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ちっぱいメイドは玉の輿&寿退社の夢を見れるか!?~伯爵家の下っ端メイドですが ハニトラしてこいと命令されました~  作者: 岩爺


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王国歴1669年10月20日①:伯爵様からの命令

王国歴1669年10月20日


「コマイ君、君に命令する。勇者候補と名高い『天井知らず』を誘惑し、この街に定住させるのだ」

「……ふぇ?」

挿絵(By みてみん)

 私は雇用主であるコーモノ・ゲッスーナ伯爵に、思わず間抜けな声で問い返してしまった。



 取り合えず状況を整理しよう。


挿絵(By みてみん)


 私の名前はコマイ・ロウリノブル、15歳、貧乏男爵の8人兄弟の6番目で四女だ。今はゲッスーナ伯爵家のメイドとして奉公しており、給金の大半を実家に仕送りしている。実家の領地は村3つと狭く、主産業が酪農で現金収入が殆どないからだ。

 ちなみに22歳の長男が第二師団で騎士、17歳の次男が従者、25歳の長女が別の伯爵家の妾として家を出ており、そこからも仕送りをしている状態だ。


 西方領の中堅貴族であるゲッスーナ伯爵家には13歳の時からメイドとして働いている。勤続2年の下っ端だが給金は世間一般の男性並みに貰えるし、礼法の指導も受けられるので実家で酪農するより有益なのだ。


 そんな何処にでもいる普通のメイドなのだが、私の容姿は特別だったりする。

つぶらな瞳、整った輪郭、薄紅色の唇、肩口で切り揃えた艶やかな黒髪。

世間に自信を持って宣言できる、私は自他共に認める美少女だ。


 しかし「女神からの贈り物は一つだけ」という言葉があるように、私にも欠点はある。それは胸だ。母や姉達と違い、私の胸は非常に清楚なのだ。

 私も努力はした。姉達を見習い、領地特産の牛乳を沢山飲もうとした。しかし体質が合わずにお腹が痛くなり、美味しいのにコップ1杯すらも怖くて飲めなかった。そのせいか兄弟姉妹の中でも身長が低く、手足も細いので実年齢より3歳ぐらいは幼く見られてしまう。


 実家に居た時、次女と三女が私の頭を撫でながら慰めてくれた。


「コマイ、別に胸が大きいからって良い事なんて無いからね?千切れそうに痛いから走れないし、寝返りでも目が覚めちゃうのよ?」

「そうそう、肩は凝るは足元は見えないわで本当に邪魔なのよね~、コマイは可愛いからそのままで十分じゃない?」


 その言葉は本当に嬉しいのだが、私の頭ぐらいの胸で慰められると殺意を感じてしまうのは仕方ない事だと思う。



  …別にいいんです。

  羨ましくなんてありません。えぇ、ありませんとも。

  だけど姉さん達の憐れむような視線だけは我慢なりません!


  確かに長女はその胸と美貌で伯爵家の側室に入りましたが、

  次女は豪農の家に嫁いだものの嫁姑問題で出戻りしてるし、

  心労で食事量が増えて我儘な体形になってますよね?

  三女は次女のせいで結婚に希望が持てずに引き籠って、身嗜みだしなみも整えず、

  誰に見せる事も無い恋愛創作戯曲を書いてますよね?

  私は奉公に出て給金を仕送りしてるんだぞ!

  姉さん達に負けてるのは胸だけだからな!?

  だから優越感に浸るんじゃないわよ!!


  その脂肪 ()いでやろうか コンチキショーッ!


  領民だってそうだ、なぜ胸元ばかりを見る!

  アレか、水桶を持ち上げた時にプルルンと揺れるアレが良いのか!?

  いいかみんな、胸元を見て「可愛い」は誉め言葉じゃないからな!

  『美少女』の『少』は『足りない』って意味じゃないんだから!!




…コホン、話を戻す事にする。

そんな私がコーモノ様の執務室に呼び出され「勇者を誘惑しろ」と命令されたのだ。そりゃ変な声が出ても可笑しくないのである。


「…発言、宜しいでしょうか?」

「うむ、許可しよう」

「どうしてそんな事を計画するんです?」


 私の問いにコーモノ様は後ろで手を組み、天を仰いだ。頭の金髪カツラがズレそうである。50歳を越えたコーモノ様は飽食が趣味で、実家の領民では見た事も無いぐらいに太っていた。その脂ぎった手で尻を触ってくるので、メイドの間では凄く嫌われていたりする。私は触られたこと無いけど。


「ふ~む…君は巷で噂の『天井知らず』を知っているか?」

「…まぁ、噂ぐらいは…」



 有名な冒険者パーティ『天井知らず』

仕事終わりに行く大衆食堂で詩人が(ぎん)じているのを何度も聞いた事がある。


『天井知らず』とは凄い名前なのだが、それは彼らが付けたものではないらしい。彼らが高難易度任務を数多く遂行して名を上げたので、もし指名依頼をしたら依頼料が『天井知らず』になるだろうという冗談から付けられたそうだ。今では彼らの実力を表す名前となり、広く知られる事となった。

 編成は人間の剣士とタンク、エルフの魔術師と、ハーフリングの斥候の4人で、全員が男性らしい。一番人気はエルフで凄い美形なのだそうだ。


 彼らはこの西方領で大活躍し、指折りの冒険者として名を馳せている。数年前から幾多のダンジョンを踏破し、街が壊滅する程の危機を何度も救ったらしい。将来はこのヨクアール王国から勇者と指名されるのではないかと噂されている程だ。

 海に怪物が出れば遠征し、北で精霊が暴れれば鎮めに行くなど東奔西走しており、彼らが一か所に(きょ)を構える事は無い。確か今はこのゲッスーナ領に滞在しているとメイドの先輩が噂していた。


 私が『天井知らず』の事を思い出していると、コーモノ様がさりげなくカツラを直しながらポツリと呟く。


「だって勇者に指名されそうな冒険者だろ?この街に定住してくれれば、儂の名も知れ渡ると思ってな。それに街が危機に陥ってもタダで救ってくれそうじゃん?」


 私はコーモノ様の浅慮に頭が痛くなってきた。しかし給金の為に表情は崩さない。その笑顔のまま自分の胸に手を置き、コーモノ様に問いかけた。


「…自分で言うのも何ですが、人選を間違えてません?大丈夫ですか?」

「…実はすでに5人程差し向けたのだが、なんとも芳しくない状態なのだ…」

「…あ、私は6番目ですか…」



  う~ん、6番目か…微妙な順番だなぁ…

  ………はッ!…もしかしてコーモノ様は私の美貌に賭けているのでは!?

  この美少女ならば、勇者も容易く攻略できると読んだのですね!

  私の魅力に気付くなんて、コーモノ様はただのデブではなかったようです。

  感服しましたコーモノ様、褒め称えるので給金上げてください。



「いや、君以外のメイド15人全員に声を掛けたが、失敗したか断られた。あとは38歳のメイド長か、隠居寸前の料理番ぐらいしか残っておらんのだ」

「え……私の評価っていったいぃぃぃ……」


 膝から崩れ落ちた私に、コーモノ様は笑顔で優しい声を掛けてきた。


「もちろん断る事も可能だ。その場合は評価がちぃ~と下がって、給金がきゅ~っと下がるだけだ。すぐに辞めろとも言わないから安心しなさい」

「それはもう解雇通告と代わらないのでは!?」

「ははは、他のメイドも同じことを言っていた。冗談に決まっておろう?給金は下げるけど」


 そういえば先輩の殆どが宿屋や食事処の求人情報を必死で探していた。すでに面接の日程も決まった人もいて「アンタも転職先を探しとけよ?」と忠告されたのだ。あの時は何を言っているのか判らなかったが、今なら理解する事が出来る。



  あぁぁぁ…完全に出遅れた…今から転職先を探すのは難しいかぁぁ…

  このまま仕事続けても給金は減るし、みんな辞めるから仕事は増えるし…

  いっそ実家に帰って、酪農の仕事を手伝うかなぁ……

  搾乳も放牧もできるし、荷馬車の扱いも慣れてるしなぁ…

  けど結婚相手は領内の酪農家かぁ…

  あ、先に姉達が結婚しないと駄目だ…私、結婚できるかなぁ…

  ゲッスーナ領に来た時は「私に貴族が一目惚れ♪」なんて夢見てたけど、

  コーモノ様は嫌われてるのか来客自体が無かったし…

  …あぁ、玉の輿したい…寿退社したい……




 私が実家までの旅費を指折り計算していると、コーモノ様が小声で呟いた。


「…国から勇者と指名されれば、すごい恩給が出るんだよな…」


  ……恩給?


「国王から金翼騎士爵を拝命するし、その辺の貴族より高位になるんだよな…」


  …貴族より高位?


「しかもこれまでの依頼達成料は、うちの財産を軽く上回ってるし…」


  伯爵家より金持ち!?


「受けてくれたら期間中の給金1.1倍、寿退社の折には3か月分の御祝儀も確約するのに…」


  昇給!寿退社!御祝儀!!


「いやまったく、ざんね」

「やります!やらせてください!」


 私は脂ぎった…もとい、潤っているコーモノ様の手を握り、任務を引き受けると宣言した。


「見ててください!私の美貌で勇者を誘惑し、既成事実を作ってみせます!」

「おぉ!!」

「待ってろ勇者!必ず玉の輿に乗ってやるからな!!」

「い、意気込みは伝わるのだが……何だか儂の方が不安になってきたぞ…」


 コーモノ様の言葉を無視しつつ、私は執務室の窓から輝ける太陽を指差した。

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