76話 出奔娘の捜索②
モルゲン在住のハランさんを先頭に、一列下がって、私と寝ぼけ眼をこするテンユちゃんの手を引くシュウは横並びで歩いている。
昨日は呆然とただこの街を歩き回っていただけですが、心が戻ってきたところで辺りを見渡してみると、やはりと言うべきか趣深いものを感じる。革新都市と呼ばれているのに気取っていない外装、便利が蔓延しているだろうに未だ人と人とが深く繋がり合っていると感じるような爽やかたる賑わい、そして謙虚で質素にも思える古典的な建物群──ん?
「あんな建物ありましたっけ?」
私が指差した方向に皆の視線が集まる。
そこには教会のような装飾と荘厳さを持つ、天へ突き刺すように三角に尖った屋根の巨大な建物。
窓から漏れ出る人工的な光を見るに、文化財的な建造物などではなさそうである。
「……いや、どうだろうか。あったかと聞かれたならばあったとも思えるが、なかっただろ?と付加疑問的に聞かれたならばなかったとも思える」
つまりどっちなんですか。
「うーん、そうだねぇ、あんなおっきいのあったらきづかないはずなさそうだけど……」
「なかった……気がする。いや、どうだろ。あったかも。街の景観とかあんま気にしてないからなー」
ハランさんが分からなければもう誰も分かりません。こういうのなんて言うんでしたっけ。いつも見ているのに大きな変化に気づきにくいみたいな……アハ体験、じゃなくて変化盲?
まあそれはいいとして、私たちが本当に見落としていた可能性も捨てきれませんが、もしなかったとしたらあんな巨大な建物をとんでもない速さ、1日ちょっとで仕上げたということになります。革新都市ですし、あり得なくはないんでしょうが……どうしてそんなに急いで建てる必要があったんでしょうか。
余程お金を持て余したせっかちさんがいたんですかね。
「あんだけ大きかったら名物にでもなっていそうですが……」
「俺は知らないぞ。でも現地民だからこそ知らない名所っていうのもあるんじゃないか?俺らはありきたりな風景としてしか街を認識してないからさ、その風景の中にある1つを特別視しないんだ。実際、他の街から来たヤツの方がモルゲンに詳しいってこともざらにある。まあそいつらはここに来るのが目的で色々調べてくるわけだから当たり前と言えば当たり前だけど」
「なるほどな。世界を人類として内側から見るより、創造神たる主のように外側から鳥瞰するように見た方が端から端までを把握することができるというわけか」
岡目八目ってわけですね。
「折角ですし、あとで覗いてみましょうか。観光名所だったりするのかもしれないですし」
3人は肯定的な返事を私によこし、また前を向いた。
「あらぁー!わざわざご足労頂いてー!申し訳ないのです、このような場所に来ていただいて」
治安維持隊の事務所であるという、なんとも隊の財政状況に涙を禁じ得ない粗末な建物に入ると、物音に気付いたのか、隊長さんが奥からひょっこりと顔を出し、そして訪問者が私たちであることを認識し、すぐにてこてこと近寄ってきてくれた。
「あの件における進捗の報告でしょうか?」
「すいません、なんだか急かしてしまっているみたいで……」
「いえいえ、全然!あの杖はヒューガさんにとってとても大切なモノのようですしね!気持ちが逸るのも当然です!一応、分かったことがあるのですが……」
「1日で?!仕事早っ!」
一応、と前置きがついていたところを聞き逃さず、私は腹を括った。
「ええまあ、この街じゃあ特にこれといった事件が連続したりしないのでありまして暇なため、この件くらいしかやることがなく、寝る間も惜しんで傾注していたところ……ある事実が分かりました。いえ、分かってしまいました」
「それは……?」
「この街の市場、そして周辺の街、あるいはそういったマニアが集まるような街にもヒューガさんの杖が売りに出されているということは確認できなかったのです。つまるところ……消息が不明なのです」
「そう……ですか」
売りに出されていたなら買い戻すことができ、またその流通経路を辿れば犯人と邂逅を果たし、叩きのめし、慰謝料くらい分捕ることができたのですが……。
犯人の個人的趣味の蒐集品として飾られていたりするんでしょうか。残念です。
「申し訳ないのです。まだまだ時間がかかってしまいそうで……」
「いえいえ!隊長さんが謝ることではありません!悪いのは盗んだヤツなので!」
「ありがとうございます。引き続き尽力するのです!」
「よろしくお願いします!……っと、いけません、今回の訪問はソレが目的ではなくてですね……」
「そうでしたか!早とちりしてしまいました!では、ひょっとすると……目的というのはリンさんのことについてではないですか?」
「そうです!なぜ分かったんです?!」
なぜか話が全て先回りされますね……。
隊長さんはテレパシーでも使えるんですか?リンが現在ここにいないことから推測したんでしょうか。隊の長だけあって鋭い観察眼をお持ちのようです。
「あぁ、えーっと……ヒューガさんとリンさんは喧嘩をしたとか……」
「えっ!なぜそんなことも?!」
「実はですね、一昨日ヒューガさんから逃げてきたというリンさんがマルティアの元へ来まして……」
確かに……隊長さんはリンにとって、というか私もですが、この見知らぬ街で唯一の知り合いですもんね。
頼るとなれば必然的にそうなるでしょうか。




