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廃人たち  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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ダングルバトル・小林義弘

 ダングルバトルには、一般人より募集されたアイデアを元にした機体が登場する。機体のタイプ、武装、出力などなど……一般人が好きなようにカスタムした機体のデータが、ダングルバトル日本支部に送られてくる。

 もっとも、無制限にカスタマイズ出来るわけではない。機体のタイプ、搭載するエンジン、武器や装甲などなど……それぞれには、ポイントが設定されている。そのポイントを使い、機体をカスタムするのだ。

 このポイントは、全員が同じである。そう、全ての国民が平等な条件で機体をカスタムし競うことになるのだ。

 日本支部は、送られてきたデータを基にした機体を、グループに分けて戦わせる。もちろん、本物の機体を使うわけではない。AIによるシミュレーションだ。また、初戦は多数の機体が同時に戦うバトルロイヤル形式で行うため、運の要素も大きなウエイトを占めている。


 機体が三十二機まで絞られてくると、いよいよ本戦となる。トーナメント形式で戦っていき、優勝した機体が国の代表として選ばれるのだ。このルールは、全世界共通である。

 もちろん、こちらもAIによるシミュレーションだ。しかし、本戦ともなると戦いの模様が放送される。もちろん、CGで作られた映像だが、迫力は本物に近い。また、ベスト8以内に入った機体には賞金も出るのだ。無論、受け取るのはカスタマイズした者である。

 さらに、本戦からは賭けも行われている。優勝する機体を当てる単勝や三位までを当てる複勝など、様々なパターンがある。

 そう、このダングルバトルは合法ギャンブルであると同時に、全国民が参加できるバトルゲームでもある。さらには、死刑囚の処刑シーンも見られるのだ。

 ダングルバトルは、今や全世界で中継される人気コンテンツとなっていた。加盟国は、今や百近い。

 中には死刑制度を廃止したはずなのに、参加している国もあるくらいだ。終身刑の囚人の中から希望者を募り、マシンに乗せているのだという。

 そんなダングルバトルを、人権擁護団体は目の敵にしている。バトル開催の度に「こんな非人道的なことが許されていいのか!」などと、国会前でデモが行われたりもする。

 しかし、そんな者たちの意見などどこ吹く風とでも言わんばかりに、本日もバトルが開催された。




 マシンの基礎となるボディは、三タイプに分けられる。


 ライトタイプは、もっとも小さな機体だ。高性能のエンジンを積んでおり、空気抵抗も少ない形状だ、そのため機動性が高く、移動するスピードが速い。さらに燃費が良く小回りも利く。ただし装甲は薄く、下手すると一撃で戦闘不能になる恐れがある。また、武器や弾薬の搭載量も他のタイプより低い。

 このライトタイプの戦い方は、速さを活かすことだろう。ヒットアンドアウェイ戦法か、もしくは相手のエネルギー切れや弾丸切れを誘う戦法が有効と思われる。


 ヘビータイプは、名の通りもっとも大きく重い機体だ。機動性が低く、移動するスピードは遅い。また、機体が大きく重いため燃費が悪く、延長戦に突入すると燃料切れで動かなくなってしまうこともある。その代わり装甲は分厚く、ダングルバトルで使われる銃火器程度なら、直撃を受けても耐えられる。

 また、武器や弾薬の搭載量も多い。ただし、搭載した大量の弾薬に火器の直撃をくらい、誘爆し敗れてしまったケースも少なくない。

 このヘビータイプの戦い方は、頑丈な装甲を活かしたものになる。肉を切らせて、骨を断つ。相手の攻撃に合わせたカウンター狙いになりやすい。

 あるいは、相手の攻撃を受けつつも前進して追いつめ、その巨体で押しつぶすという戦い方もある。


 ミドルタイプは、ヘビーとライトの中間型である。機動性、装甲、燃費、搭載量……それら全ての要素が、可もなく不可もなしという機体だ。

 これといった長所がないため、有効な戦い方がない。そのため、パイロットの腕に委ねられる部分が大きい。実のところ、三タイプの中でもっとも勝率が低いのがミドルタイプだ。

 ただし、ファンの間でもっとも人気が高いのもミドルタイプである。三タイプの中で唯一、完全な人型だからだ。人型ロボットというのは、古来よりマニアの心をくすぐるらしい。

 しかも、人型でありながら足裏にローラーを付けることも可能だ。ローラーを回転させることにより、平地を高速で移動することも可能になった。無論、ライトタイプほどのスピードは出せない。それでも、ローラーが導入されてからミドルタイプの勝率は僅かながら上がった。


 今回、小林が乗っているのはライトタイプである。それも、ホバーエンジンを搭載したものだ。常に宙を浮いた状態で移動できる。

 したがって、低い壁ならば飛び越えられる。その上、動きも格段に速い。

 しかし、装甲は薄い。銃火器の直撃を受ければ、一発で破壊されてしまうかもしれない。そのため、全てはパイロットの腕次第という難しい機体であった。




「レディース、アーンド、ジェントルメン! 今回の組み合わせは、ネオタイランドVSネオジャパンだ!」


 赤いワイシャツに白いベストを着たリングアナウンサーが、マイク片手に叫んだ。

 次いで彼は、片方のマシンを指さす。


「まずは、ネオジャパンのファイターを紹介するぜ! パイロットは、闇バイトのヨシノリ・コバヤシだ! 強盗に入った先で、子供を死ぬまで殴り続けたクズ中のクズ! そんなコバヤシが乗るのは、ガラン・ダングルだ!」


 その機体は、外見からして奇妙だった。

 顔は、日本の公家をモチーフのごとき白く塗られている。右手にはご飯しゃもじのようなものを持ち、左手には銃器が装着されていた。

 しかも足らしきものはなく、上半身を四角い座布団のようなものに乗せている状態なのだ。たとえるなら、公家の子供が魔法の座布団に乗り宙を舞っている……というファンタジックな外見である。

 全体的に小柄なライトタイプの中でも、この機体の小ささは際立っている。通常のミドルタイプの半分ほどしかないだろう。

 トリッキーにも程がある機体だ──


「続いては、ネオタイランドのファイターだ! パイロットは、タイランド・マフィアの一員ナパ・ゲッソンリットだ! こちらは、敵対する組織のメンバー五人を仕留めたワル中のワル! そんなゲッソンリットが乗るのは、ムエタイ・ダングルだ!」


 こちらはというと、人型のミドルタイプだ。ムエタイ・ファイターをモチーフとしているのだろうか。頭は丸く、片目に眼帯らしきものを装着している……ように見える。手足は長く、全体的にスマートな見た目だ。武器を持っているようには見えない。

 もっとも、銃火器は全て内蔵されているタイプのものもある。ミサイルのような武器が内蔵されていれば、一発当たるだけで勝負が決まることも珍しくない。

 見た目だけでは、全てを計り知れないのがダングルバトルの怖さである。


「それでは、ダングルバトル! レディ、ゴー!」


 リングアナの声の直後、床から壁がせり上がってきた。バトルリングは、迷宮へと変わる。

 続いて、ゴングが鳴らされた。試合が始まったのだ──




「クソ、何だよこれ……こんなの、聞いてねえよ」


 小林は、コックピットで泣いていた。涙と鼻水を垂れ流しながら、赤子のようにわあわあ泣き喚いている。彼の操るマシンは、ひたすら相手から逃げ続けていた。

 今の自分には、両手両足がない。しかも、こんな体でマシン同士の殺し合いに参加させられている……その事実が、小林を完全に狂わせていた。

 そう、ダングルバトルに出場する死刑囚は、みな両手両足を切断されコックピットに入れられる。だが、その事実を知っているのは、ごく一部の人間だけである。一般人には、知らされていない。

 ダングルバトルのパイロットに選ばれたことを知った死刑囚は、大半の者が狂喜乱舞する。勝てば、しばらくの間は生き延びられるのだ。さらに十連勝すれば、特例として恩赦が受けられる……つまりは、自由の身になれるのだ。

 ところが、両手両足を切断されマシンに乗せられた時、初めてダングルバトルの恐ろしさを知る。そのショックだけで、おかしくなってしまう者も少なくない。

 もっとも、これはまだ序の口である。本当の恐ろしさは、これからなのだ──


 小林の機体は、スピードを活かして動き続けていた。相手の位置は、今のところわからない。半径二十メートル以内に敵がいれば、探索機能が反応し教えてくれる。だが、今のところ反応はない。

 ホッとして、マシンを停止させる。だが次の瞬間に探索機能が反応し、警告音が鳴り始めた。

 敵が近くに来ている──


「うわあぁ! よ、よるなあぁ!」


 叫んだ直後、小林はマシンを浮上させた。一気にその場から離れる。

 しかし、警告音は鳴り止まない。それどころか、ますます大きくなる。この探索機能は、相手がこちらのカメラアイの視界に入っていない時のみ作動する仕組みだ。おそらく、壁を隔てた先にいるのだろう。

 このまま直進すると、通路は右に折れる。


 ひょっとしたら、敵はその右折した先にいるのではないか?


 その考えが頭を掠めた瞬間、小林はマシンを急停止させた。すぐさまマシンの向きを変え、一気に加速する。

 警告音は、徐々に小さくなっていった。敵から遠ざかっているのだ。

 もっとも、このまま逃げ続けても何も得られない。それどころか、待っているのは確実な死だ。そう、二体とも生き残ってしまった場合、どちら破壊されてしまうのである。もちろん、パイロットも死ぬ。

 にもかかわらず、小林は戦わなかった。彼の乗るマシンは、ひたすら逃げ回っているだけだ。その様は、小人の公家が魔法の座布団に乗り、空を飛び回っているようなユニークなものである。

 しかし、賭けている側から見ればユニークでも何でもない。中継しているネット番組は、罵詈雑言のコメントで溢れていた。


(真面目に戦えよ)


(これじゃ下手すりゃ時間切れだぜ)


(やめてくんねえかな)


(小林の本戦負けに賭けてたのによ)


(これじゃ延長だぜ)




 小林は、必死で逃げ続けた。と、その耳にアラームが響き渡る。同時に、声が聞こえてきた。

 

「今、五分が経過しました。本戦終了です。これより、延長戦へと突入します。もし、延長戦の五分で決着がつかない場合、双方のマシンを破壊します。一刻も早く、決着をつけてください」


 AIにより作られた女性の声が、小林に警告していく。同時に、モニターにも同じ文章が表示される。

 だが、小林は見ていなかったし聞いていなかった。彼は、バトルリングの中をひたすら逃げ惑うだけだ。

 恥も外聞もなく怯え、逃げ惑う。あるいは、度を超えた凶暴さを発揮し人を殴り殺す。そのどちらもが、自分の中に芽生えた恐怖心を制御できなくなった時に現れる現象だ。

 少年を殴り殺した時の小林は、闇バイトの指示役を恐れていた。このまま終わらせては、何をされるかわからない……そう思ったから、少年を殴った。殴り続けた結果、少年は死んだ。

 今の小林は、ダングルバトルへの恐怖に支配されていた。相手からの攻撃に怯え、ひたすら逃げ続ける。

 そんな彼の態度に、ネットは罵詈雑言のコメントで溢れんばかりの状態であった。


(おい小林ちゃんとやってくれ)


(バトルしねえのかよ)


(なんたコイツ)


(どうしようもねえ)


(しょせん闇バイトか)


(マジで逃げ続ける気なのか)


(久々に処刑人登場になりそう)




 そんな状況にもかかわらず、小林は必死で逃げ続けていた。戦いに勝ち残らねば、訪れるのは確実な死である。ならば、一か八か戦った方がマシ……そんな判断能力すら、今の彼からは失われていた。

 だが突然、機体の動きが停止する。


「お、おい! どうしたんたよ!」


 必死で叫ぶが、機体は動こうとしない。さらに、モニターから無慈悲な声が聞こえてきた──


「ただいま、延長戦が終了しました。これより、処刑人を投入します」


 直後、障害壁が次々に降りていく。床の中に収納され、リング上は再び更地となった。

 同時に、設置されている扉が開いた。現れたのは、ひときわ大きなロボットである。全身を真っ赤に塗装された人型の機体で、ガトリングガンを構えている。

 そう、このロボットこそが処刑人と呼ばれているマシンだ。パイロットは乗っておらず、全てAIが操縦している。

 処刑人は、両者めがけ発砲した。


 ふたつの機体は、凄まじい銃弾を浴びた。もう、避けることも防ぐことも出来ない。

 土砂降りの雨は、時として山の形すら変えてしまう。同様に、処刑人の銃弾の雨は、二体のダングルの形状を一瞬で変えていった。腕は消し飛び、装甲は(えぐ)れていく。

 もちろん、その銃弾は中にいるパイロットの肉体も容赦なく破壊する。いや、破壊などという生易しいものではない。頭を破裂させ胴体を引き裂き、ひき肉のような形状に変えてしまうのだ。

 ほんの数秒で、ふたつの機体はスクラップとなった。


(久々の処刑人だ)


(ありゃヤベェよ)


(小林の奴ひき肉になっちまったな)


(小林にゃひき肉がふさわしいよ)


(クソひき肉だぜ)


 




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