公正なる魂の取引(フェア・ソウル・ディール)
魂の公正な価値について、考えたことはありますか?
この物語は、人生の終わりに魂を回収する「死神」という非日常的な存在と、その対極に位置する「極めて誠実な弁護士」が出会うことで始まります。
この小説におけて、死神たちは普段は人間と見分けがつかない姿で、この世界に紛れ暮らしています。彼らは天界や地獄の使徒たちと共に、背中に隠した小さな羽で次元の狭間を飛び交い、魂の獲得競争を繰り広げています。そして、人間を愛し、結婚することさえ可能です。ただし、その愛を成就させるには、相手を自分たちと同じ種族へと進化させるという、絶対的な契約が必要です。
駆け出しの死神、リコがターゲットにしたのは、自身の利益のためには決して願いを使わない、清廉潔白の権化のような弁護士、神田正直。
彼女は、魂を奪うどころか、彼の「公正な願い」を叶えるために奔走させられる羽目になります。一方、神田の純粋すぎる魂は、天界や地獄の使徒たちからも狙われます。
愛と契約、倫理と欲望、そして永遠の命と人間の誠実さ。
この一見、矛盾に満ちた物語は、「公正さ」を至上とする男が、死神の献身的な愛という「誠実な対価」にどう向き合い、その魂を何と交換するのか、というロマンチックで倫理的な問いを追求します。
これは、愛こそが、魂にとって最も誠実かつ公正な取引であったと結論づける、異種族間の異色のラブストーリーです。どうぞ、この「魂の取引」の行方を見届けてください。
プロローグ
1.駆け出し死神の憂鬱
死神庁・魂回収課所属、コードネーム「リコ」。人間界での彼女は、黒いローブに身を包んでいるが、その下はごく普通の制服姿に見える。彼女たち死神や、天界・地獄の使徒は、人間と変わらない見た目で人間界に紛れて暮らしている。唯一の違いは、背中に隠された、ごく小さな半透明の羽だ。この羽は、人間界と異なる次元の世界(死神界など)の狭間をすり抜け、自由に行き来するためのものだった。彼らは人間と異なり寿命という概念はない。
リコの手に握られているのは、伝統的な魂回収ツールである大鎌――ではない。リコはまだ駆け出しのため、彼女に支給されたのは、柄の先に可愛らしいドクロのキーホルダーがついた、事務的なクリップボードだった。このクリップボードに、契約内容をデジタルインクでサインしてもらうのが、彼女の仕事だ。
死神の仕事は、人間の魂を「契約」によって手に入れること。魂は、転生したり、地獄での苦行に回されたり、稀に死神に昇格したりする、いわば死後の世界における通貨だ。
リコの成績は、同期の中で断トツの最下位だった。
「リコ、今月の成績、まだゼロなのか?いいか、魂を手に入れる基本はな、人間が持っている歪んだ欲望を刺激することだ。契約と引き換えに『望むだけの富』や『永遠の美貌』をちらつかせれば、奴らは勝手に死を早めるぞ!」
上司であるベテラン死神「グリム」のどぎつい指導が、リコの耳の奥で響く。
リコはそれが苦手だった。人間を唆し、不幸を加速させるなど、性に合わない。彼女は常に、「誰にも迷惑をかけずに、そっと契約して、そっと回収したい」と願っていた。
2.ターゲットの選択ミス
リコが今回ターゲットとして選んだのは、都心から離れた古びた法律事務所に勤める一人の男性だった。
「彼の名前は、神田 正直。45歳。弁護士。社会的弱者を助ける活動をしている…」
リコは、彼が「優しく、きっと小さな願いですぐに契約してくれるに違いない」と安易に考えていた。
彼は、幼い頃に事故で両親を亡くし、孤児院で育った。独力で勉強し、30歳で弁護士資格を取得。しかし、大企業よりも、貧しい人々の訴訟を無償で引き受けるため、収入は低く、事務所は常に傾きかけている。
「よし、この人なら、きっと『新しいスーツが欲しい』とか『美味しいご飯が食べたい』とか、そんな謙虚な願いで契約してくれるはず!」
リコはクリップボードを小脇に抱え、自信満々に神田の事務所の扉を通り抜け、半霊体となって彼の前に現れた。
第1章 正直すぎる弁護士と最初の取引
1.薄汚れた事務所と正直者
神田の法律事務所は、想像以上に薄暗く、デスクの上には、訴訟資料とインスタントコーヒーの空き缶が山積みになっていた。神田は、くたびれたスーツ姿で、分厚い資料を眼鏡越しに睨んでいる。
リコは、緊張しながらも、死神らしい威厳を出そうと試みる。
リコ:「あ、あの…失礼します。わ、私は、魂の契約に来た死神のリコです!」
真面目一辺倒の神田は、眼鏡を外し、リコを一瞥した。
神田:「…ふむ。死神さんですか。随分とお若いですね。コスプレサークルの勧誘か何かでしょうか?しかし、その背中から微かに透けて見える、銀色の小さな羽は、随分と精巧にできていますね。小道具への拘りには感心します。」
リコは、背中の羽がバレていないか焦る。「(心の声)ヤバい!見えてる!いや、コスプレだと思ってる!よし!」
リコ:「違います!私は本物の死神です!このクリップボードを見てください!これは契約書です!これは、異なる次元へのアクセスキーなんです!」
神田は興味深げにクリップボードを手に取った。そこには、「魂の譲渡契約書」と書かれている。
神田:「ほう。契約書ですか。拝見します。……なるほど、『一つだけ願いを叶える代わりに、死後、魂を渡す』と。願いの制約事項も明確に記載されています。法的には問題なさそうですね。」
リコの予想に反し、神田は全く恐れていない。むしろ、優秀な弁護士として、契約内容を冷静に分析し始めた。
2.リコの誤算と、神田の願い
リコ:「あ、ありがとうございます!ええと、神田さん。どんな願い事でも叶えます。富、名声、健康、何でも!さあ、早く契約して、魂を…」
神田は眼鏡をかけ直し、少し考えるそぶりを見せた。
神田:「そうですね。願い事、ですか。一つだけ、ですか…。確かに、私の事務所は金銭的に苦しい。ですが、もし私が『富』を願って大金を手に入れれば、それは世間から見れば不正な利益と見なされ、私の弁護士としての信用が地に落ちる可能性があります。」
リコ:「え?で、でも、願いは誰にもバレませんよ?」
神田:「バレなくとも、自分が不正な利益を得たという事実は残る。それは、依頼人に誠実であろうとする私の職業倫理に反します。…死神さん、私は依頼人を裏切るような願いはしたくありません。」
リコは絶句した。彼は、歪んだ欲望どころか、清廉潔白すぎる倫理観で、契約を拒否しているのだ。
リコ:「で、では…『健康』とかはどうですか?体力がつけば、もっと多くの依頼人を助けられますよ!」
神田:「健康ですか…。現在の私の健康診断の結果はB判定ですが、それは主に睡眠不足によるものであり、適切な睡眠をとれば改善可能です。安易に超常的な力を頼るのは、私の努力主義に反します。」
リコの顔から血の気が引いていく。この正直すぎる男は、自己の利益になる願いを、すべて倫理や努力で撥ねつけている。
3.契約成立
リコは泣きそうになりながら、最後の切り札を切った。
リコ:「お願いです!私、今月成績ゼロだと、グリムさんに怒られてしまうんです!」
そのリコの正直で情けない訴えが、神田の「弱者を助けたい」という本能に響いた。
神田は、少し困ったように眉を下げた。
神田:「……分かりました。死神さんの成績が関わっているとなれば、致し方ありません。私も、困っている死神を見過ごすのは、人道に反します。」
リコは感激のあまり涙目になった。「あ、ありがとうございます!」
神田はクリップボードを手に取り、願いの欄に、簡潔な一文を書き込んだ。
神田:「私の願いは一つです。『私の依頼人の一人、山本さんの訴訟の証拠資料が、裁判所の記録保管庫で紛失している。その資料を、無傷で、裁判所に届けてほしい』。これでどうでしょう。これは、社会的弱者を救うための、公正な願いです。」
リコはクリップボードに書かれた文字を見た。
それは、神田自身の利益には一切ならない、ただただ他人のために尽くす願いだった。しかも、願いの内容は『社会的弱者の救済』という、死神が関わるにはあまりに「清く正しい」内容だった。
リコ:「…承知いたしました!契約成立です!」
リコはホッとしてクリップボードを回収し、大急ぎで『紛失資料の回収』という、死神としては全く畑違いの任務に取り掛かるのだった。
第2章 死神の受難と清廉な魂の市場価値
1.死神、裁判所の記録保管庫へ潜入
リコは、夜の裁判所の記録保管庫に、半霊体の姿で潜入した。膨大な資料の山が立ち並ぶ中、リコは支給品の「魂感知ゴーグル」を装着する。
リコ(心の声):「魂の契約なのに、なんで私は泥棒みたいなことを…」
ゴーグルは、人や動物の強い感情の残留思念を赤く表示する。しかし、保管庫内は、「失われた人生」「理不尽な判決」といった、弁護士たちの過去の苦闘の念が渦巻いており、リコのゴーグルは真っ赤に点滅して使い物にならなかった。
リコが途方に暮れていると、背後から冷たい声がした。
「おい、リコ。そんな人道支援ボランティアみたいな真似をして、楽しいか?」
振り返ると、そこにいたのは、リコの直属の上司、ベテラン死神のグリムだった。彼は長く細い指に魂の残り香を燻らせた紙巻きタバコを挟み、嘲笑する。
グリム:「貴様が契約したという魂は、神田正直だろう?あの清廉潔白すぎる男。奴の魂は市場価値が高い。だが、その願いは『紛失資料の回収』?最も契約に不向きな人間を相手に、最も不毛な任務とは、さすが最下位の貴様らしい。」
リコ:「グリムさん!邪魔しないでください!私は正当な契約に基づき…」
グリム:「フン。貴様の甘さが気に入らん。いいか、リコ。あの男の魂は、天界も地獄も狙っている『特A級』だ。特に、閻魔の使徒が、彼の『絶対に曲がらない倫理観』を地獄の支配の道具にしようと、虎視眈々と狙っている。早く回収しないと、横取りされるぞ。」
グリムはそう言い残すと、嘲るように煙を吐き、姿を消した。リコは焦燥感に駆られながら、埃まみれの資料の山に飛び込んだ。
2.契約の履行と神田の疑念
夜が明け、神田の事務所に電話が鳴り響いた。裁判所からだった。
「神田弁護士!山本さんの訴訟資料が!なぜか昨夜のうちに、完璧な状態で保管庫の適切な棚に戻されていました!」
神田は電話を切り、一息ついたとき、事務所の隅に、昨日までなかったはずの、小さなドクロのキーホルダーが落ちているのを見つけた。
神田(心の声):「死神さん、律儀な人だ。契約は履行された、ということか。」
その日の夕方、リコが事務所に現れた。霊体ではなく、疲労困憊した生身に近い姿で。彼女のローブは埃まみれだ。
リコ:「はぁ…はぁ…。神田さん、お、お疲れ様です。資料、無事でしたか?」
神田は彼女を椅子に座らせ、インスタントではない、丁寧に淹れたコーヒーを差し出した。
神田:「完璧でした、リコさん。おかげで勝訴の見込みです。ありがとうございます。」
リコは温かいコーヒーを飲みながら、ぼそりと尋ねた。
リコ:「あ、あの…。神田さん、本当に、これ以外に願いはないんですか?例えば、『この事務所をきれいにしてほしい』とか…。」
神田:「リコさん。感謝はしていますが、契約はあくまで一回限り。事務所の掃除は私の仕事です。それに、この資料の山こそが、私が誠実に依頼人と向き合ってきた証です。不便はありますが、誇りでもあります。」
3.新たな訪問者:神の使徒
リコが事務所を出た直後、神田の事務所に、新しい訪問者が現れた。
ドアベルが鳴り、入ってきたのは、純白のスーツに身を包んだ、優雅な青年だった。彼の背中には、微かに光の翼の影が見える。
青年:「神田正直弁護士でいらっしゃいますか?私は天界の使徒、ラミエルと申します。」
神田:「これはどうも。天界の使徒さん、ですか。どのようなご用件でしょうか?」
ラミエルは、神田の目の前の椅子に優雅に座り、微笑んだ。
ラミエル:「あなたのご活躍、天界も注視しております。あなたの『純粋で自己犠牲的な魂』は、我々の『神候補リスト』の筆頭にあります。」
神田:「恐縮ですが、私は神などには興味がありません。依頼人にとって公正であることこそ、私の使命です。」
ラミエル:「お気持ちは分かります。しかし、あなたには『死神との契約』という、我々にとって看過できない事実があります。」
ラミエルは神田の目を真っ直ぐに見つめた。
ラミエル:「あの死神との契約を破棄してください。その代わり、あなたをこの地上で『聖人』として崇められるよう、我々があなたの活動を支援しましょう。あなたは、死後、必ず神に近い地位に就くことを保証します。」
神田は冷静にコーヒーを淹れ直した。
神田:「ラミエルさん。私はすでに契約を履行し、魂をリコさんに譲渡することを約束しました。契約を反故にするのは、弁護士としての倫理に反します。」
ラミエル:「契約よりも、神の意志を優先すべきでは?」
神田:「私の依頼人や、契約相手の死神リコさんにとって、不利益になる選択はできません。契約内容を誠実に守ることこそ、私の信念です。」
ラミエルは優雅な笑みを消し、顔を硬直させた。
ラミエル:「…あなたは、公正を極めるあまり、この世界の常識から逸脱しています。我々も、あなたの魂を簡単には諦めませんよ、神田正直。」
ラミエルは静かに立ち去った。神田は、カップを手に取り、独りごちる。
神田:「ふむ。死神に天界の使徒ですか。私の事務所も、随分と賑やかになりましたね。」
そして、神田は、リコが忘れていったドクロのキーホルダーを、ペン立ての横に丁寧に置いた。
第3章 閻魔の使徒と純粋すぎる魂への猛攻
1.リコの懸念と、二度目の「公正な願い」
リコは死神庁に戻るやいなや、上司のグリムに捕まった。グリムのクリップボードには、神田正直の魂情報が表示されていた。
• 魂の純度:99.9%(特A級・滅多に回収不能)
• 特性:清廉潔白、自己犠牲、倫理絶対遵守
• 回収リスク:極めて高い(天界、閻魔庁の介入あり)
リコは、天界の使徒ラミエルが既に接触したことを知って、焦燥感を覚えた。
その日の午後、リコは神田の事務所を再訪した。今回は、リコのほうから「何か願い事はないか」と持ちかけた。
神田:「リコさん。困っている人を見過ごすのは私の主義に反します。しかし、契約は一つのみという制約を、弁護士として私は尊重します。」
神田:「ですが、リコさん。もしよろしければ、『正式な願いではないが、リコさんのスキルで解決できる、公正な問題』を相談してもよろしいでしょうか?」
リコ:「は、はい!何でも!」
神田の依頼は、彼の貧しい依頼人の中に、立ち退き命令を受け、極寒の中で生活せざるを得ない老夫婦がいた。
神田:「私の願いは、『この老夫婦が、新しい住居に引越すための敷金・礼金と、最低限の家具だけを、社会の公正な枠組みの中で、誰も不審に思わない方法で賄ってほしい』。これは私の自己利益には繋がらず、社会的弱者の救済です。そして、『死神としての能力を使うという私の倫理規定に反しない、誠実な取引』です。いかがでしょうか?」
リコ:「…承知いたしました!やります!」
リコは、またもや「死神がやるべきではない、人道的で非常に手間のかかる任務」を、二度も引き受けてしまった。
2.閻魔の使徒、ザガンの来訪
リコが事務所を出た直後、赤いベルベットのスーツに身を包んだ、派手で傲慢な男が現れた。彼の背中からは、赤い稲妻のような光を放つ大きな黒い羽が覗いていた。
男:「フン。ここか。純粋すぎる魂のせいで、地獄の業火が冷え込んでいるという場所は。」
神田:「お客様。突然、乱暴にドアを開けるのはご遠慮ください。お名前は?」
男:「私は閻魔の使徒、ザガンだ。神田正直、貴様の魂を地獄に売り渡すために来た。契約を結べば、地獄の支配権の一部を貴様に与えてやろう。」
神田は冷静に紅茶を淹れ直した。「ザガンさん。恐縮ですが、地獄の支配権には全く興味がありません。それよりも、先ほどドアの蝶番が歪んでしまいましたが、器物損壊罪に当たる可能性があります。修理費を請求してもよろしいでしょうか。」
ザガン:「バカな!貴様は、地獄の王の座に匹敵する権力を提供されているのだぞ!地獄の権力を手に入れれば、貴様が助けたい『社会の弱者』など、瞬時に救済できる。強大な力こそが、真の正義ではないのか?」
3.公正さの壁と悪魔の困惑
ザガンは、甘美な誘惑を神田に囁き始めた。
ザガン:「契約しろ、神田正直。『誰もが貴様の意のままになる、絶対的な政治力』を願え。そうすれば、貴様は地上から全ての悪を取り除ける。その力は、お前が救いたい全ての者を、永久に救う。」
神田は、ザガンの言葉を熱心にメモ帳に書き写しながら、首を振った。
神田:「ザガンさん、それは承知できません。『誰もが私の意のままになる』という願いは、『人間の自由意志』という根本的な権利を侵害します。それは、私が擁護すべき基本的人権に真っ向から反します。」
神田はペンを置いた。
神田:「また、『絶対的な政治力』を得たとしても、その力を行使する過程で、必ず私の倫理観と、社会の法律との間に矛盾が生じます。その矛盾によって誰かが不利益を被れば、それは公正とは言えません。よって、その願いは私の信念と、『人や社会に害をなすものはダメ』という契約の制約に抵触します。」
ザガン:「ぐぬぬ…。貴様!欲望を持て!『この腐った世界を、貴様の理想通りに作り替えたい』という傲慢さを!」
神田:「傲慢さですか。それは、私の依頼人に対する誠実さを損なうため、取得を控えるべきだと考えます。」
ザガンは、悪魔の歴史の中で、「欲望を提案したが、倫理と法律で論破された」唯一の使徒となり、地獄に帰るしかなかった。
4.ドタバタな防衛とリコの決意
ザガンが怒りに震えながら事務所を出た瞬間、リコが半霊体の姿で、まるで「守護霊」のように神田の背後に現れた。
リコ:「神田さん!危ない!今の使徒は危険です!」
神田は振り返りもせず、冷静だった。「ああ、リコさん。閻魔の使徒という方でした。彼もまた、私の魂の譲渡契約に興味があるようでした。」
リコは、彼を護衛しなければならないと本能的に感じた。
リコ:「お願いです!私、私以外の誰とも契約しないでください!私は、神田さんの公正な願いを、誰よりも誠実に、完璧に、迅速に、叶え続けますから!だから、ぜ、絶対に、私以外の誰とも契約しないでください!」
神田:「リコさん。その熱意、弁護士として見習うべきです。分かりました。貴女のその誠実さがある限り、私は貴女との契約を最も尊重します。」
第4章 公正な引越しと、死神の不器用な恋心
1.極秘任務:誰も不審に思わない引越し資金
リコは、「微細な奇跡の連鎖」を駆使し、慈善オークションでの高額落札や、リサイクルショップからの無償寄付を誘導することで、老夫婦の引越し資金と家具を「誰も不審に思わない、完全合法的な人助け」の方法で調達した。
リコ(心の声):「よし!誰も不審に思わない、完全合法的な人助け!これが私のやり方よ!」
2.神田との距離
老夫婦の引越し当日、神田はリコが用意した「新品同様の家具と、匿名での十分な初期費用」を見て、感激した。「リコさん。貴女は本当に素晴らしい。これほどの公正かつ合法的な方法で、この問題を解決してくださるとは。」
リコは、神田に褒められることにドキドキしながら、引越し作業を手伝った。
リコは、神田が重い荷物を持ち上げるたびに、彼の筋肉の動きや、汗で濡れたシャツの背中を見て、ドキドキが止まらない。
リコは、思わず神田の持つ段ボールに手を添えた。
リコ:「か、神田さん、危ないですよ!私が『魂の契約による微細な浮遊力』で荷物を軽くします!」
神田:「おお、リコさん。ありがとうございます!これは二人で荷物を均等に持つという、労働倫理に則った素晴らしい協力体制ですね!貴女の気配りには頭が下がります!」
リコ(心の声):「労働倫理…!ち、違う!これは…ロマンスなのよ!」
3.神と悪魔の横やり
引越し作業の最中、白いスーツの天界の使徒ラミエルと、赤いスーツの閻魔の使徒ザガンが同時に現場に現れた。
リコ:「あっ!ラミエルとザガン!」
リコは、ザガンの地盤への細工を止めようと、死神のクリップボードを構え、ザガンに向かって突進。クリップボードの閃光でザガンをひるませた。
一方、神田は、ラミエルのソーラーパネルのパンフレットを、「過剰適応ではないか」と経済用語で論破していた。
混乱の中、上司のグリムが神田に「魂の回収を誘う、甘美な囁き」を放った。
リコは、神田が危ないと直感した。彼女は考える間もなく、神田の耳を両手で塞いだ。
リコ:「やめて!神田さんは、私の契約者なんだから!私の前で、他の死神と取引させません!」
神田はふと目覚め、リコが自分の耳を両手で塞いでいる状況に気づいた。
神田:「リコさん。これは…私の耳の保護という、完璧な気配りでしょうか?ありがとうございます。しかし、公共の場での過度なスキンシップは、周囲の誤解を招く可能性があります。事務所に戻ってから、契約に関する詳細な報告をお願いします。」
リコ(心の声):「ち、違うの!スキンシップじゃなくて!これは…ロマンスなのよ!でも…事務所で二人きり…詳細な報告…!ド、ドキドキする!」
第5章 事務所の密談と、契約を装う愛の攻防
1.密室での「詳細な報告」とリコの葛藤
夜遅く、神田の事務所。リコは「詳細な報告」を行っていた。
神田:「リコさん。その実行力には目を見張るものがありますね。」
リコは、勇気を出して、恋愛的な質問を試みた。
リコ:「あ、あの…神田さん。私、その、他の死神と比べて、どうでしょうか?ええと、『契約者としての相性』は、良いと思われますか?」
神田:「リコさん。貴女は、私が会ったどの『契約仲介者』よりも優れています。なぜなら、貴女は『人や社会に害をなすものはダメ』という契約の制約を、私以上に深く理解し、尊重してくださるからです。」
神田は、ラミネートされたドクロのキーホルダーをリコに返した。「これは貴女の忘れ物ですね。リコさんの『誠実さの象徴』として、大切に保管していました。さあ、お返しします。」
2.ラミエルの甘い罠:完璧な『慈善契約』
天界の使徒、ラミエルが、神田に「自分の命と引き換えに、助けを求める地球上の全ての人々の願いを、一つだけ叶える」という『慈善契約』を提案。
ラミエル:「究極の自己犠牲。天界への昇格が保証される上、リコとの契約も自然消滅します。」
神田は、ラミエルの契約書を熟読し、ペンを取ろうとする。「この契約は、私の『社会的弱者を救済する』という目標を、最大効率で達成することができます。これは、私にとって最も公正な契約です。」
3.感情的な「契約の優位性」
リコは、神田を止められないと悟り、神田の手を掴み、私情を告白した。
リコ:「ダメです!神田さん!契約の優位性で言えば、私と神田さんの契約が最も古い!それに…!」
リコ:「それに、私…私は、神田さんの魂を、地獄にも天界にも渡したくありません!私は、神田さんの魂を死神に昇格させて、ずっと一緒に働きたいんです!これは、私の個人的な願いです!」
神田は、ラミエルのペンを戻した。
神田:「リコさんとの既存の契約に、感情的な優位性があります。そして、私の魂をリコさんの未来の職務に活用するという提案は、『リコさんのキャリア支援』という形で、公正性を保ちながら社会的利益を生むと判断します。」
ラミエルは、苦々しい顔で姿を消した。
4.閻魔の使徒からの「公正な妨害」
神田は、リコに次の任務を依頼した。「企業から不当なハラスメントを受けている証拠を、誰も不審に思わない方法で、ダウンロードしてほしい。」
その瞬間、閻魔の使徒、ザガンが電気系統に干渉し、最後の罠を仕掛ける。
ザガン(声のみ):「フン。リコ。『不正アクセス禁止法』に触れる行為は、社会に害をなすぞ!貴様がそのサーバーに手を出せば、即座にその証拠を閻魔庁が『汚染された証拠』として封印する!貴様の『公正な任務』を、『合法的な妨害』で阻止してやる!」
神田:「リコさん。貴女の『誠実さ』なら、この『公正な試練』も乗り越えられるはずです。楽しみにしていますよ。」
リコは、ハッキングを合法的に行うという超難関ミッションに、ドキドキしながら挑むのだった。
最終章 公正なる魂の約束
1.最後の試練:合法的ハッキング
リコは、サーバー室に半霊体で侵入し、死神の力『微細な真実誘導』を発動させた。リコは、証拠データが保存されているサーバーラックに手をかざし、ささやいた。
リコ:「証拠よ。貴方は真実。公正を望むなら、適切な場所へ自ら移動しなさい!」
リコは、証拠データが保存されているサーバーの「真実の残留思念」を増幅させた。サーバーは過剰な負荷に陥り、エラーを吐き出すように、ネットワークの「公のアクセスポイント」に、件の証拠ファイルを『システムエラー報告』としてアップロードし始めた。
リコは、その公のアクセスポイントから、神田のUSBメモリにファイルをダウンロードした。「よ、よし!サーバーが自主的に吐き出したんだから、これは不正アクセスじゃない!」
2.天界と閻魔、最後の賭け
リコが神田にUSBメモリを渡し終えた直後、ラミエルとザガンが最後の取引を持ちかけた。
ザガン:「神田正直!リコは貴様を『昇格させて独占する』と願った。それは強欲な愛だ!その愛を受け入れるか?それとも、誰も傷つけない契約を求めるか?」
リコは涙を浮かべた。「ごめんなさい、神田さん。私の願いは…契約の制約に反するものでした。契約は…破棄しても構いません…。」
3.愛は誠実の対価
神田は静かに、しかし力強く首を振った。
神田:「私にとっての『公正』とは、『誠実さには、必ず対価が支払われるべきである』ということです。」
神田はリコに向き直り、彼のまっすぐな目でリコの瞳を見つめた。
神田:「リコさん。貴女は、私と私の依頼人のために、常に誠実に行動し続けてくれました。」
神田は、リコの手を両手で包み込んだ。
神田:「その『誠実さの対価』として、私は、貴女の願いである『私を死神に昇格させて、一緒に働く』ことを、誠実に受諾します。」
4.魂の昇華と公正な愛の始まり
神田がその言葉を口にした瞬間、彼の体から清廉な光が溢れ出し、リコのクリップボードに刻まれた契約書が、金色に輝いた。
光が収まったとき、神田正直は、純白のスーツに身を包んだ、新米死神の姿となっていた。彼の背中には、リコと同じ、半透明の銀色の小さな羽が生えていた。
リコ:「か、神田さん…!羽が…!本物になった…!」
神田は、リコへ一歩踏み出した。
神田:「リコさん。貴女の献身的な愛(契約への執着)を受けたことで、『愛こそが、私の魂にとって最も誠実かつ公正な対価である』と結論づけました。」
神田:「そして、我々のような種族は、人間と異なり、寿命の概念がない。人間と結婚し、共に生きるためには、同じ種族に進化するという制約があることも、貴女の契約書から学んでいました。」
神田は、リコの頬に優しく手を添え、彼の倫理観と愛情が完全に一致した「最も誠実な行為」を選択した。
神田:「リコさん。貴女の献身的な愛(結婚の準備に等しい)に対する、私の誠実な応答(対価)を表明させてください。私は、貴女と永遠に、公正なパートナーでありたい。」
彼は、リコの小さな体を、その完璧に鍛えられた倫理観で優しく抱きしめた。そして、永遠を共に生きるための契約の証として、深くキスをした。
リコは、頭が真っ白になり、クリップボードを落とした。
神田は、リコから離れ、額を合わせる。
神田:「リコさん。貴女との関係は、契約の枠組みを超えた、人生最良のパートナーシップであると、私は判断します。そして、これからは、永遠を共に過ごす同種族として、貴女を生涯の相棒とします。」
神田は、リコに正式な契約書を差し出した。
神田:「『死神神田正直の魂は、死神リコとの契約に基づき、リコの昇進に協力し、常に公正な取引を行うこと』。この契約書に署名をお願いします、相棒。」
リコは、顔いっぱいに涙と笑みを浮かべ、神田の隣に並び立った。
リコ:「はい、相棒!そして、私の、公正な愛の対価!」
こうして、結婚の制約を乗り越え、愛と倫理と公正さを武器に、二人は共に夜の街へと飛び立つのであった。
エピローグ
数年後、神田の『完璧な公正さ』とリコの『人間味あふれる優しさ』を武器に、二人は死神庁でトップの成績を収めていた。
グリム:「(昇進したリコと神田を見て)チッ。あのバカども、『公正な昇進』などと訳の分からない契約を量産しおって…。だが、あの純粋すぎる魂の隣にいるリコは、妙に『清廉な輝き』を増した史上最強の死神になってしまった…。」
ある日の夕暮れ。二人は、次の任務に向かうため、夜空を飛んでいた。
リコ:「ねえ、神田さん。あの時、私を『相棒』って呼んでくれましたよね?その…契約者として、それ以上の関係は…望めないでしょうか?」
神田は、いつもの真面目な表情で、リコの目を見た。
神田:「リコさん。貴女は私の『誠実さの対価』であり、私の『公正なる愛の対象』です。貴女との関係は、契約の枠組みを超えた、人生最良のパートナーシップであると、私は判断します。」
神田は、リコの手を握り、夜空を翔けた。
リコ:「(心の声)パートナーシップ…!これ以上の公正なプロポーズなんて、あるわけない!」
二人の前には、新たな『公正を必要とする魂』の光が輝いていた。
最後まで『公正なる魂の取引』にお付き合いいただき、ありがとうございました。
このお話は、「悪魔や死神が、最も誘惑しにくい人間と出会ったらどうなるんだろう?」というシンプルな疑問から生まれましたものです。人間界で暮らす死神たちに「羽」を与え、さらに「結婚には同じ種族への進化が必要」という制約を加えたことで、リコの神田正直への献身的な行動が、単なる仕事のノルマ達成ではなく、「永遠を共にするためのプロポーズ」という切実な意味を持つようになりました。
神田正直は、愛や感情ではなく、ひたすら「倫理」と「公正さ」に基づいて行動します。そんな彼が最後にセレネの願いを受け入れたのは、彼女の愛が、彼の人生における最高の「誠実さの対価」であり、「人生最良のパートナーシップ」という最も公正な結論だと判断したからです。彼の昇格は、純粋な愛の力ではなく、究極の契約倫理に基づいた選択だったと言えます。
死神、使徒、そして人間が共に生きるこの世界で、彼らはこれからも「公正」と「愛」を武器に、永遠の魂の取引を続けていくことでしょう。
この物語が読者の皆様にとって、愛や誠実さについて改めて考えるきっかけとなれば幸いです。




