77話 出奔娘の捜索③
「すいません、その……隊長さんの口ごもる感じはどういったことなんでしょうか……?もしやウチのリンが何かしでかしていたりしたのでしょうか……?」
「いやぁ、まあ……結構ユニークな方ではありますよね」
「やっぱり何かされたんですか?!変なこととかされませんでしたか?!」
「変なこと、というのはよく分かりませんが、それなりに面白い夜を過ごさせてもらったのです」
「面白い……夜?」
一瞬にしてリンと過ごした一昨日の夜が脳裏を駆け抜けていく。
「何があったか聞いても……?」
「もちろんもちろんなのです。ヒューガさんの杖探しを依頼された日ですね。あの日、先ほども言いましたように寝る間を惜しんで色々調べていたわけなのです。すると、事務所の玄関付近から物音が聞こえてきたわけでありまして、それがリンさんだったのです。聞くところによると、ヒューガさんから暴虐を受けたため宿を飛び出し、街を徘徊していたところ、〈治安維持隊〉という看板を見つけたらしく、それで思わず駆け込んできたというのです。その頃はすっかり真夜中で見て見ぬフリというのも忍びなく、マルティアがいつも使っているのでも良ければどうぞ、とベッドを提供したところ、リンさんが一緒に寝ようと提案してきたのです。しかしベッドは1人用で狭く、またもう少し調べ物をしたかったため、最初は固辞していたのですが、リンさんの目が腫れているのを見て……何と言いましょうか、こう居ても立っても居られなくなってですね。結局一緒に寝ることになりました」
「……は?」
あの淫乱娘!やっぱり私じゃなくてもいいんじゃないんですか!まだ会って1日も経っていない人と一緒に寝るなんてどんな神経してんですか!
というか私の言動が暴虐ですか……。よもや隊長さんに脚色して話をしているわけではないでしょうね。厨二病と勘違いされるだけに飽き足らず、傍若無人娘などと思われるのは御免なんですが……。
「久々に1人ではない夜を過ごし、そこでリンさんと色々お話をして、そして……心細かったんでしょうね、ベッドにいる間、マルティアはずっとリンさんに抱きしめられていました。それも人の暖かみというのを思い出すことができてとても心地が良かったのです。珍しく意義のある夜を過ごさせてもらったのです」
「……」
なんだろう、この気持ち。私がリンのことを友愛的に好きというのは認めた。友人。友人が何をしようと止める権利はない。リンは私だけのモノでもない。
ないのに……どうしてか、もやもやする。
「……リンがご迷惑をおかけしていないならいいんです。ところでリンはどこにいるんですか?この事務所にまだ滞在してしまってるんですか?」
「いえいえ、その次の日の朝に何か思い立ったように外へ駆けていきました。それからの消息は残念ながら分かりません……すると皆さんはリンさんの捜索を依頼するためにここへ来たのですね?」
「ええ……」
「ではそちらも杖探しと並行して行わせていただくのです」
「そんな!悪いですよ!2つも同時並行なんて……」
「だいじょーぶです!任せてください!なんせ暇ですので!」
「助かります……!しかしモルゲンに来てからというもの隊長さんにはお世話になってばっかりですね……」
「それが仕事ですので!」
隊長さんは警官に憧れた子供のような敬礼をしつつ、ほわほわとした笑顔を見せる。
「ところで……」
「はい、なんでしょう?」
「聞いてもいいか分かりませんが……」
「年齢のこと以外ならなんなりと!」
と笑顔を崩さず、シュウを一瞥する。
「この事務所ってどうして……その、ボロボロなんですか?」
「あー、それはですね……」
やっぱり聞かれたか、と言いたげな顔に、苦笑のニュアンスが混ざっている。
隊長さんは頭をぽりぽりと掻いて、上目遣いで私を見てきた。言いにくそうである。聞いたらマズいことだったでしょうか。
「ただ単に治安維持隊はお金の余裕がないというだけなのです。公僕ですしね。そのためこんな辺境の地にまでお金をかけることはできないのです。お上は重要な都市に設備や人員を重点的に投資します。当たり前ですが、重要な都市には重要な人物が住み、重要な施設が配置され、重要なモノが保管されており、治安維持が他の街よりも特に求められるのです。といってもモルゲンの場合、その真逆の現象、つまり社会的価値が低い街だから安価に済ませよう、というようなことが起きているわけではないのです。見捨てられた……いえ、失礼しました。そうですね、治安維持の必要がないのです。言い換えれば、隊が駐在する意味もないのです。モルゲンは優れた魔法技術によって防犯対策が高度になっていますし、犯罪など起こることはほとんどありません。そういった事情もあり、なんとなんとモルゲンの治安維持隊はマルティアだけなのです。お山の大将とでも言いましょうか、隊長なんて名ばかりの役職ですよ……。隊長会議に今まで呼ばれたこともありませんし……。もっともマルティアは繰り上がりで隊長になっただけなので中身も伴っていないですし……」
そう言って隊長さんはしょぼしょぼと、まるで出かけて行ってしまう飼い主を玄関で見送った後の子犬のように首を項垂れた。
仲間もおらず、1人でこの街にいることになるなんて寂しすぎます。隊長さんの上司は何を考えてここに配置させたのでしょうか。
「……」
慰めるというのもなんだか違う気がして私は無言。
すると隊長さんは憂鬱な気持ちを振り払うように頭を振り回し、また先ほどの笑顔に張り替え、
「……申し訳ないのです。こんな長ったらしく話してしまって、しかもこんな私事の暗い話」
「いえいえ、聞いたのは私ですから……」
「……よし。ではでは!いずれかの情報が分かり次第また連絡するのです!またお会いしましょう!」
隊長さんは自分を慰めるように、いつも通りに戻させるようにそう言った。
モルゲンにいる間、少しでも多く隊長さんのところに行こう。いえ、可哀想だからというような上から目線的感情からではなく、こんな環境でも爛漫な笑顔を咲かすことができ、逞しく生きていらっしゃるということに尊敬し、色々と学ばせてもらうために。




