付き合いしている相手がいるとか…」

「結婚はしてないですし、男性と話している場面すら見た事ありません」

「そう、一人ですか…休日は何をしているのでしょう?」

「食べるのが好きだから、食べ歩きをしてますよ。私も何度か付き合いました」


 シーナルは私の返答に頷く度に小金貨を取り出し、私の前に転がしてきた。私はその小金貨を追いかける度に口が軽くなり、ビビィの行きつけの店や好みの料理など知っている情報を次々と吐き出してしまう。例え悪人の汚名を被ろうとも黄金(こがね)色の魅力には勝てないのだ。

 私がホクホク顔で仕舞っていると、シーナルが小金貨を3枚テーブルに置いた。


「できればレディ・ビビィと夕食を共にしたいのですが…」

「………う~ん………」


 私は置かれた小金貨を眺めながら唸ってしまった。小金貨に目が眩んでいるのは確かなのだが、どんな人物か分からないシーナルをビビィに引き合わせるのは気が引けるのだ。

 私の困惑を値段交渉と受け取ったシナールが小金貨をさらに積み上げるが、私はそれを手で制した。


「ビビィ先輩はとても優しい先輩です。私も大変お世話になりました。ですから先輩が不幸になるような紹介をしたくないんです」

「ほぅ、ただの拝金主義者ではないようですね」

「誉め言葉と受け取っておきますね♪…それで、本気なんですか?遊びじゃないですよね?」


 シーナルの眉がピクリと動く。私の言葉で不快になったかと思ったが、シーナルは瞳を閉じると小さく息を吐いた。


「私は真剣に、レディ・ビビィとの間に子供を作りたいと願っています」

「そ、それって…結婚まで考えているの!?」

「いえ全然」

「何でじゃぁぁぁぁぁッ!!」


 シーナルは立ち上がると、赤い顔をしながら自分の両肩を抱いて身悶えた。


「生まれたばかりのような顔と首のライン!あの生命力の溢れる肉体!女神のような母性溢れる豊満な胸!全てを押し鎮めるような安定感のある臀部!私の情熱を全て受け止めるような柔らかく冷ややかな肌!まさに女神が造りたもうた究極の美!」

「ただの性的嗜好じゃないかぁぁぁぁぁっ!!!」


 立ち上がって叫んだ私に従業員が走ってきたが、冷静になった私はそれを手で制し、息を整えながら席に座り直した。


「そんな不誠実な気持ちの人を、先輩には紹介できませんよ!」

「考え方の違いです。私は彼女を縛りたくないのです」

「?………それって、どういう意味ですか?」


 私のジト目の問い掛けに、シーナルは柔らかい表情になった。そして静かに椅子に座り直し、少しだけ目を逸らして口を開く。


「冒険をするという事は危険を冒す事です。常に死と隣り合わせで帰ってこれる保証は何処にもありません」

「…グララブさんも同じ事を言っていましたね」

「皆の気持ちは同じです。ただし、それぞれの思いが違うだけです」

「…思いですか?」


私の問い掛けにシーナルは微笑んで目を合わせてきた。


「私の場合は…ただの(ごう)です。死を目前にすると、どうしても何かを残したくなります。端的に言えば子供ですね。生物的な本能なのかもしれません。しかし私が愛した女性には幸せになってほしい。結婚という鎖で、私の人生に縛り付けたくないのです」

「そんな身勝手な!」

「身勝手ですよね」


 私の激怒にシーナルは自虐的に笑った。


「この300年近い人生で愛した女性は80人を下らないでしょう。しかし子を成せたのはただの2人…長寿に重きを置くエルフの、生物的な傾向なのかもしれません。数年は共に過ごしても問題ないのですが、それ以上となると関係に不和が生じます」


 シーナルの言葉に、私は言葉を失った。

例え愛し合っていても、何年も子供ができなかったら女性は不安になるだろう。それなら別の男性を探してしまうだろうと考えた、自分の身勝手さに背筋が寒くなる。

 私の気持ちを読み取ったのか、シーナルは静かに瞳を閉じた。


「愛してても別れるのなら、私は最初から結婚を回避します。そうすれば相手の人生が汚れる事はありません。私との事は忘れて新しい幸せを追えるのですから」

「…もし、ビビィ先輩との間に子供が出来たら」

「私の命の限り、幸せにすると誓います」


 シーナルは私の言葉が終わる前に宣言する。見開いたその瞳は真剣だった。


「…もっとも、冒険者ですから明日をも知れぬ命ですけどね。出来るだけお金は残すようにしますし、冒険者ギルドには便宜を図ってもらえるように手続きするつもりです」

「………ぅぅぅぅぅぅ……………」


 私はシーナルが本気である事を知り、腕を組んで天を仰いだ。シーナルの気持ちも少しは理解できるのだが、納得するまでには至っていないのだ。

 シーナルの真剣な瞳を見返すと、私は出過ぎた真似を口にする。


「…シーナルさん、お願いがあります。ビビィ先輩と話す時は嘘は言わないでください。子供を作りたい、死ぬかもしれないから結婚できない、出来る限りの事をする…それを正直に言って、それでビビィ先輩を納得させてください。約束できますか?」

「わかりました。何も隠さず、本心から話す事を約束します」


 シーナルは一瞬の躊躇いもなく私のお願いを快諾した。こうなると私は部外者であり、あとは二人の話なのだ。


「……分かりました、ビビィ先輩を誘ってみます…昨日のガストロミでいいんですよね?」

「おぉ!ありがとう、ミス・コマイ!」

「言っておきますけど、本人が断ったら来ないですからね?……あと……」


 私は懐から巾着を取り出すと、さっき仕舞ったシーナルの小金貨を数えた。そして18枚の小金貨を身を切るような思いで取り出し、シーナルの前に突き返す。


「んぐぅぉぉぉぉ……こ、このお金……お、おか、お返ししま……すぅ……」

「か、かなり無理をしているようですが…情報料ですから返す必要はないのですよ?」

「だって…子供が出来た時はお金を残しておくんでしょ?こんな事でそのお金を減らしたと思ったら…ビビィ先輩の顔を見れなくなる気がします……」


 私の言葉を聞いたシーナルは目を見開き、そして自然な微笑みを浮かべた。


「ふふ、コマイさんはとんだお人好しですね。こんなに素敵な娘なら、きっとヒイロとお似合いでしょう。お節介でしょうが私もグララブ同様、二人を応援しますよ」

「そ、そんな!…応援されても困ります…あと9日だけだから…」

「…グララブが話しましたか…だが、短い時間でもヒイロに楽しい思い出を作ってやってほしいのです、私からもお願いします」


 シーナルはこれまでない真剣な表情で、私に深々と頭を下げた。グララブにしろシーナルにしろ、行動が何だか大袈裟なように感じる。


「…まぁ、グララブさんとも約束しましたし…けど…思い出だけじゃ嫌ですよ…」

「ふむ、確か…いい男と結婚して、玉の輿に乗って、寿退社したい…でしたね?」

「そうです。素敵な男性と仲良くなって、こ…子供を作って、幸せな家庭が欲しいんです!」

「…もし、ヒイロが私と同じ考えだったら…諦めるのですか?」


 私はまた両腕を組んで考える。酒が抜けてきたのか、それともまだ残っているのか、思ったより簡単に簡潔な答えが出た。


「私の事を一番に考えるように、相手を私に惚れさせます。必ず生きて帰る…何なら依頼を断っても私と一緒に居たいって、言わせてみせます」


 私の答えが想定外だったのかシーナルは目を見開いて驚き、しかしすぐに声を殺して笑い出した。


「な、何が可笑しいんですか!」

「い、いや…こんなに自信に溢れた女性を見た事がなくて…ヒイロは幸せ者だと…」

「べ、別にヒイロさんの事とは言ってません!」


 私が赤い顔でそっぽを向くと、シーナルは目尻の涙を拭きながら一息吐く。


「いやはや、これで心残りが一つ減りました。あとはレディ・ビビィと親しくなるだけです」

「……ちょっと聞いていいですか?冒険者って、冒険の度にこんなに覚悟を決めるものなんですか?」

「……あ、ちょうど料理が運ばれてきたみたいですよ?」


 シーナルの言葉に視線を走らすと、厨房から料理が運ばれてくるところだった。コックらしき男性が押す配膳車には、綺麗に飾られたスイーツが乗っている。

 その背後の厨房には、指を咥えてスイーツを見送るビビィの姿が見えた。

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